ラスダン前のアイテム屋さんは今日も大繁盛みたいです

星屑 四葉

何気ない日常こそ尊い

…とある国のとある山を越えた先にある大きな漆黒のお城。


世間一般からは魔王城と呼ばれるこのお城。

黒い外観に大きな門…そしてその門を守護するかの様に行く手を阻む二つの首を持つ怪物ケルベロス。

夜になればその威圧感は更に増し、人々はこの魔王が住まう城を恐れる。


しかし、そんな魔王に立ち向かう人々がいた。

そう、それが勇者達である。

屈強な肉体と鋼の精神…その二つを兼ね備える彼らは魔王を討つべく今日もまた魔王城へと足を向ける…。



□□□



「んー! っはぁー…今日も朝日が眩しいねぇ…」

窓から差し込む朝日に目を細める…どうやら今日も天気は良いらしい。


朝日を身体に浴びながら何度か身体を伸ばし、眠たい目をスッキリさせる。


「さぁて、今日も頑張りますかね!」

そう言って私はベットから飛び降りる。


少し皺(しわ)になった寝間着を脱ぎ、クローゼットに掛けてある”いつも”の制服を手に取る。


…お父さんがお店の開店祝いだと言って仕立ててくれた制服…赤と白を基調にしたフリルが付いた可愛らしいデザイン…我が父でありながらこういうセンスがいいのは少し癪だ。


寝間着から制服に着替え終えると階段を降り、一階へと向かう。

そして、洗面所の前へ。


水色の髪、紫の瞳…髪色は父譲りで、瞳の色は母譲り。

頭から何本か生えている寝癖を手で何度か撫で、直していく。

そして、目元に隈がないかもチェック。

それを確認したら今度は水を流し、顔を洗う。


「…っと、大丈夫だよね…?」

改めて自分の顔を見る。

少したれ目だが、今日もしっかり大丈夫…うん!


「よし、朝ご飯作って…開店の準備しなくちゃ!」



□□□



ここはセイナール王国。

その北端にあるクシェル山脈の間に位置する私のお店『ルベリオ』

回復薬や強化薬、雑貨に装飾品…ちょっとした武器や防具なんかも売っているアイテム屋さん。


ここだけ聞けばどこにでもある普通のお店に見えるかもしれない。


確かに私自身のお店は特筆して何か優れていたり目玉があるというわけではない。

でも、このお店は他のアイテム屋さんとは絶対的に異なるモノがある


それは………魔王城の目の前にあるという事。


何故そんな場所に?


