帰郷

「あぁ…ご飯を買いに行ってたの」

アイシャが帰ると、既に起きていたヴェラがアイシャを一瞥し、口にする。

なんだか浮かない顔をしている。


「そうそう。ヴェラどうかした?」

アイシャは疑問に思い尋ねる。


「あぁ…。いや…なんでもない。というか誰と話してたの?」


「お隣の人。なんかルクス村にいる妹に会いに来たって。ミライさんって行って。元気な人だった」


「へぇ…。そうか。なるほどね」

ヴェラのこういう反応は珍しい。今更2人は誰かに嫉妬し合うような間柄でもない。


「んー?変なヴェラだね」

アイシャは首を傾げる。


「大丈夫。と、それより、ご飯買ってきたんでしょ、私もお腹すいたから買ってこようかな!」

そういってヴェラは席を立ちかける。


「あ!ヴェラの分も買ってきたよ!果物食べるかなって!」

そう言いながら、袋から果物を取り出す


「そうか…ん。じゃあもらおうかな」


「はいどうぞ」


「ありがとう」


アイシャから受け取った果物を無言で剥いてかじる。

そんなヴェラの反応を珍しがりつつも、アイシャもまた、自分のために買ったサラマラを取り出して、食べ始めた。





めいめいに軽食した後はルクス村の最近はどうなっているか、などと2人で予想を話し合った。帰郷するのは半年ぶりになるが、今回はどんな変化が待っているだろう。


話し込むうちに、電車がルクス村に着くという知らせを耳にし、2人は荷物を片付けコンパートメントをあとにした。


ヴェラはその際に隣の、ミライの居るはずのコンパートメントを覗いたが、既に席をたった後だった。



ルクス村に降り立つと、風に乗った微かな海の香りと、広がる自然が鼻をくすぐる。

見慣れた情景はどこか安心感があり、ヴェラは深呼吸をして、また、歩き出す。


改札で切符を見せると、顔見知りの駅員に、

「おかえりなさい。半年ぶりですか?」と声を掛けられ、「そのぐらいだと思います」とアイシャは立ち止まり口にする。ヴェラはというとただいまーと手をひらひらさせ、横を通り抜けていった。




駅前の広場をぬけ、市街地に歩き出す。

途中でお気に入りのお店に寄り道したり、見知った顔に出くわしたり、久しぶりだねぇと声をかけられたり、期せずして暫く王都では感じることのなかった、人の暖かさというものを、めいっぱいに受け取ることとなった。


ルクスフォード家とザハルナッシュ家はそう遠くないが、途中で道が別れる。今日はそれぞれ家に帰ろうと話していたこともあり、アイシャは分岐する道に差し掛かった頃に、またあしたね、と、告げる。


「アイシャ、耳貸して」

ヴェラがアイシャを見つめて言う。


アイシャは無言で少ししゃがむと、ヴェラはアイシャの耳元で囁く。


『今回帰ってきた目的は、誰に聞かれてもただの帰郷ということにして』


そう口にしたあと、多分私の考えすぎだけどね。と、微笑む。


じゃあ、また明日迎えに行くよ、と、ヴェラは告げ、家に帰ってゆく。


ヴェラがそう言った意味を考えながら アイシャは、帰路に着いたのだった。

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