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第411話 F級の僕は、“精霊”との話を切り上げる
第411話 F級の僕は、“精霊”との話を切り上げる
6月17日 水曜日25
―――……おぬし、一体何者じゃ?
叫び声を上げた後、少し心を落ち着かせたらしい“精霊”が警戒心を露わにしながら、ティーナさんに問いかけた。
「でスカラ“地球人”のエマです。より正確にはエマ・ブラウンです」
―――まさか、エレシュキガルかイシュタルに会った事があるのか?
「少なクトモ私が知る限りデハ、“地球人”でその二人と面識があリソウナのは、私達の仲間の中村サンだけデスよ」
ティーナさんの言葉を聞いた“精霊”が、露骨にホッとしたような雰囲気になった。
―――なんじゃ、おぬしが口にした内容はおぬしの憶測、というわけか。
「憶測デハ無く、状況証拠から判断した最も蓋然性ノ高い説明、と言ッテ下さい」
―――ふ、ふん! まあよいわ。いずれにせよ、
このままもう少し二人の会話を聞いていてもいいんだけど、体感的にはそろそろ
「あの……いいですかね?」
僕はおずおずと二人の会話に口を挟んでみた。
「“精霊”さん、まずはあなたの名前を教えてもらえないですか?」
―――名前、じゃと?
「はい。あなたを具体的になんと呼べばいいですか?」
―――
「オベロンさん?」
―――別に“さん”付けせんでもよい。単純にオベロンと呼べ。
「一応、慣れるまでは“さん”付けさせてもらいますね。それで……」
僕はティーナさんと関谷さんをチラッと見てから話を続けた。
「……実は今、あんまり時間無いんですよ。ですから一旦、ここから出ませんか? 話の続きはまた
―――そうじゃな。これ以上ここに長居しても
今までの雰囲気からして、ごねるかな? と思ったけれど、“精霊”改めオベロンもあっさり同意してくれた。
―――ではタカシよ。さっさと契約を済ませてこの地を去ろうぞ!
前言撤回。
「ですから、“契約”云々の話はまた後でって事で」
このオベロンと名乗る“精霊”は、どうも何かが怪しい。
それより何より、精霊と“契約”するなら、やはり僕としてはエレン立ち合いで行いたい。
―――なんじゃ?
どうやらこの性別年代不明の
って、そういう方向の話をしているわけでは無いので。
「“契約”の具体的な内容も、もっとしっかり確認させてもらいたいですし」
そう話しながら、僕は『ティーナの重力波発生装置』を手に取った。
―――具体的とな? それはもちろん、おぬしがエレシュキガルを……
オベロンが何か騒いでいるが、無視する形でティーナさんに視線を向けた。
「とりあえず僕の部屋にワームホールを……」
ティーナさんが、関谷さんに分からないようにウインクしてきた。
同時に、僕等のすぐ脇の空間が渦を巻くように歪みながらワームホールが形成されていく。
それに気付いたらしいオベロンが慌てた感じになった。
―――ま、待つのじゃ! まさか契約せずにここを去る気か?
「大丈夫ですよ。『
―――そ、そういう話では無いのじゃ。ここで契約を済ませなければ、
話している内にワームホールが完成した。
不可思議な空間の
オベロンがまだ何か叫んでいたけれど、僕はそれに構わず、ティーナさんと関谷さんに声を掛けた。
「行こうか?」
部屋に戻って来た時、机の上の目覚まし時計は午後4時13分を指していた。
結局、都合40分以上、あの謎の空間で過ごした計算になる。
ちなみに『精霊の鏡』は僕の手の中だ。
僕は改めてオベロンに話しかけてみた。
「オベロンさん、聞こえますか?」
しかし何の声も返って来ない。
ティーナさんと関谷さんに視線を向けてみたけれど、二人とも首を振った。
どうやら二人にもオベロンの声は届いていないらしい。
「もしかして、封印された状態で会話を交わし過ぎて、エネルギーを使い果たしたとか何かで休憩中、かな?」
オベロンは、僕がブエル(?)から『精霊の鏡』をスリ盗る前、そんな感じの言葉を残してしばらく声を掛けてこなくなっていた。
ところがティーナさんが意外な言葉を口にした。
「或イハ、オベロンはあの空間でノミ能動的に語り掛ケテ来る事が出来た可能性も考エラレますね」
「それってどういう意味?」
「あの空間は、オベロンが口にしテイタ異世界イスディフイに存在するデアロウ神樹第100層ゲートキーパーの間では無ク、間違いなく私達の世界のイズコカでした。加えテ、私がコレで……」
ティーナさんが、今回も持ち込んでいた白い立方体――
「……測定した結果デハ、九分九厘、富士第一100層ゲートキーパーの間でも無かッタハずです」
「ゲートキーパーの間じゃない?」
しかしあの空間に入る直前、僕等は確実に富士第一100層ゲートキーパーの間の前に立っていたはずだけど……
僕は以前、ティーナさんが話してくれた
―――私は、私達の世界に属する領域全ての座標を感知する事が出来ます。wormhole設置もそうした座標を参考にして行っています。
彼女が実際に
「あノ空間は……」
話を続けようとして、ティーナさんはチラッと目覚まし時計に視線を向けた。
釣られて僕も視線を向けると、時刻は午後4時20分を回ろうとしていた。
「そう言エバ、そろそろ
そうだった。
「話の続きハマタ今度にしマショう」
「了解。向こうでお昼を食べたら、多分、向こうの時間で夕方4時か5時に捜索隊が戻って来るまで暇になると思うからさ。こっちに戻ってこれたら連絡するよ」
ワームホールを潜り抜けて自分のアパートに帰って行く関谷さんを見送った後、ティーナさんが改めて声を掛けて来た。
「Takashi、分かっているとは思うけれど、くれぐれも勝手にOBERONと契約したらダメよ?」
「大丈夫だよ」
元々、『精霊の鏡』に封じられた
「OBERONが何者であるにせよ、私の推測が正しければ、非常に強力な存在よ」
「強力?」
ティーナさんが
「少なくともさっきまで私達が居た謎の空間にBuerを配置したのは、OBERONで間違いないはず。もしかすると、あの謎の空間自体もOBERONが作成したのかも。あの謎の空間、柱の配置、広さ、諸々のDataが、私が初めてErenと
ティーナさんが語尾を濁しつつ、刹那考える仕草を見せた。
「ま、とにかく、くれぐれも油断しないようにね」
ティーナさんに別れを告げた僕は、【異世界転移】のスキルを発動した。
シードルさんの屋敷の中、僕等に割り当てられた客室のベッドの上に戻って来た僕は、改めてインベントリから『二人の想い(右)』を取り出して、自分の右耳に装着した。
『“エレシュキガル”! 聞こえたら返事しろ』
しかし静寂が辺りを支配するのみ。
諦めた僕はインベントリに『二人の想い(右)』を仕舞い込むついでに、再度『精霊の鏡』も収納しようと試みた。
しかし先程と同様、『精霊の鏡』は軽い抵抗と共に押し返された。
不快な効果音が鳴り響き、赤枠赤字のポップアップが立ち上がる。
《!》逾槭↓螻槭☆繧アイテムは、インベントリに収納できません。
よく見ると文字化けしているな……
この文字化けが、インベントリに収納出来ない事と関係しているかもだけど。
仕方ない……
僕は『精霊の鏡』をズボンのベルトに挟んでから、ユーリヤさん達と昼食を共にするために部屋を出た。
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