多分百人に聞いたら百人くらいがそんな質問を返してくると思う。

正直ぶっちゃけて言ってしまうと親のコネである。


親のコネ

何でそんなものでこんな場所にお店が建てられるの?っと誰しもが思うと思う。

なのでそれを説明するためには少し私の父親について触れておかなければいけない。


私の父はかつて冒険者をしていた。

母を幼くして亡くした私はそんな父に連れられ世界中を旅した。

光が満ちる花畑…火の鳥が空を駆ける荒野…無数の星が落ちる平原…

子供の時の記憶だけど、凄く綺麗で幻想的だったのを覚えてる。

そして、旅をする中で父はいつの間にか英雄と呼ばれる存在になっていた。

そんな父がある日、セイナールの王様の依頼を受けて難攻不落として知られる魔王城の攻略を任された。


今回もいつもの様に幼い私を連れて…


ここからの記憶は幼い頃なのでイマイチはっきりとは覚えていないが…

ただ、流石に私を連れて魔王城の中に入る気は父には無かったようで…私は魔王城から少し離れた小屋で父の帰りを待っていたのは覚えている


そして、半日程が経ち…父が帰ってきた。


…何故か黒衣のマント着て…。


「お、お父さん…?」

いつも見慣れた金の鎧ではなく一度も見たことない黒い大きなマントを羽織る父に動揺した。


「フハハハ! 我が娘よ…父が今、帰ったぞッ!!!」

カッと両目を見開く父…。

「えっと…本当にお父さん…?」

明らかにいつもと口調も違うし、ついでに声のトーンも…。


「ッフ、エリナ…私はね目覚めたんだよ本当の私に…」

私の肩に手を置き、何故かニヤリと笑みを浮かべる父…凄く怖い。

「目覚めたって何に…?」

私は父が何を言ってるのかイマイチ分からずに聞き返す。


「エリナも大人になれば分かるさ…」


いや、なんか凄く分かりたくない…子供ながらに私はそう思った。


「とにかくだ! エリナ! 私は今日この日を以て魔王軍の四天王に就任した! エリナよ、共に魔王様と覇道を歩もう!」

父は声を高らかに宣言した。


――――そう”これ”が私が持つ親のコネである。

つまり、私の父親は元勇者で現魔王に仕える四天王の一人なのだ。


こうして色々な事があって私は四天王の娘という新しい立場を手に入れた。


しかし、だ。

いくら四天王の娘だからといって何かが優れているわけではない私は日々をただ無駄に浪費していた。

父が旅をしていた頃はそれに付いていき、色んな体験をしてきた。

だけど今は違う。

四天王として魔王城に篭りがちになった父、旅をすることもめっきり減り…私自身も魔王城の一室でただひたすらに日々を過ごした。


そんなある日、ある小説を読んだ。

それは商店を営む妖精のお話。

妖精という異種族ながら人間に姿を変え、商店で様々な人々と交流し楽しそうに日々を送るといった話。


「これだ!」


幼い私の中にある目的が生まれた瞬間だった。


一度目的が定まってしまえば人間は意外とすぐに行動を起こす生き物だ。

少なからず私という人間はそうだった。


父親、魔王…そして他の四天王など様々な人たちにお願いし、協力をしてもらった。


そうして出来たのが、私のお店『ルベリオ』



□□□



「ふぅ…ご馳走様でした」

空になった食器に向かい手を合わせ、そして片付ける。


朝ご飯を食べ終わった私は早速開店の準備を始める。


まずは倉庫に行き、商品の備蓄を確認。

その後は店内を軽く掃除。

毎日掃除をしているおかげで目立った埃やゴミは落ちていない。


「ふむふむ、こんなものかな?」

手をパンパンっと払い、店内を見回す。

良くも悪くも普通。

ごちゃごちゃと物が置いてるわけでもなく、かといって殺風景というわけでもない。

私があの小説を見て夢見たお店…うん、今日も完璧だ。

小さく何度か息を吸っては吐く…。

ちょっとした深呼吸。


「よし、今日も頑張っていくよ…おー!」

一人なのが少し寂しいけど、元気よく腕を振り上げる。


店の外の扉に掛けてある『CLOSED』の札を裏返し『OPEN』へと変える。


また新しい『ルベリオ』の一日が始まる。



開店して早々、一人の鎧を着た中年男性が店に入ってきた。


「ふむ、こんな所に店があったのか…」

物珍しそうに店内を見回す男性。


「いらっしゃいませ!」

精一杯大きな声を張る。


茶色の髪に結構な口ひげ…見たことない人だ。

「すまないが、ここはアイテム屋で合っているのか?」

少し恐る恐るといった風に男性は訪ねてきた。

まぁそりゃそうか…”こんな”場所に店があったら最初は皆警戒するよね。


「はい! 回復から装備類まで各種取り揃えていますよ!」


「ちなみに、回復薬に毒とかは…?」

「は、入ってませんっ!」

