第346話 F級の僕は、駐屯軍の意外な動きに驚愕する


6月15日 月曜日4



リーダー役を期待する熱い視線が集まる中、僕は一人戸惑っていた。

一人でなら、多くの強敵と戦ってきた。

しかし、集団を指揮しての戦いは経験が無い。

僕は周囲の冒険者達に向かって声を上げた。


「皆さん、とりあえずさっきも話した通り、戦えそうにない者は、早急にこの場を離脱して……」


話している内にも、モンスターの大群は急速に接近してきた。

今や、僕等の目にも大型のモンスター達の姿ははっきりと見て取れた。

彼等が巻き上げる地煙と共に、凄まじい地響きが、僕等の所まで伝わって来る。

悠長な事を話している時間的余裕は無さそうだ。


「とにかく、強力な攻撃魔法を使える者はすぐに準備を始めて下さい! 他の冒険者達は、彼等の守護を優先して! 僕はあいつらを少しでも食い止めるから、支援魔法や防御結界使用出来る方は、支援お願いします! あとは駐屯軍の兵士達と協力して、街を護り抜きましょう!」


話しながら僕はインベントリを呼び出して、カロンの遺産――技能の小瓶と強壮の小瓶――を取り出した。

握り締めて念じると、小瓶の内部は秘薬ですぐに満たされて行く。

僕は秘薬を飲み干してから、ステータスウインドウを呼び出した。



―――ピロン♪



Lv.105

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+104、+52、+100)

知恵 1 (+104、+52、+100)

耐久 1 (+104、+52、+100)

魔防 0 (+104、+52、+100)

会心 0 (+104、+52、+100)

回避 0 (+104、+52、+100)

HP 10 (+1040、+1040、+520)

MP 0 (+104、+104、+52、+10)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【影分身】【隠密】【スリ】【弓術】【置換】

装備 ヴェノムの小剣 (風)(攻撃+170)

   エレンのバンダナ (防御+50)

   インベントリの指輪

   月の指輪

効果 1秒ごとにMP1自動回復 (エレンのバンダナ)

   ステータス常に50%上昇 (エレンの祝福)

   即死無効 (エレンの祝福)

   MP10%上昇 (月の指輪)

   HP100%上昇(強壮の小瓶、残り99分15秒)

   MP100%上昇(強壮の小瓶、残り99分15秒)

   全ステータス+100(技能の小瓶、残り99分10秒)



ちなみに、エレンの衣とエレンの腕輪は、今手元には無い。

僕の格好は、上は紺のウインドブレーカーに下は青いジーンズ。

防御力と言う点では、いわゆる紙装甲みたいなものだ。

ネルガルに転移させられて以来、攻撃食らうような相手と戦う機会が無かったから、この格好で問題無かったけれど、さすがに今回は厳しいかもしれない。


冒険者達の様子を確認すると、十数名程が、街の方へと駆け去って行くのが見えた。

しかし残る90名近くは、僕の指示通り、黙々と戦いの準備を行っているようであった。

僕はオロバスの馬上、背後にまたがるターリ・ナハに声を掛けた。


「君は……」


言い終わる前に、凛とした声が僕の言葉をさえぎった。


「アク・イールの娘に、敵に背を向ける選択肢は存在しません」


ふいに僕は自分のステータスがさらに上昇するのを感じた。

同時に身体が軽くなり、感覚も研ぎ澄まされていく。


恐らく、冒険者達が僕にバフを掛けてくれている!


僕はそのままオロバスを駆り、迫るモンスターの大群に突撃した。



―――オオオオン!



