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第361話 F級の僕は、魔導電磁投射銃を返しに行く
第361話 F級の僕は、魔導電磁投射銃を返しに行く
6月15日 月曜日19
ユーリヤさんと一旦別れた僕は、これからの予定を頭の中で組み立てながら、ターリ・ナハ、ララノア、アルラトゥの三人に話しかけた。
「僕は一度また“倉庫”にアイテムを取りに行ってくるよ」
ターリ・ナハとララノアは、僕が
しかしこの場にはアルラトゥが居る。
まだ彼女を完全には信用しきれていない僕は、当然ながら【異世界転移】のスキルについても彼女に説明していない。
だから【異世界転移】してくる予定である事を、そんな風に言い換えて伝えてみたのだ。
「多分、1時間位で戻って来られると思うんだけど……」
話しながら周囲に視線を向けてみた。
付近では、街の住民達が日常生活を再開させようと、忙しく立ち働いている姿が目に飛び込んできた。
僕が【異世界転移】している間、彼女達に待機してもらえそうな場所は……
少し考えた後、言葉を続けた。
「昨日泊った宿、ここから歩いて10分程度だからさ。行ってみよう。お願いしたら、1時間位なら君達が休めるスペース、貸してもらえるかもしれないし」
皆と一緒に宿に向かう道すがら、行き交う人々から次々と声を掛けられた。
皆が口々に僕を英雄だと称え、感謝の意を示してくる。
確かにユーリヤさんが、街中に響く
どうして絶対に会った事が無さそうな住民達からまで声を掛けられるのか、首を捻っていると、それに気付いたらしいアルラトゥが推測を口にした。
「ご主人様は、帝国では珍しい黒髪黒目をお持ちでございます。ご主人様の容姿に関しましては、共に戦った冒険者や兵士達が、住民の皆にあらかじめ伝えていたのでございましょう。それに……」
アルラトゥの指し示す先、僕等の進行方向の人々が、僕が通過する場所で巻き起こる賞賛の嵐に興味深げに視線を向けてきている。
「こうしてご主人様が歩き回られる事で、一種の凱旋式状態になっております」
つまり賞賛を浴びながら歩く事で、僕自身が“街を救った英雄ここにあり”みたいな感じで、触れ回っている状態になってしまっているらしい。
とは言うものの、この道を行かないと宿には
「ご主人様が街をお救いになられたのは
そんな事を言われて、はいそうですか、と出来るタイプの人間では無い。
諦めた僕は、時に店の商品と思われる物品まで押し付けてくる人々に、引きつった笑顔で応じながら、宿への道を急ぐ事にした。
宿に到着した僕等を、宿の主人以下、従業員達は大歓迎してくれた。
「タカシ様、もしや今宵の宿にウチを選んで下さったので?」
宿の主人が身を乗り出さんばかりに話しかけて来るのを制しながら、僕は1時間程、ターリ・ナハ達に休めるスペースを貸して欲しいと伝えてみた。
「もちろん、ご料金はお支払いしますから」
僕の言葉を聞いた宿の主人が、とんでもないといった感じで言葉を返してきた。
「タカシ様の奴隷達なら、私どもが責任を持って預からせて頂きます。お代? そんなもの頂けるわけないじゃないですか」
「いえ、でも……」
「タカシ様は、お腹は空いていらっしゃらないですか? なんでしたら、奴隷達の分も含めて、腕によりを掛けて、特別料理をご用意させて頂きますよ?」
時刻的には、そろそろ午後5時になろうとしている。
「それじゃあ、僕は少し出掛けて来るので、彼女達に何か食べさせてあげて下さい」
「かしこまりました!」
主人が料理人を促して、いそいそと厨房へと消えて行った。
そしてターリ・ナハとララノア、そしてアルラトゥの3人は、奴隷用では無く、一般の人々が使用する席へと案内された。
僕は宿の従業員達に感謝の意を伝えてから、皆に声を掛けた。
「それじゃあ行ってくるよ。それでこれを……」
僕は『二人の想い(右)』をターリ・ナハに差し出した。
「……君に渡しておくから、アリア達と連絡試みておいて。それと、もし彼女達が街に到着したのが確認出来たら、迎えに行ってあげて欲しいんだ」
「分かりました。お任せ下さい」
僕は宿の従業員達に、ターリ・ナハがもしかすると知り合いを迎えに行くかもしれない事を伝えてから宿を後にした。
さて……
宿を出た僕は、やはりと言うべきか、残念ながらと言うべきか、大勢の住民達の賞賛と感謝の目に
衆人環視の中、堂々と【異世界転移】するわけにもいかない僕は、適当に物陰目指して駈け出した。
そして他人の視線を全て振り切った事を確認してから、スキルを発動した。
「【隠密】……」
たちまち自分の姿が周囲に溶け込んで行くのが感じ取れた。
そのまま僕は、別の建物の物陰へと素早く移動した。
路地裏のその場所は、廃材なんかが置かれているだけで、人影は見当たらない。
「【異世界転移】……」
戻って来たのは、僕が魔導電磁投射銃を借り受けた後、イスディフイへと【異世界転移】したまさに
当然ながら、トゥマより4時間進んでいるここN市では、とっくに太陽は沈み、夜の帳が下りていた。
薄暗い中、トゥマとは真逆の季節の生ぬるい風が肌を撫でて行く。
僕は周囲を見回して、人影と監視カメラの
均衡調整課の入る総合庁舎は、ここから二棟先の建物だ。
インベントリから魔導電磁投射銃を収めた黒いケースを取り出し、背中に背負い直した僕は、急ぎ足で均衡調整課へと向かった。
自動扉を抜け、均衡調整課併設の販売店に足を踏み入れると、壁に掛けられた時計の針は夜の9時25分を指していた。
さすがに平日の夜という事もあってか、訪れている人々はまばらだ。
僕は入り口脇のカウンターで会計業務を担当している職員に話しかけた。
「こんばんは。中村です。
その職員とは顔見知りだった。
彼は僕の姿に気付くと笑顔になった。
「中村さん、どうぞこちらへ」
彼は僕を奥の扉の向こう、特別室に案内してくれた。
ソファに腰掛けそのまま待つ事数分で、四方木さんと真田さんが、連れ立ってやってきた。
「お疲れ様です、中村さん」
「お疲れ様です」
挨拶もそこそこに、僕は魔導電磁投射銃を収めた黒いケースをテーブルの上にそっと乗せて差し出した。
「コレ、ありがとうございました。約束通り、返しにきました」
「これはご丁寧に」
四方木さんの指示を受けて、真田さんが成れた手つきで返却手続きを開始した。
四方木さんがそれを横目で見ながら。話しかけてきた。
「お役に立てましたか?」
「それはもう……ありがとうございます」
僕は改めて頭を下げた。
実際、コレが無ければ、召喚門は破壊出来なかったかもしれない。
召喚門が破壊できなければ、トゥマの戦いはもっと長引き、より悲惨な結末を迎えていたかもしれない。
「お役に立てて何よりです」
四方木さんがニコニコしている内に、返却手続きは終了していた。
「それでは……」
僕が腰を上げようとするタイミングで、四方木さんがそれを手で制してきた。
「? どうかしましたか?」
「あ、いえ、そんな大した話じゃ無いんですがね……」
四方木さんが、なぜか探るような視線を僕に向けて来た。
「中村さん、ここ最近、夏山登山とか、楽しまれてはいないですよね?」
「夏山登山?」
自慢じゃないけれど、世界が今みたいな状態になる前から、登山なんかのアウトドアとは縁遠い生活を送って来た。
「例えば、富士山、とか」
「富士山?」
富士山は、富士第一ダンジョンが政府の管轄下に置かれて以来、一般人の無許可入山は禁じられている。
どうして、突然富士山の話が出てくるのだろうか?
「いえね、中村さんも御存知の通り、93層のゲートキーパー、突然
僕の全身を緊張が走る。
なぜ今、唐突に93層の話が蒸し返されている?
「あれからS級の皆さんのご尽力で、さらに深層の探索が行われたんですけどね」
四方木さんは、僕の反応を確認するかの如く、言葉を続けた。
「94層も95層も、それから96層も、ゲートキーパーの間にゲートキーパーらしき存在は確認出来なかったんですよ」
―――ドクン!
僕の心臓の鼓動が一気に跳ね上がった。
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