エピローグ
少女が『悪魔』と共に居るために、慈愛の女神と守護神を払いのけてから何十年も経過したある時、一人の作家が一つの物語を世界に出版する事になった。
それは『少女と悪魔』という題名の、今まで主役になった事のなかった『悪魔』が主役の物語。
ハイエルフに生まれながら『悪魔』と共に生きる事を誓い、落ち人となった少女。
『悪魔』でありながら、人を闇に落とす行為をせず少女と家族のように生きる『悪魔』。
そんな二人が色々な場所を旅をしながら、人を助けたり、異端審査をされて追われたり、苦労しながらも生きていく物語。
ハイエルフなのに『落ち人』となり、なお狂わない少女と悪魔なのに人を慈しむ心を持つ悪魔。
世界にとって異端とされる二人の物語。
もちろん、出版した当初、『勇者』を信仰する人々や『落ち人』と『悪魔』を悪とする教会からその作家は異端審判をかけられる事になりました。
それでもその人は教会に捕まらないように逃げながら、一人の少女と一人の悪魔のお話を出版していきました。
今までにない物語を読む事を楽しんでいる人もちらほら現れていました。
その物語を見てすぐ、その作家に会いに行く人もいました。その会いに来た人は実際に『少女と悪魔』に出てくる少女と『悪魔』を知っている人達でした。
『落ち人』のハイエルフと『悪魔』らしくない『悪魔』は実在する人物だったのです。
そもそもの話、作家が『少女と悪魔』のお話を書こうと思ったのは彼らに助けられたからです。
作家は彼らが『落ち人』で『悪魔』だという事を知って、思いました。
彼らは『落ち人』や『悪魔』でも人と変わらないと。狂っていないのだと。
『落ち人』だろうと、『悪魔』だろうと助けてもらったのは確かな事実でした。そして彼らと絆を結びたいと思ったのも確かでした。
だから作家は彼らと友人になりました。
彼らは驚きながらも嬉しそうに笑ったのです。それから作家と彼らは友達なのです。
作家は思ったのです。
他の『落ち人』や『悪魔』は知らないけど、自分の友人たちは少なくとも狂う事も人を壊すことも考えていない。人と変わらない。
それなのに友人となった彼らが悪とされ、そういう存在と言うだけで疎まれるのは我慢が出来なかったのです。
だから作家は彼らから聞いたお話を元に一つの物語を作り上げたのです。
「私は『落ち人』だろうと堂々と生きていく。私は何も悪い事はしていないもの」
作家に向かって少女はそう言いました。
少女や悪魔が実際に作家に告げた言葉も、本人の許可を取ってその物語内には含まれていました。
作家も自分は間違った事はしていない、そういって信仰者達の目を掻い潜りながらも色々な場所で『少女』と『悪魔』についての事を広めていったのです。
徐々にその物語は人々に親しまれていく事になりました。
実際に少女と悪魔に助けられた人も多く居たのですから、その物語を肯定する人が居るのも当たり前でした。
作家がその物語を広めている間にも、少女は作家に告げた通り、何も悪い事はしてないから堂々と生きるといって、悪魔と共に世界を見てまわっていました。世界を見ながら、時折人助けをしていました。
それもあって少女と悪魔の存在は人々の間に知られていきました。
そうはいっても『落ち人』と『悪魔』という事実は変わりませんから精霊には嫌われていましたし、教会からは異端として見られてました。
それでも幾ら教会が異端といっても、受け入れてくれる人々は彼らを異端とする人間よりも数を増やしていったのです。
『少女と悪魔』というその物語を沢山の人が愛読をしました。そしてその物語や、少女と悪魔の噂はハイエルフの国に居る少女の家族の耳にも届いていました。
少女の母と兄と、そして少女に会った事もなかった妹は少女と悪魔に会いに行きました。少女の父と姉はその物語に気まずそうに、何処か不服そうな顔をしていましたが、それに許可を出したあたり何か思う所があったのでしょう。
その後、久方ぶりにもう会えないと思っていた少女は彼らを見て泣きました。感動の家族の再会を悪魔は見守っているのでした。
帰って一緒に暮らさないかという問いに、少女は首を振りました。
それに家族は悲しそうな顔をしました。そんな彼らに少女は言いました。
一緒に暮らす事はできないけど、時折帰ってもいいかと。会いにいってもいいかと。
それに彼らは頷いて、嬉しそうに笑ったのです。
ハイエルフの国に帰った家族たちは時折、『少女と悪魔』の物語を見てあの少女と関係があるのかと聞かれました。それに大切な娘だと、母は笑ったのだ。
こうして少女は世界に受け入れられなくても、人々の間に受け居られていきました。
少女は悪魔と共に、ずっとそれからその世界で生きていったのでした。
ある少女のお話。 池中 織奈 @orinaikenaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます