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第359話 F級の僕は、エレンとの会話を通して自分の心の弱さを知る
第359話 F級の僕は、エレンとの会話を通して自分の心の弱さを知る
6月15日 月曜日17
エレンが口にした言葉の数々は、どれも僕にとってはとても衝撃的だったけれど、同時にやはり彼女が冷静な観察眼の持ち主である事を再認識させてくれた。
僕は話題を変えてみた。
『ところでエレンは、召喚門って知っている?』
『知っている』
『僕が聞いた話では、術者の能力に応じて、召喚門を使って遠くに居るモンスター達を転移させて呼んで来る事が出来るって事だけど、この認識でいいのかな?』
『その認識で合っている』
『召喚門を使用する時って、術者は召喚門の傍にいないといけないの?』
少し間があってから、答えが返ってきた。
『場合による。使用者が魔族なら……それも相当強力な術者なら、離れた場所からでも召喚門を作動させる事は可能』
『じゃあ他種族は?』
『他種族? ヒューマンやエルフという意味?』
『そうそう。例えば、ダークエルフが離れた場所から召喚門を使って、数千のモンスターを呼び出して使役する事って可能かな?』
『ダークエルフ……恐らく不可能。召喚門は元々、魔族が従えたモンスター達を遠隔地へ転移させる為に作り出した物。魔族以外が使用したとしても、数千のモンスターを転移させ、
そっか……
ならばダークエルフであるアルラトゥが、今朝の襲撃の指揮官って説は成り立たないか。
では、やはり他に魔族の指揮官が居て……いや待てよ?
『エレンはさ、僕の周囲に誰かが居るのをぼんやりとなら感知出来るんだよね?』
彼女は、僕の傍に誰かが居れば、その種族名ならば
『出来る』
『じゃあさ、僕の傍に魔族が居るかどうか、分かる?』
ハーフエルフであるユーリヤさんは、
ならば、魔族がダークエルフに擬装するのも可能なのでは……?
少しの間を置いて、エレンから念話が返ってきた。
『魔族の存在は感じられない。感じるのは、獣人一人と……ダークエルフが二人』
オロバスの馬上、僕の後ろには、ララノア、アルラトゥ、そしてターリ・ナハが乗っている。
『可能性の話として、魔族がエレンの目を
『まず不可能なはず。なぜなら私は今、あなたの周囲の存在を魔力の質で“視”分けている。見た目をいかに変えたとしても、魔力の質は変えられない。魔族とダークエルフとでは、魔力の質が全く異なっている』
『そうなんだ……』
アルラトゥが実は魔族だったって線は薄そうだ。
『もしかしてあなたは、同行するダークエルフが今回のモンスター数千によるトゥマ襲撃に関わっているのでは、と疑っている?』
『まあ、そうなんだけどね』
『可能性としては……無くはない……かも』
『やっぱり?』
やはりアルラトゥが何らかの形で関わっていた?
『さっきも話した通り、ネルガルにあなたを転移させた何者かは、あなたの行動を先読みして手を打っているように見える。ならば何らかの形であなたを監視している可能性がある。方法の一つとして考えられるのは、当然、あなた自身に監視役を付ける事。監視役がとても自然な流れであなたの仲間として潜り込めば、あなたから疑いの視線を向けられる危険性を下げられる。それに……待って……そういう話なら、ララノアが怪しい』
『ララノア?』
アルラトゥでは無くて?
エレンの口から飛び出した意外な名前に、僕は少し戸惑った。
『あなたが私に教えてくれた通りなら、彼女は早い段階で、少なくともあなたとターリ・ナハから見て、不自然では無い形であなたの
『まあ、そうだけど……』
僕は改めて、ララノアと
確かに彼女は色々“
『ララノアがあなたの信頼を相当程度勝ち得たと思われる段階で、いかにも怪しい感じのアルラトゥが現れた。現状、あなたもアルラトゥを完全には信頼していない。違う?』
『その認識も合っているよ』
まあアルラトゥも今の所、僕に不利になるような事は、何一つ行っていない……ように見えるけれど。
『ララノアが送り込まれた監視者だ、と仮定したらの話だけど……アルラトゥの存在は、ララノアにとって非常に有利に働いているのは事実』
『有利に?』
『現状、あなたの疑念はアルラトゥに向けられている。監視者としてこれ程都合の良い状況は無い』
確かに
僕の心の中に、まるで水面に落とされた小石が引き起こすような波紋が広がっていく。
『つまりエレンの推測では、ララノアもアルラトゥもその何者かによって、相次いで僕のもとに送り込まれてきた……って事?』
心の中に広がった波紋の波高が次第に高くなっていく。
もし僕をネルガルに転移させた何者かが、僕にとって非常に敵対的な存在であったならば、当然、アルラトゥそしてララノアと戦わねばならない瞬間が来るかもしれなくて……
それは当然、僕或いは彼女達の死という最悪の結末も有り得るわけで……
ふいに、ララノアが背中から僕のお腹の方に回してきている小さな手の存在が意識された。
最近いつも彼女はオロバスに一緒に乗る時、必ず僕の後ろに
すっかり気にしなくなっていたその行為も、エレンの推測を聞いた後では、僕を監視し、束縛する鎖に思えて……!
黒い感情が
そう感じた瞬間、エレンの念話が届いた。
『タカシ、闇に心を
『エレン……』
『私が口にしたのはあくまでも推測。何者かがあなたの行動を予測出来るとするなら、私の推測を聞いたあなたが心を闇に委ねるのを待っている可能性すら考えられる。そんな思惑に乗ってはダメ』
エレンの言う通り、エレンの言葉はあくまでも推測に過ぎない。
推測に振り回されて、結局自滅するなら、その何者かの真の目的が何であれ、良い笑い者だろう。
『ごめんなさい……』
エレンが落ち込んでいるのが感じられる。
『私が勝手な推測を述べたから……』
『そんな事無いよ』
そう。
エレンが謝るところではない。
僕が自分の心の弱さを恥じるべきところだ。
『エレンにはいつも感謝しているんだ。君はいつも、僕では気付く事が出来ないような事を気付かせてくれるからさ』
言葉は難しい。
僕の真意は彼女に伝わっているだろうか?
『とにかく、クリスさんやアリア達と合流出来たらすぐに連絡するから』
『分かった』
『ノエミちゃんにも宜しく』
『彼女が祈りを中断すれば、タカシから聞いた今の話、彼女にも伝えるけれど、構わない?』
『もちろんだよ。出来ればノエミちゃんの意見も聞いてみて』
僕自身は全然完璧人間じゃ無いけれど、
だからこそ、そんな僕を助けてくれる素晴らしい仲間達こそ、僕の強みのはず。
そう考えれば、僕のお腹に回されているララノアの手も
―――ぴくっ!?
僕の感情の動きなんて知る由も無いであろう彼女の当然すぎるその反応に、僕は慌てて自分の右手を離した。
「ごめんよ、びっくりさせて」
後ろに囁きかけると、一瞬の間を置いて、ララノアがなぜか自分の顔と身体を僕の背中に押し付け、もっと強く抱き付いてきた。
「ララノア……?」
彼女は
「大丈夫?」
振り向きながら囁くと、彼女はハッとしたように顔を上げた。
しかしそれも束の間、すぐにフードを深く
……
ま、まあよく考えたら、コレが彼女の“普通”だ。
再び前方に視線を戻して走る事1時間。
僕等は西日の射す中、トゥマの街に無事帰り着いた。
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