モンスター達が咆哮を上げ、スキルや魔法が僕目掛けて襲い掛かって来た。

それらをかわしながら、僕は左手に『炎の石第262話』を握りしめ、前方のモンスター達の中央付近を狙って念じてみた。


「エクスプロージョン!」



―――ドゴオオォォォン……



凄まじい閃光と同時に、大音響があたりの空気を震わせた。

中型、小型のモンスター達が吹き飛びながら、光の粒子となって消え去って行くのが見えた。

同時に、ポップアップが立ち上がった。



―――ピロン♪



レッサードレイクを倒しました。

経験値212,025,518,483,000を獲得しました。

Bランクの魔石が1個ドロップしました。

強壮剤が1個ドロップしました。



―――ピロン♪



アースゴーレムを倒しました。

経験値27,509,534,562,533,500を獲得しました。

Aランクの魔石が1個ドロップしました。

ゴーレムの核が1個ドロップしました。



―――ピロン♪



アルゴスを倒しました。

経験値94,233,563,770,200を獲得しました。

Bランクの魔石が1個ドロップしました。

巨人の瞳が1個ドロップしました。



―――ピロン♪



ジャイアントオークを倒しました。

経験値8,272,905,461,300を獲得しました。

Bランクの魔石が1個ドロップしました。

オーク肉(大)が1個ドロップしました。



―――ピロン♪

…………

……



ポップアップが立ち上がり続ける中、僕は『炎の石』の連続使用を試みた。


「エクスプロージョン!」



―――ドゴオオォォォン……



再度凄まじい閃光と同時に、大音響があたりの空気を震わせ、モンスター達が吹き飛びながら光の粒子へと変わって行く。

そして立ち上がるポップアップの嵐。

僕はオロバスを駆り、モンスターの大群の鼻先をかすめるように移動しながら、ひたすら『炎の石』を使い続けた。

最初の『炎の石』は、4回使用したところで砕け散ってしまった。

だけど『炎の石』は、あと4個残っている。

次の『炎の石』を握り締めながら、僕は素早く状況の確認を試みた。


体感だけど、『炎の石』1回使用でポップアップは、十数回は立ち上がっていた。

つまり、同数のモンスター達を斃した計算になる。

最初の『炎の石』は4回使用出来た。

少なくとも合計数十体のモンスターを斃せたはず。

とは言え、モンスターの大群数千体からすれば、ほんの一部に過ぎないけれど。


そんな事を考えていると、押し寄せるモンスター達の群れの先頭付近で、複数回の爆発が発生した。

僕はまだ次の『炎の石』を使用していない。

恐らく、参戦している冒険者達の魔法が炸裂しているのだろう。


冒険者達の方に視線を向けると、彼等は円陣を組み、一ヵ所に固まっていた。

周囲をぐるりと囲む冒険者達のさらに外側に、複数の魔法陣が展開されていた。

円陣内部からモンスター達に向けて、魔法や矢が息つく暇もない位に放たれて行くのが見えた。

恐らく、円陣の中央付近に魔法や遠距離攻撃に長けた冒険者達が陣取り、その周囲を防御結界で護っている?


派手な“エクスプロージョン”を連発したせいか、幸い、モンスター達の敵意は、僕一人に集中していそうであった。

彼等は怒りの咆哮を上げながら、なんとか僕を捕捉しようと次々と襲い掛かって来た。

僕は攻撃をかわしつつ、出来るだけ街からそれた方向に彼等を誘導しようと試みた。


「エクスプロージョン!」


追いすがってくるモンスター達に『炎の石』を使用しつつ、僕は街の方角に視線を向けて……


「えっ?」


駐屯軍に動きが見られた。

幕舎は畳まれ、駐屯軍の兵士達が一斉に……


迫るモンスター達とは逆方向、街からも離れた方向に移動を開始している!?


「【影分身】……」


僕は呼び出した【影】10体に、出来るだけ多くのモンスター達をさらに街かられた方向に誘導するよう指示を出した。

そしてさらにスキルを発動した。


「【隠密】……」


これで僕とターリ・ナハの姿は、またがるオロバスとともに、モンスター達の視界から消え去ったはず。

僕は状況を確認するべく、駐屯軍の方に向けてオロバスを駆けさせた。

戦闘奴隷達約100名は、その場に踏みとどまっていた。

そしてその後方に一部の兵士達――見た感じ100名程――も戦闘態勢のまま待機していた。


しかし……


白く大きな幕舎、てっぺんに双頭の龍がとぐろを巻いた独特の意匠が描かれた軍旗がひるがえっていたキリル中佐の幕舎は、大多数の兵士達とともに消えていた。

【隠密】を解いた僕は、近くであたふたと何かの準備をしている兵士にたずねてみた。


「キリル中佐は?」


兵士は余裕の無い表情のまま引きつった声で返事した。


「て、撤退した!」

「撤退!? なんで? 街は!?」

「俺が知るわけないだろう!」


吐き捨てるようにそう口にすると、その兵士はどこかへと駆け去って行った。


どういう事だ?

モンスターの大群が街に迫っているのに、まさか……逃げた?

いや、それは有り得ないだろう。

彼は州総督の長男であり、この街の防衛の最高責任者であったはず。

何か考えが有っての事だとは思うけれど、前線で戦う冒険者達に説明も無しに、どこへ行ってしまったのか?


と、遠くで連続して大きな爆発音が響いた。

その方向に視線を向けると、モンスターの大群が、冒険者達の円陣に襲い掛かっているのが見えた。


まずい!


僕は彼等を救援するべく、オロバスを冒険者達の円陣目掛けて走らせた。


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