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第412話 F級の僕は、ティーナさんの実験に付き合わされる
第412話 F級の僕は、ティーナさんの実験に付き合わされる
6月17日 水曜日26
午後2時――ネルガルの時間で、だけど――ユーリヤさん達との昼食を終えた僕は、シードルさんの屋敷の中、僕等に割り当てられている部屋に戻って来ていた。
ユーリヤさんが組織してくれたクリスさんやアリア達の捜索隊が戻って来るまで、まだ3時間以上ある。
予定通り一度地球に戻って、改めて“
それに、さっきは時間が無くて詳しく説明出来なかったけれど、“エレシュキガル”からの
ベッドの上に一人寝転がった僕は、腰のベルトに挟んでいた『精霊の鏡』を手に取った。
何の変哲も無い灰褐色の取っ手付き手鏡。
あれから何度か話しかけてみたけれど、オベロンからの返事は無い。
やはりティーナさんの推測通り、あの謎の空間でのみ、オベロンは能動的に話しかけてくる事が出来た、という事だろうか?
『精霊の鏡』について、最初に僕に教えてくれたのはエレンだ。
彼女に『精霊の鏡』を入手出来た事を知らせて、色々教えてもらう……のは、今は
エレンは500年前の世界で共に過ごした記憶を
そんな彼女に、“特殊な状況下で『精霊の鏡』を入手した”なんて伝えたら、ノエミちゃんの祈りを無理矢理中断させて、ここへ駆けつけて来てしまうかもしれない。
まあどのみち、明後日の夕方にはエレンが直接、
僕は『精霊の鏡』をズボンのベルトに挟み込むと、【異世界転移】のスキルを発動した。
N市のボロアパートの部屋に戻って来た時、机の上の目覚まし時計は、午後6時10分を指していた。
僕はインベントリから取り出した『ティーナの無線機』を右耳に装着してからティーナさんに
「ティーナ……」
呼びかけてから、彼女が今、ハワイに居る事を思い出した。
ハワイとの時差って、確か19時間だから……
頭の中の計算が終わる前に、彼女からの囁きが戻って来た。
『おかえり。今は部屋?』
「そうだよ」
『今からそっちに行ってもいい?』
「大丈夫だよ」
ものの数秒で生成されたワームホールを通過して、ティーナさんが僕の部屋へとやってきた。
彼女は銀色の戦闘服を身に付けていた。
しかし意外な事に、彼女は“謎の留学生エマ”に扮していない。
「え~と、関谷さんも呼びたいんだけど……」
……その格好だとまずいのでは?
「もちろん、後で彼女も呼んで情報を共有するつもりよ。だけどその前に、少しいくつかの実験に付き合って欲しいの」
「実験?」
首を
「まず確認だけど、Takashiの持つ【スリ】のskillは、monsterのdrop itemに対しても有効って事よね?」
「どうだろう……」
アク・イールの最後の言葉に出てきたネックレスを手に入れるため、ドルムさんのポケットから金庫のカギを文字通り“スリ盗る”事で
ターリ・ナハを助け出そうとアールヴの地下牢に
少し苦笑しながら僕は正直に説明した。
「このスキル、戦闘とは直接関係無さそうだし、実は僕自身、よく分かってないんだよね」
「つまり、monsterのdrop itemに対して使用したのは、さっきのBuerが初めてって事?」
「ずいぶん
まあ使いこなせればそういう事も出来るかもだけど。
「MPは使用しないんだけど、成功率に関してはどういう要素が絡んでいるのか分からないかな。level補正みたいなのは絡みそうだけど……」
とはいえ、イスディフイの人々はともかく、
もしかしたら、レベルというよりはステータス値による補正なんかが働いているのかもしれないけれど、僕はそれを判断するのに十分な材料を持ってはいない。
僕の言葉を受けてティーナさんが口を開いた。
「それじゃあ、早速一つ目の実験よ」
そういやティーナさん、実験がどうとか言ってたっけ?
「そのスキルを使って、私から何かスリ盗ってみて」
「え?」
思わず目を見開いてしまった僕に、ティーナさんが
「なんでもいいわよ? 可能なら、私のこの“戦闘服の中”に身に付けている物をスリ盗ってもいいわよ?」
「中に身に付けて……って何言い出すんだよ!?」
どこぞの娯楽小説の主人公でもあるまいし、そんなモノに興味は……無い!
うん。
無いったら無い!
「いいから何かスリ盗ってみて」
せかされた僕は、仕方なくティーナさんの様子を観察してみた。
ウェーブのかかったブロンドの髪は、シンプルな髪留めで
身に付けている銀色の戦闘服には、あちこちポケットがついていている。
いくつかのポケットには何かの道具が収まってそうだけど……
観察を続けたけれど、ティーナさんの持ち物リストが一覧でポップアップする、なんて展開は起こらないようだ。
この【スリ】のスキル、僕の数少ない経験を思い返してみると、目標の品を【スリ】盗ろうとした瞬間に、目標物が僕の手の中に移動して来るって感じだった。
僕はティーナさんの右耳に視線を向けた。
そこには、僕や関谷さんが持っている物と対になる『ティーナの無線機』が、髪に隠されるかのように装着されているのが感じられた。
それに対して手を伸ばした瞬間、僕が持っている物と瓜二つな『ティーナの無線機』が、僕の右手の中に出現した。
ちなみに僕自身が持つ『ティーナの無線機』は、今の瞬間、僕の右耳に装着されたままだ。
つまりこの『ティーナの無線機』は、彼女が今の今まで自分の右耳に装着していたアイテムのはず。
それを目にしたティーナさんが大きく目を見開いた。
彼女は自分の右耳を確かめるような
「凄いじゃない。全く何も感じなかったわ」
「なんとか【スリ】盗れたって事になるのかな?」
僕はティーナさんに、今しがた【スリ】盗った『ティーナの無線機』を差し出した。
それを受け取った彼女が少しおどけた雰囲気になった。
「やっぱり私の国に来たら?」
「私の国って、アメリカへ?」
「そうよ。だってこんなskill、聞いた事無いわ。TakashiならERENだろうがFBIだろうがCIAだろうが引っ張りだこよ?」
「前にも言ったけど、海外移住する予定って無いから」
ティーナさんが微笑んだ。
「ふふふ、冗談よ。でもこのskillが非常に強力かつ有用である事が確認出来たわ……」
ティーナさんが一瞬試すような視線を僕に向けたように感じられた。
「God does not give two gifts. If you were an ambitious person……」
「何?」
「なんでもないわ。それじゃあ……」
ティーナさんが話題を変えて来た。
「……次の実験に行きましょ」
「行くってどこへ?」
「もちろん富士第一よ。実際にTakashiのそのskillを使って、monsterのdrop itemもスリ盗れるか確認してみないと」
数分後、僕とティーナさんは富士第一80層に降り立っていた。
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