6.嵐の夜に、刺客来たれり?
6.嵐の夜に、刺客来たれり?(1)
8月3日未明。
非常に強い台風十一号は、櫻河艦艇群を直撃した。
暴風大雨洪水、波浪。もう、しっちゃかめっちゃか。
おおむね艦艇群気象台の予想通りの状況。病気療養者の医療艦移送や九番艇からの食料物資配給も済んでいる。
しかし、一点だけ予想外の事態があった。
「ねえねえ早蕨くん、警戒情報の送信が上手くいかないんだけど、見てくれない?」
「またか。なんか調子悪いんだよなあ」
昨夜から、艦環の通信が妙に遅い。
二席の影響で機械に強めの早蕨くんにヘルプを出すも原因が分からず、八番艇の補佐官に助けを求めても、そもそもそのメッセージ自体が送信できない。
「明日海、情報発信の定刻過ぎてるぞ、どうなってる?」
「すみません一席、全然繋がらなくて……」
櫻河の通信は全て艦環のネットワークを使っている。つまり、全部繋がらない。
私の右目も、実はあんまり調子が良くない。
自治官舎の中でしか動かないから支障はないけど、ほとんど見えてないに等しい。
あまりの繋がらなさにしびれを切らした鴎六席が燈さんを伴って十二番艦に状況を見に行ったけど、いつ帰ってくることか。
そうかと思えば二席がなにやら大きな機械を引っ張り出してきた。
「通常回線は落ちてるみたいだから諦めて、一旦有線で繋がるか試してみようと思って……早蕨、そっち持って」
埃をかぶったそれは、優先型の艦環……固定端末だそうだ。二十年以上前、艦環が普及していなかった頃の物らしいけど、よく残してあったと感心する。
「台風で艦環が調子悪くなるのは稀にあるからね。さて、セッティングにちょっと時間がかかるから、待ってて」
ますます強くなる雨風に、自治官舎の扉が激しく唸る。
普段は個人の艦環からデータを吸い上げて状況を把握しているので、それがないとなると急に不安になる。
「一席、艦内の巡回でも行きますか?」
「迷うけど……今出るのはちょっと危ないかなあ」
確かに吹き飛ばされそうな気がする。
さっき出ていったばかりの六席と燈さん、大丈夫かな。
心配になってドアを見つめていたら、不意にそれが開いた。
「うわっ⁉」
とんでもない勢いで雨風が吹き込み、床がびちょびちょになる。なんで二重扉にしなかったのか、恨みそうなほど。
「馬鹿! 早く閉めろ!」
二席の叫びによって駆けだした早蕨くんがドアを閉め、やっと静寂が訪れる、ことはなかった。
「……千世さん?」
どうやら、ドアを開けたのは千世さんだったらしい。全身ずぶ濡れで、一体なにをしに来たのか。
「すみません、不用意にドア開けちゃいました」
「いやまあそれはもういいわ……なにしに来たの?」
一席は呆れ顔だ。
「なんか、ここでの台風、すごい怖くて……。色々調べたくてもコレ、なんか繋がらなくなっちゃうし。それで、紫さんここにいるかなって」
艦環を指して不安そうに言われたら、補佐官としては責められない。
そりゃそうだ。怖いよね。
「ええと。艦環は今通信が不安定になってます。で、ここは自治官総出の修羅場状態なので、とりあえず奥の仮眠室ででも休憩しててください。案内しますから」
大人しく頷いてくれた千世さんを誘導しようと動いたところで、一瞬電気が消えた。
「停電?」
「いや、大丈夫そうだ。念のためシステムを――」
一席の指示の途中で、また消えた。
そして、今度は点かない。暗闇だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます