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「なんか、かなしいね」
いつの間にか筆に持ち替えていた手を止めていた。視線はすぐ近くの白い彼岸花には向いていなくて、遠くをぼんやり眺めているみたいだった。
「赤い中に、一つだけ白」
それが白い彼岸花のことを言っていると理解するのに数十秒かかった。
「あの白い子、来年も同じ場所に咲くのかな」
「………どうだろうね」
はっきりと答えることができなくて濁した。きっと咲かない。あれは突然変種に近いものだから。
「白い個体は、標的になりやすい」
「標的?」
「そう。だから、生き残れない」
断言したみたいだと感じ「かもしれない」とすぐに付け足した。
「学校のウサギは白い子もいるよ?」
「元から白い個体なら問題はないんだよ」
遺伝子情報の伝達異常による色素の欠乏は、動物にも起こりうる事象だ。俗にいうアルビノと呼ばれるものたちで、突然変異の白い個体。それは稀に人間でも起こりうることもある。白、という色は自然界に滅多にない。白い個体は色が目立つため、周りの景色にうまく溶け込むことが出来ず敵に見つかりやすい。子どもの頃に死んでしまうことが多く、珍しいと言われている所以だ。
「ねぇ。ひとつ聞いてもいい?」
「どうぞ」
結衣はスケッチブックから顔を上げて雪彦を見た。いったん開いた口を、やっぱりやめよう、というふうに閉じる。けれどまた、ぐっと歯を食いしばったと思ったら、思い切り口を開いて、喉咽に留まっていたであろう声を押し出した。
「雪お兄ちゃんは、アルビノ、じゃないんだよね?」
なにかに縋るように大きく開かれた目に、吸い込まれそうな感覚に陥る。引き込まれないように遠くに視線を移し、瞼を下ろす。ゆっくりと息を吸って、吐いた。
「…………どういう意味だい?」
低い声が出た自覚はあった。しかし彼女は動じなかった。
「雪お兄ちゃん、色白だから」
笑いを堪えることができず、ふふっと口から笑いが漏れた。
「髪が黒いから、余計に肌が白く見えるんだろう」
「そうなのかな」
「そうだって」
目にかかる前髪を指でつまむ。日に当たると茶や褐色に見える黒髪はあるが、雪彦の場合はいっそう黒が濃くなる。パーマをかけたことも、ワックスをつけたことも、染めたことだってない生粋の黒髪だ。
内心、胃の辺りがすっと軽くなっていく。すごく深刻な顔で、意味深げなことを聞いてくると思ったら、なんとも可愛らしい理由だ。彼女はそうだ。核心に触れるようで触れない。今回みたいに妙にずれている。
onlY 青居月祈 @BlueMoonlapislazri
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