第367話 F級の僕は、関谷さんと会って相談したいと話してみる


6月15日 月曜日25



「そんなに驚かなくてもいいんじゃない?」


ティーナさんが、なぜかニヤついている。

どうやらいつの間にかワームホールをくぐり抜けてやって来ていたティーナさんが、僕のスマホを背後から覗き込もうとして、彼女の髪が僕の頬に触れたってコトだったらしい。


「さては浮気mailね?」

「違うよ! 関谷さんからのメッセージを確認しようとしていただけだよ」

「Sekiya-san? どれどれ……」

「って、覗き込まない!」

「Just a kidding. 冗談よ」


ティーナさんはニヤつきながらも、とりあえず僕から身を離してくれた。

僕は彼女にスマホの裏面を向けながら、関谷さんからのメッセージを確認してみた。



『こんな真夜中までお疲れ様。今から電話したらダメかな?』



「Sekiya-san、なんて?」


ティーナさんが好奇心でいっぱいな感じで問い掛けてきた。


「今から電話してもいいかなって」

「Wow!」


ティーナさんが大仰に驚いたような顔になった。


「こんな真夜中にTakashiと話したい、だなんて、Sekiya-sanも意外と大胆ね」

「いや、僕がこんな時間にメッセージ送ったせいで起きちゃったからだと思うよ」

「Ladyから電話させるなんて失礼よ。ここはTakashiの方から電話を掛けてあげるべきだと思うわ」


……雰囲気からして、完全に面白がっているな。

しかしもしかしたら関谷さん、急いで僕と連絡取りたい何かの事情があるのかもしれないし……


諦めた僕は、スマホを手にして関谷さんの電話番号をタップした。


『もしもし? 中村君?』


最初の呼び出し音が鳴り終わる前に、スマホから関谷さんの声が聞こえてきた。


「関谷さんごめん。起こしちゃったかな?」

『ううん、大丈夫。それより中村君こそ、こんな真夜中までお疲れ様。色々あったってメッセージくれたけど、もう解決したの?』


僕はチラっとティーナさんの方に視線を向けた。

しかし彼女は素知らぬ顔で、特に何も声を掛けてこない。

確かティーナさん、僕に見せてくれた記憶の中で、マイクロワームホールを作って、関谷さんと曹悠然ツァオヨウランとの電話に“聞き耳第320話”立てていた。

という事は、この会話も当然“聞き耳”立てている可能性がある。

というか、彼女の性格からしてほぼ“聞き耳”立てているのは間違いないように思われた。


僕はスマホをスピーカーに切り替えた。

どうせ聞いているのなら、堂々と聞かせてあげよう。

別にやましい事は無いわけだし。


「解決と言うか、目途がついた話と現在進行形の話と両方あってね」

『現在進行形?』


僕がスマホを机の上に置き、切り替えられたスピーカーから関谷さんの声が聞こえてくると、ティーナさんが悪戯っぽい笑顔で囁いてきた。


「いいの? 私に聞かせちゃって」

「どうせ聞いているでしょ?」

「あら? 意外と頭が回るのね? 抜けているTakashiも結構魅力的だったのに」


聞きようによっては酷い言われようだ。

と、スピーカーから関谷さんの声が聞こえてきた。


『中村君?』


とにかくティーナさんは置いておいて、関谷さんとの電話に専念しよう。

僕はティーナさんを軽く睨んでから関谷さんに言葉を返した。


「ごめんね。ちょっと場所移動していたから」

『今はアパートに居るの?』

「実は……」


僕は関谷さんに、富士第一のゲートキーパー謎の消滅について、斎原さんから関与しているのでは? との疑念を向けられている事。

その結果、均衡調整課の四方木さんの思惑で、今夜は均衡調整課の宿直室に泊らないといけなくなった事。

そして明日は、斎原さんが富士第一97層から戻って来るまで、1時間おきに定時連絡を求められている事等を説明した。


話を聞き終えた関谷さんが、言葉を返してきた。


『ねえ、昨日私に貸してくれた第342話マントって、富士第一の94層のゲートキーパーを斃して入手したって話していたよね?』

「そうだよ」


関谷さん自身の強化の一助になれば、と僕は彼女に『ゼパルのマント』を手渡していた。


『つまり、96層までのゲートキーパー達も……?』


あれ?

そう言えば、色々説明したけれど、富士第一のゲートキーパー達を斃して回っている話はしていなかったっけ?


「まあそう言う事だね」


関谷さんが、電話口の向こうで少し笑い声になった。


『じゃあ疑念も何もないじゃない』

「まあそうなんだけど」


疑念も何も、僕が正しく“ゲートキーパー謎の失踪事件”に関する真犯人なわけだけど。


『でも明日、1時間おきに定時連絡って大変だね』

「そうなんだよね……実は向こうでも色々頭悩ませる出来事が起こっていてね。1時間に1度こっちに戻って来るのって、正直、とても面倒くさいというか」

『向こうって、イスディフイ?』

「うん」

『そうなんだ……こっちでの定時連絡、私が変わってあげられれば良かったんだけど』


それは無理な話だろう。

チャットメッセージでのやりとりなら何とかなるかもだけど、四方木さんは当然、電話での連絡――つまり僕自身の声で――を要求してくるはずだ。

と、ティーナさんが囁いてきた。


「Sekiya-sanに手伝ってもらえるかも」

「え? 無理でしょ?」

「私に考えがあるから、彼女に今から会えないか聞いてみて」

「ええっ!? 今から!?」

『中村君!?』


思わず上げた大きな声に、関谷さんが反応した。


『大丈夫? 何かあったの!?』

「なんでもないよ。ちょっと……黒いアレが出たもので……ちょっと待ってね」


僕はスピーカーを切ってからティーナさんに囁きかけた。


「いくらなんでもこんな真夜中に会おうって失礼でしょ?」

「あら? こんな真夜中に電話で話したいって言ってきたのは向こうからよ? 会おうって言えば、むしろ大喜びするはずよ」

「会ったとして、どうするつもり?」

「うまくいけば、明日関谷さんに身代わり演じてもらえる方法、教えてあげる」

「そりゃ誰かに身代わりして貰えれば助かるけれど……って誰が教えるって?」

「だから私よ」

「まさか、今から関谷さんちにワームホール開いて一緒に?」

「Ding ding ding! Correct!」

「……なんて説明するの?」

「それは会ってからのお楽しみ」

「じゃなくて、ティーナの事をだよ」

「そうね……今からあの留学生Ema-sanに連絡取るから、Sekiya-sanの所に直接wormhole開いて出向いてもいいか聞いてみて」

「ワームホールは、僕の能力って事で?」

「そうね。特殊な条件が揃った今の時間だけ使えるとかなんとか伝えれば、真夜中にTakashiがEma-san呼び出してっていうのも説明しやすくなるんじゃない?」


まあ確かにもし明日、1時間おきにこことトゥマの街を反復横跳びの如く【異世界転移】繰り返さなくて済むなら、滅茶苦茶助かるけれど……


少し迷った僕は、結局ティーナさんの囁きに乗る事にした。


スマホをスピーカーに戻してから関谷さんに声を掛けた。


「ごめんね。バタバタしちゃって」

『ううん。大丈夫。それで……やっつけたの?』


やっつけた?

一瞬戸惑ったけれど、すぐに関谷さんとの電話が中断する寸前の会話を思い出した。


「あ、ああ。無事退治できたよ。それでちょっと相談なんだけど……」

『どうしたの?』

「今の時間帯なら、ちょうど色々条件が揃って、関谷さんちに転移出来そうなんだ」

『転移!?』

「ほら、田町第十で僕が皆を脱出させたあの銀色の……ワームホール」

『そう言えば中村君、あの時黒い立方体を使って、私達を中村君のアパートに逃がしてくれたよね。アレってワームホールを発生させる装置だったんだ』


関谷さん的には、そういう認識になっているらしい。

ならばその認識に乗っかっておこう。


「まあそんな感じ。で、もし良かったらあのエマって留学生のコも呼んで、皆で明日の事を相談したいな、と。ダメかな?」

『私は全然構わないけど……エマさん、こんな真夜中に連絡取れたりするの?』

「その点は心配しないで。彼女、夜型らしくてさ。実は関谷さんと連絡取る前に既に一度連絡済みなんだ」

「そうなんだ……分かった。じゃあ30分後に来てもらってもいい? 部屋片づけたり、着替えたりしたいから」

「ありがとう。そっちに転移する前に一度電話するからさ」

「うん。それじゃあ一回切るね」

「また後で」



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