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第400話 F級の僕は、ティーナさんの推論に耳を傾ける
第400話 F級の僕は、ティーナさんの推論に耳を傾ける
6月17日 水曜日14
“バハムート”の名が出たけれど、もしカマラが見た“化け物”が、本当に“バハムート”であった場合、少々おかしな話になる事に気が付いた。
「カマラの右目はイスディフイを見る事が出来るかもしれないんだよね?」
ティーナさんが
「彼女の話に合理的な説明をつけるとすれば、それが一番可能性が高いと思うわ」
「じゃあ、彼女はその“バハムート”もイスディフイで見た?」
ティーナさんの目が光った。
「おかしいでしょ?」
やはりティーナさんも僕と同じ疑問に辿り着いていたようだ。
僕は500年前のイスディフイでバハムートと戦った。
そして現在、僕等の世界のミッドウェイにバハムートそっくりのモンスターが出現している。
しかし僕の知る限り、今の、つまり僕が【異世界転移】で訪れる事の出来るイスディフイに“バハムート”はいないはず。
「可能性としては二つ」
ティーナさんが指を二本立てた。
「一つ目の可能性としては、Takashiが知らないだけで、今のisdifuiのどこかに、20~30mある黒い巨大なdragonが生息している」
それは確かに有り得る話だ。
まあ、実際にそういうバハムートのようなドラゴンが居るかどうかは、
ティーナさんが僕の反応を確認するような素振りを見せながら言葉を続けた。
「二つ目の可能性としては、彼女は何らかの要因で、Bahamutがあなたに斃される前の、つまり過去のisdifuiを覗き見る事が出来る」
「過去のイスディフイを?」
僕は思わず聞き返してしまった。
そんな事が可能なのだろうか?
「もちろん単なる可能性の話よ。だけど彼女の右目には、あの小惑星の欠片が飛び込んだ。あの欠片は落下地点にmonsterが徘徊するisdifui的な小さな異界――dungeon――を生成したわ。彼女の目に飛び込んだ欠片はdungeonを生成する代わりに、欠片自身の起源に関する情報を彼女に与えたのかも」
「欠片の起源に関する情報って……」
ティーナさんの言葉の意味するところを自分なりに咀嚼しようとしたところで、いきなりティーナさんが僕の手を握ってきた。
「!?」
いきなりな彼女の行動に狼狽する僕に構わず、ティーナさんが真剣な眼差しで僕の顔を覗き込んできた。
「私が相手の記憶を覗ける事は知っているでしょ?」
彼女は握手のように、相手と自分の手の平を重ねる事で、相手の記憶を覗く事が出来る。
って、まさか、いきなり僕の記憶を覗こうとしている?
あれ?
でも前に、僕のステータス値が高くなり過ぎて、能動的には僕の記憶は覗けなくなったって
僕の心の動きが伝わったかのように、ティーナさんが苦笑した。
「安心して。私の記憶の一部をあなたに視せようとしているだけよ」
彼女は相手の記憶を覗くだけでなく。自らの記憶を相手に視せる能力も持っている。
「何についての記憶?」
「Kamalaが右目で何を見たのか、直接あなたにも視せるわ」
どうやらティーナさん、カマラの記憶を覗いたようだ。
その時、彼女の右目が見た情景も覗き見る事が出来たという事だろう。
「準備はOK?」
ティーナさんの言葉に僕が頷いた途端、いくつかの断片的な事物や情景が奔流の如く、僕の中へと流れ込んできた。
夜空を照らす二つの月。
天を衝く神樹。
アールヴ神樹王国の王都アールヴ。
通りで語り合うエルフ達。
街の外、街道を行き交う旅人達。
野に潜むワイルドドッグの群れ。
そして……
臥竜山の山頂で
ふいにバハムートが鎌首をもたげ、こちらに視線を向けて来た。
―――オオオオオオオン!
凄まじい咆哮が、僕の身体ごと、大気を震わせた。
怒りで真っ赤に染まった瞳をこちらに固定したまま、バハムートが猛然と向かってきた。
大地を震わせながら迫るバハムートが大きく口を開いた。
一本一本が大人の背丈位ありそうな鋭い牙が月光に照らし出される。
そして口中に輝きを放ちながら強大なエネルギーが収束していく…….
