考察・分析していくシリーズ
一水素
なぜ『異世界転生もの』が流行るのか
前からネット小説の様式美になりつつある『異世界転生もの』ですが、なぜここまで流行しているのでしょうか。そんな疑問を作者目線、読者目線で考えながら考察していきたいと思います。
初めに断っておきますが、これは異世界転生ものの小説やその読者を卑下するような内容ではありません。何が求められているのか、どんな進化を遂げてきたのかを分析するものになります。
ではまず作者目線から。
【舞台のカスタマイズがしやすい】
何と言っても作者側最大のメリットはここでしょう。異世界の詳細に関しては作者のみぞ知る状態ですから、時代から文化に渡って様々な設定を組み込むことが出来ます。これはとても便利なもので、実在する国家をモデルとした場合、リアリティを得るにはその国家についてかなり深く学ばねばなりません。さらには設定同士がうまく噛み合わない可能性も秘めています、一から舞台背景を考えるのは作者にとってこれ以上ない美味しい点だと言えるでしょう。
【なぜ中世のような舞台が多いのか】
これに関しては色々な意見があると思いますが、私は二つの要因が浮かびました。まず一つは建物などの景観です。西洋の古き良き街並みは人々に感動をもたらします、その街並みを見ようと世界各国から観光客が来ることからも、この感覚は万国共通だと言えます。つまりは見栄えが良い、その作品にのめり込める要素がこれだということですね。
余談ですが某有名テーマパークには近代的な建造物が少ないのもこれと関係していると思っています。古風な街並みが立ち並ぶ、もしくはSFチックな建物が並ぶことによって、人々を一気に現実から引き離すことが可能となるのです。逆に、そこに少しでも我々に近しい建築物が建ってしまうと、一気に現実に引き戻されてしまいます。つまり、異世界ものの作品に中世の時代が多いのは、それが図らずとも読者が作品に入り込めるようになっており、人気が出やすいからだと私は思います。
もう一つ、これは単なるこじ付けですが、魔法という概念を発見してしまったからというのも挙げられます。私の書く小説でも触れたことがあるのですが、今の人類が魔法を発見していたなら、その発見された時代はおそらく錬金術時代でしょう。人類はそこで化学を発見し、これ以上ないくらい飛躍的な進化を遂げてきました。片一方しか発見できないというわけではありませんが、もしそこで魔術が発見されたらどうなるでしょうか。きっと化学は存在しないものになっていたか、発見がだいぶ遅れたと私は思います。異世界ものと魔法はよく関連付けられることがありますが、案外当然のことなのかもしれませんね。
【異世界に行く方法】
よく異世界に行く方法として「現世での死亡、神の気まぐれ」が見られます。これは、異世界という完全に空想の世界に行くための唯一リアリティのある方法だと私は思うのです。
そもそも異世界とは何なのでしょうか。パラレルワールド? 別次元の世界? まず異世界という存在自体があやふやなものだと思うのです。そこで次のステップに行きましょう、そのあやふやな異世界に現代の我々が行くにはどんな方法があるのでしょうか。...何か思いついたでしょうか、私はあまりいい設定を思いつくことが出来ませんでした。磁場が異常をきたして別次元に飛ばされたとか、変に現実に即した考えになってしまうと、ツッコミが飛んできたり面白さが失われてしまいかねないのです。そこで登場するのが『死』や『神』といった存在です。
死後の世界なんてあるのでしょうか、神なんているのでしょうか、そんなあやふやなものだからこそ逆に受け入れられるのです。変に理屈をこねるより、そのあたりをなあなあにしてしまったほうが面白いのです。
またまた余談ですが、日本は比較的神という存在に寛容なイメージがあります。無神論の国と思われがちですが、今でも世界最大の宗教行事『初詣』を行っているのは日本だけです、世界でも日本だけなのです。私たちの根っこの部分にはそういった神話的背景があり、神の気まぐれで異世界に飛ばされたとしても特段大きなリアクションを起こさないものと考えます。
次は読者目線ですが、これは作者と似たような考えだと思っています。
【事前知識が要らない】
これが読者側最大のメリットだと思います。その作品を読むときに特に何も考えず読み始めることが出来る利点があります、作者の提示する設定だけ覚えておけばいいのです。
これは読者の幅を広げるとても効果的なものだと思います。史実を織り交ぜて面白さを増すという手法もありですが、それだと読む人を選ぶという結果に繋がってしまう、しかし異世界ものはそんな弱点を克服したものだと言えるでしょう。
【中世の場合、私たちの持つ知識でも黄金級の価値がある】
現代知識で無双系のモノの多くは、私たち一般の人間が持つ知識でも世紀の大発見という場合が多いです。そしてその結果国が発展していく...国づくりのシュミレーションゲームのようになっています。現代では到底味わえない国の発展模様を魅力的なキャラクターたちと見ていく、それもこの異世界転生ものが人気な理由の一つだと言えるでしょう。
自分の立場故作者目線が多くなってしまいましたが、異世界転生ものが流行るのはそれ相応の理由があります。量産される理由もまた同じです、作者にとって最も設定を組み込みやすいのが異世界転生ものとなります。このジャンルは作者読者両名にとって、とても理想的なものだと言えるでしょう。
考察・分析していくシリーズ 一水素 @Monohydrogen
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