まぁ、魔王側の罠とか最初は考えるよね、うん…。


やっぱり初見のお客様は警戒する。

場所が場所だし、こればっかりはしょうがない。

何とか頑張って誤解を解ければいいけど…。


私がそんな風に思案してるとドアのベルが鳴り、新しい客が来たことを告げる。


「ようよう! エリナちゃんまた来たぜ!」

少し恰幅がいい赤髪の男性…あ、ウォルフさんだ。


「ウォルフさんいらっしゃい! 今日は何をお求めで?」


「何をって…そりゃあ魔王城の目の前に店に来て求める物なんて決まってるぜ! ハイポーション20個とタングステンの槍…あと煙り玉を10個を頼む!」

いつもの様に元気よく注文をくれる。

「はい! 少々お待ちくださいね!」

私は店内のカウンターから後ろのドアへと向かう。


そして倉庫の中にあったハイポーションと槍、そして煙り玉を木箱に入れる。


「はい、ご注文の品です!」

再びカウンターへと戻り、品が入った木箱を置く。


「うんうん、相変わらずテキパキと動いていい仕事っぷりだねぇ。 おじさんあと10年若かったらエリナちゃんに求婚してるよ!」

慣れてないのか少しぎこちないウインク。


「あ、あはは…ウォルフさんったら…そんな冗談ばっかり言ってると奥さんに言いつけますよ?」


「ちょっ! それはマジ勘弁してくれ! うちのカミさん冗談抜きに魔王より恐いんだよ!!」


何かあったのだろうか?

顔が青ざめ、ウォルフさんは足をガクガクと震わせた。

 

「と、とにかく! 注文の品はちゃんと受け取ったぜ! 品質も十分だし…よし、いざ行かん魔王の城へ!」

お代を私に渡し、槍を担ぎ買ったポーションと煙り玉をバックへ詰めウォルフさんは元気よく店を出て行った。


「ありがとうございました!」

ウォルフさんが扉から店を出ていくの確認する。


ウォルフさん…魔王さんに勝てるかな…多分また四天王の誰かに負けるんだろうなぁ…。

彼が出て行った扉を見ながら少し物思いにふける。


っと、いけないいけない…まだお客様はいるんだった。


少し気を引き締め直し、もう一人の男性の方へと視線を送る。

彼はウォルフさんが出て行った扉を少しの間凝視し、こちらへ視線を向けてきた。


「あの、聞きたいんだが…彼”も”魔王城へ行くのか?」

も、という事は…やはりこの人もそうなのか。


「はい、ウォルフさんはここの常連さんでいつも魔王城へ行く前にここで装備やアイテムを補充していくんです」


ウォルフさんは紛れもない人間。

彼もその事は分かっていた様で少し警戒が緩む。


「すまない、私としたことが…少し気を張り詰めていたらしい。 なにぶん魔王城へと行くのは初めてでね…てっきりこのお店もその…魔王やその手下が何か仕組んだものだと…」

申し訳なさそうに彼はそう言った。


「いえいえ、建ってる場所が場所ですから…そういうには慣れてますのでどうかお気になさらず!」

不安を少しでも軽くしたい…そういう思いを込めて元気よく言う。

「そう言ってもらえるとありがたい…。 それならば私もハイポーション30個程貰おう。 あとはそうだな…サラマンダーの爪は置いているだろうか?」


「もちろんございます! 少々お待ちください! 今から持ってきますね」

私はそう言い、再び倉庫へ。


そして注文の品を木箱に入れ戻ってくる。

「確かにこれは…あの男性も言っていたがかなりの質だな…」

小瓶に入った緑色に光る液体を何度か揺らす男性。

「一応ここに置いてあるポーションの”ほとんど”は私が調合してるんです。 そう言って貰えるととても励みになります」

素直に嬉しかったのではにかむ。


「うむ、このサラマンダーの爪も中々に上質…こんなところでこれ程いい買い物ができるとは…」

お店の店主としてお客様からこう言って貰えるほど嬉しいことはない。

「おっと、お代がまだだったな…これで幾らになる?」

「ハイポーションが30個にサラマンダーの爪が1つなので…全部で42000ギルになります」

値段を言うと、男性は懐の袋からギルを取り出し、私へと渡す。

「…はい、丁度お預かりします」


「思いがけずいい買い物ができた。 ありがとう…えっと…?」

ん?

あ、そういえば名乗ってなかった。

「すいません、私はこの『ルベリオ』の店主エリナと申します」


「エリナさんか…。 私はクロッゾ、これでも魔王討伐にやってきた冒険者だ」

「クロッゾさんですね…。 はい! 覚えました!」

「フフ、元気が良いな。 よし、私もそろそろ行くとしよう。 エリナさん世話になった、では!」

クロッゾさんは片手を上げ、店を後にした。


あの人も今から魔王城へと向かう。

もちろん目的は魔王討伐…。

初めてみたいだし、どこまで行けるかなぁ?

