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第583話 F級の僕は、曹悠然を怒鳴りつけてしまう
第583話 F級の僕は、曹悠然を怒鳴りつけてしまう
6月23日 月曜日E3-4
―――やめろぉ!!
走り去ろうとする
そう、飛び起き……ってあれ?
心臓がこれ以上ない位バクバクしているけれど、視覚から入力される周囲の状況が、僕の現状認識と一致していない。
周囲は真っ暗で……僕はベッドの上で……あれ?
夢?
混乱していると、ふいに電気が点けられた。
そして声が掛けられた。
「どうしました?」
声の方に顔を向けると、僕の隣、数十cm程の間隔を空けて置かれたもう一つのベッドの上で、
つまり今、僕は貨物船の中、自分達に割り当てられている船室内にいる?
改めて
「数字を覚えていますか?」
「!」
自分の顔が
この状況で彼女が話題に出してくる“数字”と言えば、僕には一つしか思いつかないわけで。
僕は一生懸命心を落ち着けつつ、言葉を返した。
「い、行こう意味桑名」
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ! もちろん!」
「……もしかして、まだ混乱しています?」
「混乱は……」
言いかけて、自分が実際はまだ混乱している事を認識してしまった僕は、一人苦笑してしまった。
「すみません。今のは無しで」
しかし怪我の功名というべきか、“言い間違い”をした事で、かえって心はすっかり落ち着いていた。
僕は改めて言葉を返した。
「1513987、でしたよね?」
あれ?
彼女が期待していた答えでは無かった?
だけど
あ、でもあの数字って、そもそも僕の“夢”の中で
再び混乱しそうになっているところで、
「何を“視”ました?」
見た?
何の話だろう?
「先程、大声を上げて飛び起きましたよね? 何か……“視”たのでは?」
「見たというか……ちょと嫌な夢を……」
自分で口にしておいてなんだけど、“夢”で合っているよね?
「どんな夢でした?」
「それは……」
問われて、僕は改めて“夢”の内容を思い返してみた。
あまりにもリアルすぎて、“夢”だったというオチの方が、自分的には信じられないけれど。
「その……いきなり衝撃音がして、この船の……」
言いかけたところで、
「動力機関と電気系統とが破壊された?」
「!」
僕は再び
しかし彼女の表情に特段の変化は見られない。
「続けて下さい」
「それで……真っ暗闇の中、曹さんが暗視と防毒の機能付きのゴーグルを手渡してきて……」
そこで彼女は再び言葉を重ねてきた。
「二人で甲板に出たところ、私の同僚達の待ち伏せを受けた」
まさか!?
「もしかして、曹さんも同じ“夢”を?」
彼女は淡々とした表情のまま言葉を返してきた。
「それを確認させて下さい。それで、中村さんの夢の最後はどの場面で終わっていますか?」
「……先程お伝えした数字を覚えるように僕に話してきて……
「あなたは、私が死亡する場面を“視”ましたか?」
「それは……」
もう一度“夢(?)”の内容を思い返してみた
「曹さんがいきなり
「その後、私が死亡した?」
僕は首を横に振った。
「いえ、手を伸ばして叫び声をあげて、気付いたらこのベッドの上でした」
僕の言葉を聞いた彼女が、再び険しい表情になった。
「就是说、这不是返回现象……」
「?何ですか?」
彼女は、なお少しの間何かを考える素振りを見せた後、言葉を返してきた。
「どうやら私達は同じ夢を“視”たようです」
「同じ“夢”を?」
「状況から推測すると予知夢の一種かもしれません。あなたが飛び起きた時、あなたの胸元が光っていました。ちょうどあなたがあの黒く輝く
言われて僕は胸元に手をやった。
指先に小さく固い『追想の琥珀』が触れた。
僕の反応を確認する素振りを見せながら、彼女が言葉を継いだ。
「もしあれが予知夢であったとするならば、私達は重大な決断を下さなければなりません」
「つまり、“夢”を参考に、僕達の行動を変更するって事でしょうか?」
“夢”の中では、
「そういう事です」
「具体的にはどうしましょう?」
何気なく返した言葉だったけれど、その時になって僕は、彼女の顔に異様な寂しさを感じさせるような、不吉な表情が浮かび上がっている事に気が付いた。
ちょうどあの時と同じように!
「曹さん!」
思わず声が大きくなってしまった。
彼女は少し驚いたような顔になった。
「いきなりどうしました?」
「一応お伝えしておきますけれど、自分が死んで、僕だけ巻き戻って、もう一度過去の自分とやり直してくれとか、そういうのは無しで」
彼女の顔に憂いの色が宿った。
「ですが予知夢通りとすれば、現状、私達は行き詰っているという事になります」
「なぜそう思うのですか?」
「……情勢を冷静に分析した結果です」
「どういう分析ですか?」
「今から予知夢通りの事態が発生するならば、ご説明している時間はありません」
そして彼女は、真剣なまなざしを向けてきた。
「以前もお話ししましたように、私は祖国を
「曹さん!」
知らず怒鳴りつけていた。
「祖国がどうとか、あなたの考えは尊重しますよ。でも今僕の目の前いるあなたは、仮に僕が“巻き戻った”場合に出会うかもしれない
「ですが……」
「それに今から僕達が見た“予知夢”通りに事態が進行するかどうかも、まだ分からないですよね? なんで勝手に決めつけるんですか?」
「ですが現状、打つ手が有りません。ならばやり直した方が、うまく行く可能性が高まるはずです。現に中村さん、あなたは何度もやり直して、その度に行動を修正して……」
やり直し?
行動を修正?
押し殺したような声で告げられたそれらの言葉は、僕の中の何かを、ナイフのような鋭さで強烈に
「何がきっかけで僕が巻き戻っているか、ご存知ですよね?」
彼女は小さく
「だったら! 僕の気持ちも考えて下さい! 何度も何度もあんたの死を見せられて、僕がどんな気持ちになったか、分かりますか? 人間、死んだらそこでおしまいなんだ。ゲームの世界じゃないんだから、簡単に死ぬなんて言うな!」
感情を吐き出した僕は、チラッと
彼女は一言も発する事無く、
彼女はかつて僕の事を、臨機応変の対応力に欠けると分析していたけれど、僕の方も彼女とこの三日間、密に過ごす事で、彼女がどういう人間なのか、自分なりに分析出来ていた。
彼女は僕なんかとは比べ物にならない位、非常に冷静で優秀だけど、彼女の方こそ僕以上に融通が利かない、つまり臨機応変の対応力に欠けている。
なまじ優秀だからこそ、彼女なりの“分析”とやらで、今後、僕達が
だからそこで勝手に諦めて、自分の死を前提とした話を口にするのだろう。
だけど僕には残念ながら、僕達が必ず失敗するなんて“運命”は、見えてはいない。
見えてはいない以上、僕としては何も
僕は彼女に声を掛けた。
「とにかく、今から機関室に向かってみませんか?」
彼女が顔を上げた。
「機関室に?」
「“夢”の中で最初に生じた異変は、この船の動力機関の破壊でしたよね? だけど現状、まだそうした事態は発生していません。ですからまず、機関室の状況を確認するところから始めてみませんか?」
「……分かりました」
こうして僕達はまず、船の機関室に向かう事にした。
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