第421話 混乱
6月17日 水曜日35
インベントリを呼び出した僕は、早速
いつも通りの手順で呼び出したつもりのインベントリがポップアップしていない。
おかしいな?
首を
僕がインベントリを使用出来るのは、常時装着している『
僕は自分の左手の人差し指を確認してみた。
そこにはくすんだ色合いの指輪――『インベントリの指輪』――が、いつもと同じ
試しに一度その指輪を外して
しかし何も起こらない。
両手合計10本の指一つ一つに嵌め直してはインベントリの呼び出しを試みたけれど、何の反応も返ってこない。
理由不明にインベントリが使用できなくなっている!?
もしかしてこの地を外界から隔離する
ならば……
「【異世界転移】……」
一度地球に戻って、そこでインベントリが呼び出せるか確認してこよう。
そう考えてスキルの発動を試みたのだが……
……何も起こらない。
えっ!?
「【異世界転移】!」
……何も起こらない。
「【異世界転移】!!」
……何も起こらない。
「【異世界転移】!!!」
……何も起こらない。
…………
……
凄まじい絶望感が僕の心を一気に押し潰した。
…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
自分で出した大声に驚く事で少し我に返った僕は、慌てて口を閉じた。
そして今更ながら周囲の状況を確認した。
幸いというべきか、いつのまにかダークエルフ達の姿は消えていた。
恐らくメルとあの男性――ドルメス――は、“
しかし結構な音量で叫んでしまった自覚が有る。
誰かがここに駆けつけてこないとも限らない。
僕は咄嗟にすぐ傍の巨木の幹をよじ登った。
そして数m上の、針葉樹が生い茂る枝の中に身を隠すように潜り込んだ。
これでパッと見、気付かれにくくなったはず。
まあ、相手が察知系のスキル持っていたりすれば、あんまり意味無いかもだけど。
それはともかく、とりあえず、自分自身について確認しておこう。
呼吸を整えながら、僕はステータスウインドウを呼び出そうと試みた。
「ステータス……」
……何も起こらない。
まあ、これだけ異常事態が続けば、少しは耐性を獲得出来てしまうのだろう。
ステータスウインドウすら呼び出せない事を確認した僕の心は、不思議な位落ち着いていた。
一応、他のスキルも試しておこう。
「【看破】……」
これは
「【影分身】……」
もはや驚かないけれど、やはりと言うべきか、僕の影の中から【影】は出現しない。
もしかしたら【隠密】も最初から発動していなかったのかもしれない。
だとしたら、先程メルや他のダークエルフ達に気付かれなかったのは、単なる
とは言え、これは客観的に見て“
再び膨れ上がって来た不安感から目を
まずここに来る直前、僕はどこかの森の中でアルラトゥと話をしていた。
そして気が付いたらここで倒れていた……
1.過去に飛ばされた
以前僕は、エレシュキガルに召喚される形で、500年前のイスディフイを訪れた事が有る。
今回も似たような現象が発生した、とう解釈は?
しかしあの時、【異世界転移】は封じられていたけれど、その他のスキルは使用出来たし、ステータスの確認も問題なく出来ていた。
それにもし時を越えて転移させられたとしたら、その実行者は?
エレシュキガルならともかく、その崇拝者?に過ぎないアルラトゥにそんな事が出来るだろうか?
2.幻惑の檻に閉じ込められている
今僕に生じている全ての現象は、アルラトゥが何らかの手段で僕に見せている幻覚に過ぎない、という解釈は?
しかし今までの経験上、幻惑の檻の中でも【看破】のスキルのみは発動を阻害された事は無い。
そもそも【看破】のスキルの存在意義は、幻惑の檻の中でこそ輝くはずだ。
3.別の場所に飛ばされた
アルラトゥが何らかの意図を持って、このダークエルフ達の隠れ家的領域に僕を転移させた、という解釈は?
その際、僕の能力を何らかの方法で縛って……
ダメだ。
この解釈は、“何らかの”といった感じの仮定すべき事項が多過ぎる。
4.“普通の”地球人に戻った。
今もそうだけど、僕以外の地球人――ティーナさんや関谷さん含めて――は、ステータスウインドウを呼び出して確認する事は出来ない。
自分の正確なステータス値を知るには、均衡調整課等しかるべき役所でしかるべき検査機器を使用する必要がある。
つまり僕は地球人としてはイレギュラーな状態にあったわけで、何かの拍子に元に戻った、という解釈はどうだろう?
その場合、スキルが使用不能なのは、アルラトゥ、或いはその背後に居るかもしれないエレシュキガルによって封印されているから、とか?
しかしこれもなんだかしっくりこない解釈だ。
もしエレシュキガルが絡んでいるなら、500年前のあの世界で、僕が彼女に協力しないと判明した瞬間、僕のスキル全てを封じれば良かったのでは?
アルラトゥが絡んでいるなら、それこそなんのため? という新たな疑問が発生してしまう。
色々考えてみたけれど、今の僕の状況を上手く説明出来そうな推論には結局思い至らなかった。
しかし色々考えた事で、僕はどうやら落ち着きを取り戻す事が出来たようだ。
何はともあれ、これからどうしよう?
ルペルの森に戻る……ダメだ。
少し前に、レイラと呼ばれていたあのダークエルフの女性以下、何名かがルペルの森に向かったはず。
彼女達は、僕がその場に居ない事にすぐに気付くだろう。
そして当然、僕の捜索を開始するに違いない。
今、ルペルの森に引き返すのは、ダークエルフの捜索隊と鉢合わせする確率が高く、その場合、彼等がどういう行動に出るのかさっぱり読めない。
そして彼等がもし攻撃的な行動に出た場合、スキルが全て封じられている可能性のある僕では、
それならいっそのこと、ルキドゥスなるダークエルフ達の街に向かった方がいい?
街に辿り着いて、住人たちの前で、敵対する意思がない事を大々的に表明すれば、もしかするとなんとか……いやダメだ。
先程ドルメスは、レイラに対して“ルキドゥスの位置を察知されたくない”から
それなのに、
結局、
すっかり進退
僕が
銀白色の軽くウェーブのかかった髪は背中へと流れ、頭部にはダークエルフの特徴ともいえる切れ長の褐色の耳が突き出している。
浅葱色のローブを
女性らしい優しい顔立ち。
しかしその両目は、なぜかローブと同じ浅葱色の布で
布には複雑な幾何学模様が描かれている。
彼女が口を開いた。
「そなたが来訪者か?」
気付かれた!?
僕の全身を緊張が駆け抜けた。
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