多分大抵最初は門番のポチケルベロスで躓くんだよね…さっき来たウォルフさんもポチケルベロスに最初完敗してたっけ…。


勝つにしろ、負けるにしろ、あの人たちも…そして魔王さんやお父さんたちもあまり大きな怪我はして欲しくないな。


そんな風に考えながら私は次のお客様が来るのを待った。



□□□



あれから男女合わせて10人程の冒険者が店を訪れた。

現在の時刻は12時。

丁度お昼の時間だ。


「さて、と…そろそろお昼にしようかな」

精一杯背伸びをして凝った身体をほぐす。


そして一旦お店を閉めるためドアの札へ向かい歩き出した。


すると、再びドアのベルが鳴る。

おっと、お客様が…

急な来店に少し驚きつつも笑顔を浮かべる。

「いらっしゃいませ! …って、あれリオン君?」


扉から入ってきた青年。

リオン。

私より一つ年下の人間と魔族のハーフの男の子。

「エリナさんどうも。 …やっぱり少し早かったかな?」

灰色の髪を少し掻くリオン君。

「うん、確かにちょっといつもより早かったかもね。 …そうだなぁ、お昼まだなら一緒に食べる?」

「え、いやそんな…一応お昼は食べてきたし、俺は大丈夫だよ」

「あ、そう? だったらお茶でも出すよ」

「えっと、うん…ありがとう」


私は改めてドアの札を『OPEN』から『CLOSED』に変える。


「よし、二階に行こっか」


リオン君は私の言葉に頷き、二人で店の二階へと上がった。



「はぅ…美味しかった…」

空になった食器を片付け、椅子に腰を落とす、


「相変わらずエリナさんの料理は美味そうだね」

「え、そうかな? まぁ下手ではないと思うけど…」

「うん、絶対美味いと思うよ。 だってうちの母さんに比べて全然…」

リオン君の顔に少し陰りが見える。

確か…リオン君のお母さん――エマさんって…料理あんまり上手じゃなかったんだっけ…。

「あ、あはは…。 え、えっと…そういえばうちのお父さんは相変わらずかな?」

「デイルさん? 元気も元気だよ。 むしろ元気過ぎて大変なくらい」

再びリオン君の顔に陰りが…お、お父さん…一体何をしたの…?


