第351話 F級の僕は、召喚門を破壊する


6月15日 月曜日9



城門から出た僕は、後ろにまたがるララノアとアルラトゥに声を掛けた。


「とりあえず、さっき召喚門があった場所に向かってみるよ。ララノアは正確な場所が感知出来たら誘導して。アルラトゥは僕等の防御、宜しく頼むよ」

「か……かしこまり……ました……」

「お任せ下さい」


二人の準備が整ったのを確認した僕は、背中に魔導電磁投射銃を背負い、右手に持ったボティスの大剣を振り回しながら、モンスターの大群のど真ん中にオロバスを突っ込ませた。



―――グオオオオオォォォ!



モンスター達が咆哮を上げて襲い掛かってきた。

そこへ、僕等を援護するために城壁の上から放たれた魔法や遠距離攻撃が雨のように降り注いでいく。

モンスターが時折ときおり光の粒子となって消えていき、僕が関わった攻撃によるものだった場合は、それを告げるポップアップが次々と立ち上がって行く。

そのたびに魔石やアイテム類が散乱していくけれど、それを拾っている余裕の無い僕は、ひたすら召喚門がある(はずの)方向へと突き進んだ。

やがてあらかじめ目星めぼしをつけていた付近に到着した。


「ご……ご主人様……南西……」


ララノアの言葉を聞いた僕はすぐにスキルを発動した。


「【看破】……」


途端に、南西300m程の所に、陽光を受けて鏡のように輝く召喚門と、それを支える4体の巨大な地竜の姿が揺らめきながら出現した。

僕は、ララノアに問いかけた。


「あの召喚門の近くには指揮官みたいなの、居るかな?」


居るなら、召喚門を破壊した後、なんとか生け捕りにしたい。

そうすれば、この攻撃の背景――僕は“エレシュキガル”が絡んでいると思っているけれど――をより詳しく探る事が出来るかもしれない。


ララノアは探るような素振りを見せた後、言葉を返してきた。


「も……申し訳……よ、よくは……」


よく分からないって事だろうか?

もしかすると、召喚門を護る結界とやらが影響しているのかもしれない。

ならば、まずは召喚門の破壊だ。

カロンの小瓶によるステータス押し上げ効果第346話は切れてしまっているけれど、永続的に僕のステータスを50%上昇させてくれるエレンの祝福その他を加味した今の僕の知恵のステータス値は、157。

そしてMPは、アルラトゥが付加してくれた{+2000}加えて2,166。

魔導電磁投射銃は、使用者の知恵のステータス値×充填したMP分の無属性の魔法攻撃を発射できる第113話から……


僕は魔導電磁投射銃を構えると、召喚門に照準を合わせた。

そしてMP2,100を銃身に充填して引き金を引いた。



―――ドシュッ!



総計329,700の無属性の魔法攻撃力が、召喚門目掛けて発射された。

以前ララノアが攻撃魔法を放った時とは異なり、僕の攻撃は結界らしきものに阻まれる事無く、召喚門へ到達した。



―――ドゴオオォォン!



轟音を上げて召喚門が吹き飛んだ。

同時に、召喚門を支えていた4体の地竜達が咆哮した。

召喚門破壊の余波を受けたらしい彼等は、傷付きよろめいていた。


召喚門を使用してこの地にモンスターを転移させていた指揮官は?

斃したというポップアップが立ち上がっていない以上、まだ召喚門があった場所の近辺に留まっている?


目を凝らしてみたけれど、距離のせいか、よろめく地竜達の影に居るのか、とにかくその姿は、ここからでは確認出来ない。

僕は召喚門が存在した方向に視線を固定しながら、【看破】の発動を停止した。

見える情景に変化は現れない。

召喚門が破壊された事で、結界もまた消滅したのであろうか?


僕は再度ララノアに問いかけた。


「今はどう? 指揮官らしき人物って?」

「て、敵の……指揮官……」


ララノアは一生懸命、何かを探るような素振りを見せた後、消え入りそうな声で言葉を返してきた。


「す……すみません……み、見つから……」

「結界か何かの影響?」

「いえ……その……」


理由は不明だけど、つまりララノアの能力では指揮官の居場所を感知出来ないって事だろう。

仕方ない。

さっきまで召喚門があったあの場所まで直接行って、確認してこよう。


その前に……


僕は背後にまたがるアルラトゥに声を掛けた。


「さっきの攻撃でMP2,100消費したんだけど、君の能力を使ってMPの補充って可能かな?」


視線の先には、傷付いているとは言え、巨大な4体の地竜の姿があった。

あの場所に近付けば地竜達と戦わねばならないだろうし、敵の指揮官も留まっているかもしれない。

彼等と戦う前に、MPは出来る限り回復させておきたい。


「申し訳ございません。私の能力、同じおかたに対しては、20時間に一度、そのかたのMP上限を、2,000を限度に引き上げ、一度だけ同量のMPを付与する事が出来るというものでございます。そのかたの減少したMPを補充して差し上げる能力は持っておりません」