ふいに全ての情景が幻のように消え去った。
僕が……というより、恐らくこの情景を直接目にしたカマラが感じた絶望と恐怖が、ティーナさんを経由して僕にまで伝わってきたのだろうか?
視せられた情景が他人の記憶の産物だ、と頭では理解出来ても、破裂しそうな位強くなっている心臓の鼓動は中々収まってくれない。
「視えた?」
ティーナさんの囁くような問い掛けに、僕はようやく頷きを返した。
「どう?」
「どう……って?」
「あの黒いdragonは他人の空似? それとも……」
僕は呼吸を整えながら言葉を返した。
「間違いなくバハムートだった」
「Kamalaが描いてくれた“化け物”の絵を見た時には、語尾に“
「僕がかつて斃したバハムートと姿形が完全に一致していた。それに、バハムートが居た場所も僕は知っている。あそこは臥竜山と呼ばれる場所だ。特徴的な形をしているから見間違えようが無い」
「それで確認だけど、今のisdifuiの臥竜山には、Bahamutは居ない?」
僕は頷いた。
「少なくとも僕等の世界に黒い結晶体が生じて、その
「という事は……」
言いかけて、ティーナさんはそのまま何かを考え込んでしまった。
「どうしたの?」
僕は話しの続きを促す目的もあって、ティーナさんに声を掛けた。
彼女が苦笑した。
「ごめんね。私達の世界をこんな風に変えてしまったあの小惑星の起源が、500年前のisdifuiにあるんじゃないかって仮説についてちょっと考えていたの」
「500年前のイスディフイに?」
ティーナさんはかつて、富士第一でゲートキーパーを斃した後に新しく生成する階層が、イスディフイから時を越えて転移してきている
そして今、彼女の頭の中では、あの小惑星さえ、時を越えて転移して来た物だった可能性が考慮されているらしい。
「まあ、まだまだ検証が必要だけど、可能性としては相当程度アリじゃ無いかしら?」
「根拠は?」
「まずはKamalaの存在よ。彼女の右目に映るisdifuiは、少なくとも臥竜山にBahamutが存在する時代、過去のisdifuiの可能性が大でしょ? それには彼女の右目に飛び込んだ小惑星の欠片が関わっている可能性が大きい。それからあなたの存在。あなた自身、Ereshkigalによって500年の時を越えて過去のisdifuiに召喚された。そしてEreshikigal自身の口から、あなたがisdifuiに関わるきっかけになった、【異世界転移】のskill書は自分が用意した、と告げられた」
ティーナさんの言葉は、驚きは有れど、論理にそんなに飛躍は無いように感じられる。
「これらを勘案すれば、私達の世界への攻撃を指揮しているのは500年前、まだ封印されず異世界isdifuiでErenの身体を乗っ取って活動しているEreshkigalである、と相当な確度で言い切れる。だけどチベットでの反撃は、“今の”isdifuiから成された可能性が高い。という事は、Ereshkigalは時の壁を越えて何かを成す事が可能と結論付けられるわ。だけど……」
ティーナさんが少し口ごもった。
「もしこの仮説が正しいと仮定すれば、いくつか矛盾点も出て来るわ」
「矛盾点?」
ティーナさんが頷いた。
「色々あるけれど、一番大きな矛盾点は、Ereshkigalが時の壁を越えて何かを成せるなら、どうして“彼女”は結局封印されてしまっているのかって事よ。時の壁を越えられるなら、自身が封印されるに至る原因そのものを排除出来そうなものじゃない? 例えばあなたに封印される未来を知っているなら、最初からあなたを500年前の世界に“召喚”しなければいいだけだし。まあこれに関しては、いくつか仮定に仮定を重ねれば説明は付くかもしれないけれど。逆に言えば、いくつもの仮定を重ねないと説明出来ない事になるし……」
一旦言葉を切ったティーナさんが首をすくめた。
「ま、結局はまだまだ検証が必要って事ね」
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