「そ、そっかー…。 じゃ、じゃあ魔王さん…リオン君のお父さんの方は元気にしてる?」


「父さん? そっちも同じくらい元気だよ…はぁ…」

リオン君…ホント一体何があったのだろう…。


そう、目の前にいる彼、リオン君のお父さんは魔王である。

彼から前に聞いた話によると魔王さんは昔魔族に生まれその中でも更に特別な魔力を持っていたため物心ついた時からずっと魔王をやっているらしい。

そして彼の母はその魔王を討とうとしてやってきた勇者の仲間だった。

二人は偶然に出会い、恋をし、そしてリオン君が生まれた。

ちょっとした小説の出来事のようだ。


「それにしてもさ、リオン君。 何度も言うけど…毎日お店を手伝いに来なくてもいいんだよ?」

彼は魔王の息子。

やる事はいくらでもあるし、やらなければいけないこともおそらくたくさんある。

なのにリオン君は毎日この時間帯になるとお店を手伝いに来てくれる。

午後になれば忙しくなるし、私としてもとても助かっている…でも…


「別に気にしなくていいよ。 これも社会勉強?ってやつの一環だし…エリナさんには色々と借りもあるし…」

お店を手伝いに来るようになってからよく口にする私への借り…

正直思い当たる事がない。

確かにお店が出来る前、魔王城に住んでいた時は色々遊んだりもしたけど…それくらいだ。

私自身も楽しかったので流石にそれだけで借りとは大袈裟過ぎる気もする。


「借りってのはイマイチピンと来ないけど…でもあんまり無理はしないでね?」

「うん」


その後彼とは他愛のない話をした。

父を除く四天王の最近ハマってる趣味や人間の世界で流行してる遊びなど。

そんなこんなで話をしているとあっという間に時間は過ぎて、いつの間にかお昼が終わり13時になっていた。



□□□



リオン君とのお話を切り上げ、再び一階へ降りてきた。


店の外に視線を送ると案の定多くのお客様が店の前で待機していた。

午後―――私のお店でもっとも忙しくなる時間帯。

この時間帯になると仲間を連れた多くの勇者や冒険者達が魔王城の前へと募り、パーティーを組んであの漆黒の城を攻略しようとする。

そしてその前には当然回復などのアイテムの補充は必須であり…必然的に近場のこの『ルベリオ』に人が殺到するというわけだ。


「準備はいいリオン君?」

「もちろん」


お互いに目を合わせ、頷き合う。

ここから2時間程は目まぐるしく忙しくなる。

こういう事情もあってかリオン君が毎日この時間帯にいてくれる事は本当にありがたい。


ゆっくりと扉へと近づき、ドアの札を『OPEN』へと変える。

直後人の波が一気に店内へと押し寄せた。



□□□



「はぅ…疲れた…」


あれから3時間。

大勢のお客様が買い物をしていき、そして先程ようやく店内にいたお客様全てが店を後にした。


「お疲れ様エリナさん」

労いの言葉をかけてくれるリオン君。


「リオン君もね? …それにしても今日のお客さんいつもより少し多かったよねぇ? 何かあったのかな?」

いつもは2時間程で落ち着くと思っていた人の波が収まらず、結果いつもより長くラッシュが続いた。


「うーん…父さんの話だとどうやら大手ギルドが大々的に人員を募集したみたいだね。 多分その結果がさっきのお客さんの数なんだと思う」

「へぇー…ってそれ大丈夫なの?」

「多分ね。 そもそも自慢になっちゃうけどうちの親…特に父さんの強さは規格外だから…」


リオン君の父――魔王バイスさん。

様々な逸話残す魔王。

片手で山を吹き飛ばしたとか、総ての属性の精霊を従えたとか…正直信じられない話ばかりだけど…魔王さんと何度か直接会ってる私はこれらの逸話が嘘ではないと分かる。


「それに父さんより前に四天王の誰かで止まるだろうね」


四天王――魔王の直属の配下であり、強さも頭脳も規格外の人たち。

確かに彼らを前にしたらどんな蛮勇を持つ者でも霞んでしまう。


「だよねぇー。 うちのお父さんはともかく、他の四天王の人たちは本当に強いもんね!」

「まだ俺もロクに勝てないしね」


二人でそんな話をしているとドアのベルが鳴る。


「「いらっしゃいませ!」」

リオン君と共に元気よく挨拶をする。


「「「「うむっ」」」」

入ってきたのは4人のドワーフ。

それぞれ赤、青、緑、黄色の帽子を被っている。


この人たちも見たことないや。

今日はいつも以上に新しいお客様がやってくる日だ。


ドワーフ達は店内を一通り見回すと、こちらの方へ歩いてきた。


「中々の品揃えだ」

赤の帽子を被ったドワーフが言う。

「あ、ありがとうございます」


「うむ、それでは我らもアイテムを買うとするか」


そう言うと4人は横一列に並んだ。

「右の我から順にアイテムを注文する」

再び赤の帽子を被ったドワーフが言う。


「ポーション10個」

「エリクサー3個」

「ワイルドラビットの毛皮2つ」

「パンティー!」


右から順に注文していく…ってアレ? なんか最後のドワーフの人の注文おかしくない?


「えっと、ポーション10個にエリクサー3個、ワイルドラビットの毛皮2つとパンティーっと…あれ? エリナさんパンティーって在庫にありましたっけ?」

メモをして倉庫に向かおうとしたリオン君が足を止めて聞いてくる…っていやいや!

おかしいでしょ!

何よパンティーって!

そんな物を頼むドワーフもだけど、それを聞いて一切動揺しないリオン君もリオン君だよ!


