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教室に着くと、半分以上の席が埋まっていた。自由席らしく、みんな座っている席がグループ毎にまとまっている。俺たちは、運良く空いていた一番廊下側の後ろ3席に固まって座った。勿論席は、一番窓側後ろに麻衣、その横に俺、麻衣の前に朱夏と鉄壁の布陣だ。
「二人はさ、CADどんな感じにするかもう決めてる?」
席に着くと、すぐさま朱夏が話しかけてきた。
CADはアビスへ対抗する切り札である為、
不当に所持していれば、罰則があるぐらいだ。
そして、その例外となるのが、俺たち装者学園の学生だ。
CADの操作に慣れなければならない為、入学時にCADが配布される。
と言っても、配布されるCADは全て「吹雪」なのだが。
朱夏が言っている“どんな感じ”とは、「吹雪」の設定をどうするか、だ。
CAD「吹雪」は、その汎用性によりADFでも正式採用されている。
基本装備では、全体的なステータスのバランスが良く、新人から熟練者まで幅広く使われている。
「私は決めてますよ。適性試験の結果が狙撃Bだったので、狙撃装備にしようと思っています」
学園の入学試験は、通常の学科試験に加えて、適性試験が課せられている。
これは、防衛、近接、射撃、狙撃の4項目について、VR技術を利用した試験を行う事で、学生の適性を測るといったものだ。
この結果は、学生証の裏に記載されており、もちろん俺の物にも記載されている。
「狙撃Bってすごいね!私は、近接Dでそれ以外はEだったから近接装備一択だね。身体を動かすのは好きだったからかな!優人は?」
この評価は、Sが歴戦装者相当、Aが中堅装者相当、Bが装者相当、Cが第2学年相当、Dが適正あり、Eが適正無し、といった基準になっている。
つまり、麻衣の狙撃Bというのは、狙撃分野においての適性だけでなく、相当量の力量があると認められた、という事になる。
もちろん、あくまでシミュレーションで、加えて入学試験レベルに落とされての結果であるため、目安でしかないのだが。
基本的に、新入生のほとんどはDランクが1つで、以前から武術などを修めている人がCランクを獲得している。
そんな中でBランクを獲得している麻衣は、とても優秀で将来有望と言える。
実際に麻衣が狙撃銃を使っていたことは無いので、これが純粋な才能で出した結果と言えば、凄さが伝わるだろうか。
「俺は、オールDだったからな……無難に初期装備でいいと思ってる」
「オールDってのも珍しいね」
「そうかな?意外とありそうだけど……」
最初はオールEだったから、Dになってて嬉しかったのは秘密だ。
それぞれの机に備え付けられている端末から、CADの設定画面を選択して入力を始める。
設定といっても、あらかじめ学園が設定している適性に合わせたプリセットを選択するだけだ。変わる事と言えば、ヘッドセットにインストールされる一部ソフトと武装くらいだし。何にするか決めていれば1分もかからない。
「そういえばさ、この学園って特殊武装の申請って出来たよね」
「そうですね。売りの一つでしたけど……朱夏は何か申請したいんですか?」
特殊武装。読んで字のごとく、通常の装備とは違う武装のことだ。通常の武装というのは、プリセットで装備されている銃なら突撃砲や狙撃銃、近接武器なら刀剣類や盾のことである。特殊武装は、その分類に当てはまらないものを指す。
この学園はそういった武装の実験施設的一面もあり、そこから正式採用された武装もある。ドリルやシールドピアース、銃剣などがその例だ。
「あのね……連結刃って知ってる?」
「蛇腹剣って言われてる武器だっけ?いつもは剣だけど鞭みたいにも使えるようになるってやつ」
「お!優人詳しいね、そういうの興味ある?」
「まあ、男の子だからな。少しくらいは」
実は、結構興味がある。
家に「CAD大全」や「適性と武装について」なんて本が置いてあるくらいだ。
「いいね!それでね、私って結構新体操やってたんだけど、それを生かせないかなーって考えてて。適正試験の時から射撃はからっきしだなって思ってたから」
確かに、装者の多くが何かしらの武術や技能を習得している。そうでなくとも、自分の得意分野を生かそうとするのは、装者として成長する上で重要な因子だ。
「だから、色々調べてたら連結刃を見つけて、私にピッタリだって思ったんだ」
「確かに、連結刃って正式採用武装には無かったもんな」
「そうだったんですね。確か、端末から申請出来るはず……あ、今はグレーアウトしてますね」
「そっかー、残念」
ガクッと肩を落とす朱夏。
そうして、端末を眺めつつ二人と話していると、時間になったのかアタッシュケースを持った長身の女性と小柄な女性の教員が入ってきた。
「全員、静かに!ホームルームを始めるぞ!」
長身の教員がそう言うと、騒々しかった教室が静まる。
満足そうに一つ頷くと、教卓の端末を操作し大型スクリーンを起動する。
「私は諸君らBクラスを担当する須藤冬美だ。主に装者関連科目とCAD実技を担当する。階級は中佐だ」
鋭い眼と冷たい声色に威圧感を感じるが、その表情は柔らかい。左手首に着けられたCADから、彼女が装者であることが分かる。
「私は副担任の綾辻京子です。一般科目が主ですが、CAD実技は須藤先生と共に担当します。階級は少佐です」
こちらも柔らかな表情で、灰色のショートカットとオーバル型の眼鏡が良く似合っている。同じく左手首に着けられたCADが、彼女も装者である事を示していた。
「さて、まずは入学おめでとう。男子3名を含むクラス定員32名が揃った事を嬉しく思う」
教室を見回しながら、よく通る声が響く。
再度教卓の端末を操作すると、いくつかのタブが表示される。
