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第413話 F級の僕は、ブエルと“再会”する
第413話 F級の僕は、ブエルと“再会”する
6月17日 水曜日27
ワームホールを潜り抜けて到達した先は、
大人が4~5人、横に並んで歩けるくらいの幅があるその場所は、床も壁も天井も磨き上げられた黒い御影石のような素材で構成されていた。
「ここが富士第一80層?」
僕の問い掛けに隣に立つティーナさんが
「Yes。階層全体から見れば南東の一角よ。ちなみに私の得ている情報では、今この時間帯、この階層に居る“地球人”は私達だけのはず」
富士第一ダンジョンは全体が24時間体制で政府により厳しく管理されており、均衡調整課を除けば、事実上、探索可能なのはS級達の率いるクランのメンバー達のみ。
ティーナさんの言葉の意味するところは、今日、この階層をクランや均衡調整課が探索する予定は入っていないって事だろう。
それはともかく、僕等がこの階層にやってきた目的はただ一つ。
「確か“
ティーナさんが確認するかのように声を掛けて来た。
ここ富士第一80層が神樹第80層と相同であれば、ここにもレイスが出現するはずだ。
どうせ実験――モンスターを斃す事無く、ドロップアイテムを【スリ】盗れるかどうか確認――するのなら、より有用なアイテムが対象であった方がモチベーションも上がるというものだ。
ただし神樹第80層同様、ここ、富士第一80層もレイスしか出現しない、なんて事は無いだろう。
可能ならば会敵するのはレイス一択に絞りたい所だけど……
「一応聞くけど、ティーナって、特定のモンスターを呼び寄せたり、その居場所が分かったりする?」
ティーナさんが首を振った。
「残念ながらそういう誘引や探索系統のskillは持っていないわ。私の持つ能力を工夫すれば、一定範囲内にmonsterが存在すれば、その気配は感じ取れるけれど、種別までは無理ね」
以前、神樹第80層でレイスと戦った際は、全てエレンが
まあ、アレは今考えれば恵まれ過ぎていただけで、本来なら自分の足で歩き回って、偶然遭遇したモンスター達を斃して回るのがダンジョン探索の基本なんだろうけれど。
仕方ない。
「とりあえずレイスを探してみよう。見つからなかったら、出会ったモンスター相手に、【スリ】盗りを試みてみるって事で」
僕等は回廊の暗がりの向こうへと足を踏み出した。
…………
……
1時間後――
「humm……これはどういう事かしら?」
首を
この1時間で、僕等はレイス3体、ブラックマンティス2体、そしてデッドリーラビット4体と遭遇し、それぞれから“ドロップアイテムを獲得”するのに成功してはいた。
しかしそのどれもが文字通りのドロップアイテム、つまり、モンスターを斃す事によって入手出来た品々だ。
どんなに時間をかけても――ティーナさんの能力でモンスターを身動き一つ出来なくしても――結局、モンスターを斃さずにドロップアイテムのみを【スリ】盗る事は出来なかったのだ。
「元々、ドロップアイテムは【スリ】盗れない、とか?」
僕の言葉に、ティーナさんが首を
「でも『精霊の鏡』って、Buerのdrop itemなんでしょ?」
「そう聞いていたんだけど……」
口にしながら、僕はオベロンと交わした言葉の数々を思い起こしてみた。
「もちろん、『精霊の鏡』がブエルのドロップアイテムだという事は知っています」
―――正確には……設定ミ……あ、いや、ちょっとした手違いというか、運命のいたずらという奴か、『精霊の鏡』はブエルの所持品になってしまっておるのじゃ。
もしかして……
僕より一足先に、ティーナさんが口を開いた。
「つまりOBERONの言葉通り、今Takashiの手元にあるのはBuerの“所持品として設定”されていた『精霊の鏡』って事かしら?」
「だとすれば……」
ティーナさんが言葉を続けた。
「Buerのdrop itemとしての『精霊の鏡』が今どうなっているのか、確認してみないといけないわね」
「どうやって?」
僕等は今日、富士第一100層、ゲートキーパーの間――白亜の巨大ドーム――の入り口から内部に入ろうとして、あの謎の空間に
ティーナさんがニヤリと笑った。
「もちろんこうするのよ」
口にすると同時に、ティーナさんが何かを念じる素振りを見せた。
途端に僕等のすぐ近くの空間が渦を巻きながら歪み始めた。
そして
ワームホールの向こう側には、魚眼レンズを通したように歪んではいるものの、99層までのゲートキーパーの間内部とよく似た情景が広がっているように見えた。
「この向こうって……」
僕が思わず口にした言葉に、ティーナさんが頷いた。
「正真正銘の100層gatekeeperの間の内部よ。Buerが居るかどうかは分からないけれど、もし居たらまずは【スリ】盗りを試みて、失敗したら斃して確認してみましょ」
斃して確認って……
仮りにも相手は100層のゲートキーパーだ。
それを微塵も感じさせないティーナさんの軽い雰囲気の話しぶりに、僕は思わず苦笑してしまった。
それにしても、さすがはティーナさんというべきか。
彼女は
ワームホールを潜り抜けた先は、燐光に照らし出された天井の高い大広間となっていた。
ここが正真正銘の100層ゲートキーパーの間内部であろうか?
ならば……
僕等の視線の先、20m程の所に、赤く燃え上がる直径5m程の巨大な球体が存在していた。
半透明に透けている球体の中心部には獣の顔が浮いていた。
そして球体そのものからは無数の獣の脚が生えていた。
あの謎の空間で僕等が出会ったブエル(?)そのままの姿をしたその球体が名乗りを上げた。
「我が名はブエル。ニンゲン、我に挑むか? その傲慢、
!
つまり、今僕等の目の前にいるこいつが正真正銘のゲートキーパー、ブエルという事だろうか?
ティーナさんが口を開いた。
「ブエルに問う。汝、オベロンなる精霊を知りたるか?」
「ほぉ……」
ブエルの獣の顔が目を細めたように感じられた。
「異世界人の女よ。汝はいかにしてこの地に至る事が出来たのだ?」
やはり今までのゲートキーパー達同様、ブエルの目にも、ティーナさんはイスディフイの人間では無い(=異世界人)、と映るらしい。
そしてその口ぶりから、ブエルもまた、ここが地球の富士第一などでは無く、イスディフイの神樹だと信じているらしい事も
ティーナさんが再び問い掛けた。
「ブエルよ、先に我が問いに答えよ。さすれば汝の問いに答えよう」
「よかろう」
ブエルが愉快そうに答えた。
「“おべろん”なる精霊について、我は何も承知しておらぬ。これで満足か?」
「では汝は『精霊の鏡』について知りたるか?」
「“せいれいのかがみ”?」
ブエルが怪訝そうな雰囲気になった。
「知らぬな……それより異世界人の女よ。我は汝の問いに答えた。汝も我の問いに答えよ」
ティーナさんは少し考える素振りを見せた後、口を開いた。
「汝の思い違いを正そう。世界の壁を越えて我等の世界を訪れしは汝らの方だ」
ブエルの獣の顔に一瞬、驚きの表情が浮かんだように見えた。
しかしすぐにそれは消え去り、獣の顔が怒りの色に染まって行く。
「
ブエルの球体が
こうして僕等にとって二度目の“ブエル討伐戦”が開始された。
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