「あ、あのぉ…流石にその…ぱ、パンティーは流石にお店には置いてないです…」

は、恥ずかしい…。

いきなり初対面のドワーフにこんな事を言うなんて…


「なぬ!? それは予想外だ」

予想外なんだ…。


今度は何やら4人で円陣の様なものを組み何かを話し合っている。


「それでは再び注文をし直す!」

再度横一列に並ぶドワーフたち。


「ハイポーション10個」

「サラマンダーの爪5つ」

「ブラジャー!」

「ブラジャー!」


ちょっとちょっとっ!!!

何で今度はブラジャーなのよ!

っていうか増えてるし!


「えっと、ハイポーション10個とサラマンダーの爪5つ…あとブラジャーが2つっと…あれこれも在庫にあったかなぁ…?」

ないよ!!!!

何でリオン君はこれに突っ込まないの!?

あれ、私がおかしいのこれ!?


「あ、あの…ぶ、ブラジャーの方もお店には置いてませんので、その…」


「「「「なん…だと…!?」」」」


いやなんでそんな世界が終わったみたいな顔してるのこのドワーフ達!

っていうか何しにこのお店に来たのよ!


「これでは魔王の討伐は…」

「絶望的だ…」

「っく、我らの悲願が…」

「皆、案ずるな…またここへ戻って来よう」

4人のドワーフは涙を流しなら店を出て行った…。


ぱ、パンティーやぶ、ブラジャーあったら魔王討伐出来るの!?

ど、どういう思考しているのだろうか彼らは…。


…って、また戻ってくるの!?



「えっと…エリナさん良かったんですか?」

「良いに決まってるでしょ! リオン君! 君ももう少しその…恥じらいというか変だと思ったらすぐに言う事!」

「え、えぇ…はい?」

首を傾げてる…どうやらイマイチ分かっていないらしい…。

これは後で色々教えておいた方が良さそうだ…。



□□□



ドワーフの珍事が起きつつもその後にやってきたお客様の対応も難なくこなし、時刻は既に18時。


「うん、今日はもう来なさそうだしお店閉めよっか」

棚の整理をしていたリオン君に話しかける。

「ですね。 そろそろ俺も帰る時間ですし」

そう言って店内に掛けてある時計に目を移すリオン君。


日も沈みかけ、辺りは暗くなり始めていた。


こうして慌ただしくも楽しい『ルベリオ』の一日が終わる。



リオン君が後片付けを手伝ってくれ、その後彼が帰り時間は20時。


お風呂から上がった私は寝間着に着替え二階へと上がった。


窓側に置いてある机。

椅子を少し引っ張り腰を掛ける。


窓の外から見える丸い月を見上げながら今日一日の出来事を振り返る。


ウォルフさんにクロッゾさん、リオン君に…そ、そしてあのドワーフたち…。

色んなお客様と出会う…いつもと変わらない日常だけど、とても刺激的で楽しい日々…。

私の中で確かに充実してる実感が湧いてくる。


この想いが冷めないうちに書きとめよう。

机の引き出しから一冊のノートを出し、机に置いてある魔鉱石を光らせる。

これはなんてことのない日々の出来事を綴った日記帳。

その一ページに今日あった出来事を書き足していく。



日記を書いていたらいつの間にか1時間程経っていた。


「そろそろ寝ないと…」

そう、明日の朝も早い。

あまり夜更かしは出来ない。


魔鉱石の光を消し、日記帳を机の引き出しへとしまう。


少し眠い目を擦りながら私はベットへ入る。

「おやすみなさい…」

誰かに言ったのではなく、自分へと向けた言葉を発しゆっくりと眠りへと落ちていく。


いつも通りの日常だけど、そのいつもは毎回違っていて特別。

私があの小説で夢見た世界はもう現実になっていた。


今日あった物語は私の長くて短いそんな人生の中でもほんの一瞬の出来事だ。

おそらくこれからもやる事成す事は何一つ変わらず私はこの『ルベリオ』での日々を過ごしていくだろう。


でもそれでいい。

世界を救う勇者にもならなければ、世界を滅ぼす魔王にだってならない。

アイテムを売って日々お客様と他愛のない話で盛り上がる。

私の物語はこれで合っている。


この物語はそんなとりとめのない私の日常を綴ったお話。


アイテム屋『ルベリオ』の店主―――エリナ・クロームの何気ない日々の物語である。

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