「入学式が終了して早々だが、諸君にはいくつか行ってもらいたいことがある。これから表示するものは全て諸君の端末へ共有しているため、期限までに実施するように」
タブを一枚ずつクローズアップしながら、須藤先生が説明をしていく。
「まず、カリキュラムについてだ。共通科目の確認と、適正科目の選択をしてほしい。複数科目の選択も可能だが、その場合は諸君のより一層の努力に期待することになる。来週一週間は体験履修が可能なので、その結果を踏まえて来週金曜日までに登録するように」
「次に、諸君へ支給されるCADに関してだが、既に入力している者もいるように適性に合わせた武装を今日中に選択してほしい。なお、選択に関して質問がある場合は相談に乗るため申し出るように」
そう言うと、適性に合わせた装備一覧とプリセット武装が表示される。
初期装備:刀剣類×1、突撃砲×1、支援突撃砲×1、盾×1、小刀×1
近接装備:刀剣類×2、突撃砲×1、盾×1、小刀×1
射撃装備:突撃砲×2、刀剣類×1、盾×1、小刀×1
狙撃装備:狙撃砲×1、支援突撃砲×1、盾×1、小刀×1
防衛装備:支援突撃砲×1、刀剣類×1、展開シールド×1、小刀×1
「加えて、本校では特殊武装が端末から申請可能であるが、これに関しては1週間後から解禁となる」
須藤先生の言葉に朱夏が肩を落とす。
━━どんまい、朱夏。
「最後に、今後の予定に関してだ。授業の開始は日曜日を挟んで、来週の月曜日からとなる。それまでは、校内オリエンテーションやCADオリエンテーションを実施する予定となっている。CADはオリエンテーション時に支給となる」
学園内には、普通科高校でもあるようなプールや図書館、広い運動場に加え、CAD実技が可能なアリーナが3つ、VRシミュレーションルームが多数あるVR棟など多くの施設が広大な敷地に設置されている。新入生がオリエンテーション前に歩き回って迷子になったのは、嘘のような実話だ。
「さて、私から伝えることは以上だ。質問に関しては綾辻先生の話が終わったら受け付ける……では、綾辻先生お願いします」
須藤先生はそう言うと教卓を綾辻先生に譲り、窓側へ移動する。
「私からは主に、一般科目と学園の制度について説明します。説明した内容は先ほどと同じように、皆さんの端末へ共有しています」
今まで表示されていたタブが消され、新しいものが開かれる。
「まず、一般科目についてですが、装者関連の授業もあるため、一般科目の授業進度は一般校よりも速いことを覚えておいて下さい。授業評価は課題提出によって行うので、提示された課題は期間内に必ず提出するようにして下さい」
改めて見たカリキュラム表は、ビッシリと文字で埋め尽くされていた。
学園の授業は、週6日制で土曜日のみ午前授業となっている。
1コマ60分で、午前に3コマ、午後に4コマの構成だ。
「また、課題は事前に端末で配布しているので、課題を提出し終えている学生は特例として、そのコマに対応した授業を免除します」
これが、普通の高校と座学面で一番違うところだろう。
一般科目に加えて、装者科目を3年間で仕上げるのは時間的にかなり厳しいものだ。
普通科で3年間かけて学習するものを2年間に凝縮してなお、時間的に余裕がないというのが学園側の厳しい状況を示している。
装者の数に余裕があるとは言い辛い現状であれば、なるべく早く戦力を育てたいと考えるのは当たり前だ。
だからと言って、一般科目を疎かにすれば、基礎が出来上がっていないため、どこかで必ず不具合をきたす。
そんな状況で考え出されたのが、課題提出制による授業免除だ。
課題を提出できれば、空いた時間をVRシミュレーターなどの訓練に充てられる。
事実、大半の学生が課題を提出することで時間を捻出し、装者科目の自習に充てている。
そういった背景があり、入学時の学科試験のレベルが最難関といわれているのは、仕方のない事だろう。
「次に、学園の制度に関してですが、皆さんご存知の通り本校では“バディ”制度を取り入れています。初回のバディ申請は来週1週間を期限とし、以降各学期最初の週が期限となります。なお、基本的にバディは学期を通して変更は出来ませんが、相手との致命的な不一致もしくは、退校などの事情がある場合に限りバディの変更を認めます」
「部活や委員会の申請は、オリエンテーション後の来週いっぱいが勧誘期間なので、来週金曜日を期限とします。校内施設に関しては、オリエンテーション後から使用可能になるので、それまでは使用出来ません」
「最後に、皆さんにはCADの他に携帯端末が支給されます。これは、学園からの連絡や学園関係者間での通話・メールも可能です。ここから課題を提出や学園施設の使用申請なども可能なので、活用して下さい。演習などでの情報共有もこちらで行いますので、紛失・破損の場合は直ちに申し出るようにして下さい」
タブに表示されたのは、少し頑丈そうな携帯端末だ。
タッチパネル式なのは勿論、ホログラム表示対応という高性能ぶりだ。
「私からのお知らせは以上になります」
「綾辻先生、ありがとうございます。では、端末を支給する。通路側の学生から、学生証を用意して一人ずつ前に来るように」
学生証を手に前へ出ると、アタッシュケースから出した端末に認証させ、手渡される。
「……全員、行き渡ったな?堅苦しいことはこれで終了だ。最後に、諸君の自己紹介をして、本日のプログラムは終了だ。そうだな……廊下側の学生から始めよう。名前と適正、あとは何でもいいから一言を添えるように」
そうして、須藤先生の言葉で一気に騒がしくなった教室で自己紹介が始まった。
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