MPを50回復出来るポーション、月の雫は全て使い果たしてしまった。

とすれば、MPの補充は自然回復に頼るしかない。

装備しているエレンのバンダナの効果で、僕のMPは毎秒確実に1ずつは回復していくけれど、同時にオロバス維持のため、毎秒1ずつ減少している。

つまり、僕個人に元々備わった回復力――大体、3分に1ずつ――が現状では唯一のMP回復手段って事になる。

とりあえず敵の攻撃は、アルラトゥが展開してくれている防御結界でしのいで、MPの回復量を見ながら、戦い方を考えよう。


方針を決めた僕がいざ、4体の地竜達のもとにオロバスを駆けさせようとした矢先……



―――グワオオグワグワオオォォォンン!



地竜達が一斉に異様な雄叫びを上げ始めた。

彼等の全身が白く輝いた。

次の瞬間、魔法かブレスか……とにかく白く輝く力の奔流が彼等の口から発射されるのが見えた。



―――グギャアアアァァァァ……



それに触れたモンスター達が絶叫を上げながら、次々と光の粒子へと変わって行く。


なんだ!?

同士討ち……?


呆然としていると、地竜達が力の奔流を発射しながら、頭を振った。

力の奔流が周囲を一撫でした。



―――グギャアアアァァァァ……



再び周囲に絶叫が響き渡り、それは大気を震わせた。

そして先程よりさらに多くのモンスター達が光の粒子となって消え去っていくのが見えた。

彼等の力の奔流は、僕等の所まで届いたけれど、幸い何の影響も感じられなかった。

恐らく、アルラトゥの展開してくれている防御結界が僕等を護ってくれたのであろう。

そのアルラトゥが、緊迫した雰囲気で声を上げた。


「急いで撤退致しましょう! 直撃を受ければ、補強するいとまも無く、防御結界を破られてしまうかもしれません!」


その言葉を聞いた僕は、反射的に街へとオロバスを駆けさせた。

前方に立ち塞がるモンスター達をボティスの剣を振り回して排除しながら、僕は後ろの二人に問いかけた。


「一体、どうなっているのか……分かる?」


後方からは断続的に、モンスター達の断末魔の絶叫が聞こえて来る。

つまり、あの4体の地竜達が、味方であるはずのモンスター達を次々と殺している、という事だろう。


「制御不能になっているのかも……」


アルラトゥがポツリと呟いた。


「制御不能?」

「はい。モンスター達は、同種族或いは特殊な関係にある者同士で無ければ、もともと自発的に協力しあったりは致しません。それがこうして合同でトゥマの街に攻め寄せて参りましたのは、召喚門を使用していた指揮官の存在があってこそ。ここからは推測になりますが、その指揮官がご主人様に斃されたか、或いは逃げ去ったかしたため、モンスターの制御が外れ、こうして殺し合いを始めたのではないでしょうか?」


なるほど。

アルラトゥの推測には、一理ある……ような気がする。

そしてもし彼女の推測が正しければ、これは僕等にとっては朗報かもしれない。

数千のモンスターといえども、互いに殺し合ってくれるのなら、“後始末”が随分楽になるであろう事は、容易に想像出来る。


僕はボティスの剣を振り回しながら、周囲の状況を改めて観察してみた。

違う種類のモンスター同士が、互いに攻撃しあっているのが見えた。

やはりアルラトゥの推測通りなのだろうか?


ここで僕はかすかな違和感を抱いた。


指揮官は……ポップアップが立ち上がっていない事を額面通りに受け止めれば、僕の攻撃で死んだわけではないだろう。

ならば転移か何かで逃げた?

召喚門が破壊されたとはいえ、数千のモンスターという戦力を置き去りにして?

まあ敵にだって、キリル中佐みたいなのがいないとは限らないけれど……


心にひっかかるモノの正体が掴めないまま、とにかく僕等はトゥマの街まで撤退する事に成功した。


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