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第311話 F級の僕は、突然現れた二人組に戸惑ってしまう
第311話 F級の僕は、突然現れた二人組に戸惑ってしまう
6月12日金曜日7
押熊第一の
今、僕等の後ろからついてきているヤンキー少女のリュックサックの中には、Dランクの魔石が15個入っている。
「今日は関谷さんが頑張ったし、関谷さん7個で、井上さんに2個、残りの6個が僕でどうかな?」
「それだと……」
関谷さんが後ろにそっと視線を向けながら言葉を続けた。
「……彼女の分は?」
「ストーカーにわざわざ魔石なんかあげる必要無いよ。そんな事をしたら、味
魔石渡さなくても付き纏ってきそうだけど。
「でも彼女、魔石拾ってくれたし……」
「頼んでもいないのに、あいつが勝手にやっただけだから」
関谷さんは立ち止まると、後ろのヤンキー少女に話しかけた。
「ねえ、名前何ていうの?」
「……鈴木」
ヤンキー少女がボソッと答えた。
「鈴木?」
「だからそう言ったじゃん!」
「ごめんね。ちょっと聞き取りづらかったから」
ヤンキー少女、鈴木って名前だったんだ。
そういや、
まあ、鈴木って苗字は多いし、別段、あいつの家族とかじゃ無いとは思うけど。
「それで鈴木さんは、どうして中村君に付き纏っているの?」
ヤンキー少女改め、鈴木は、チラッと僕に視線を向けた後、言葉を返してきた。
「お前、中村のカノジョなんだろ? だったら、中村がどうしてこんなに強くなったのかって秘密、知っているか?」
関谷さんが、困惑したような視線を僕に向けて来た。
僕は嘆息しながら関谷さんに説明した。
「こいつちょっと勘違いしているみたいなんだ。僕がF級だったのに、いきなりD級達を圧倒出来る位強くなったのは、なんらかの方法でステータスを上昇させたんじゃないかって」
まあ、正確には勘違いじゃ無いんだけど。
関谷さんにならともかく、こいつに、僕に起こった出来事を事細かに説明する瞬間は、
僕は鈴木に向き直った。
「いいか? 前にも言ったけど、そもそも、他人のステータスを上昇させる方法なんて知らないからな。もし知っていたら、真っ先に“大事な彼女”の関谷さんのステータスを上昇させてるよ!」
「大事な彼女……」
関谷さんが、そっと
僕は慌てて彼女に
「ごめんね。こうでも言わないと、こいつ、いつまでもしつこいと思うから」
「ううん、いいの。ちょっと嬉し……あ、気にしないで!」
関谷さんが若干挙動不審な感じだけど?
僕等のやりとりを不機嫌そうに見ていた鈴木が口を挟んできた。
「おい、ダンジョンの中でイチャついてんじゃねぇよ!」
だったら、お前が早くどこかに行ってしまえ!
「ね? こんな奴に魔石渡す必要無いよ」
僕の言葉を聞いた関谷さんは少し考える素振りを見せた後、鈴木に話しかけた。
「魔石、7個あげるから、今後は中村君に付き纏うの、やめてあげて? 中村君、本気で嫌がっているみたいだから」
「関谷さん!?」
こいつの今までの言動からして、魔石渡した位で諦めるとは思えないけれど。
「魔石なんていらねえし。付き纏っているんじゃなくて、教えろ……て下さいって頼んでいるだけだし」
ほらやっぱり。
「関谷さん、とりあえず外に出て、魔石分配してさっさと帰ろう」
「う、うん」
太陽は大きく西に傾いてはいるものの、外はまだ十二分に明るかった。
時刻は午後6時20分。
鈴木は、背負っていたリュックサックを地面に下ろして、魔石を地面に並べだした。
「ほらよ!」
ぶっきらぼうにそう言い放つ鈴木を無視して、僕は魔石を拾い上げると、その内、9個を関谷さんに差し出した。
「はい。関谷さんと、あと井上さんの分」
「美亜ちゃん、魔石はいらないって言ってたから……」
井上さんはA級だ。
「それなら関谷さん、取っておいてよ」
彼女は少し考える素振りを見せた後、鈴木に2個の魔石を差し出した。
「はい、どうぞ」
鈴木は一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐにぷいと横を向いた。
「いらねぇし」
「でも……」
鈴木が、関谷さんに試すような視線を向けたあと、やおらポケットからスマホを取り出した。
「……魔石はいらねぇからよ。チャットアプリのID交換しようぜ」
「こら!」
僕は慌てて関谷さんと鈴木の間に割って入った。
「関谷さんを巻き込むな!」
「なんだよ。過保護か? 粘着きついと、カノジョに逃げられるぜ?」
お前がそういう事言うのか?
「関谷さん、行こう」
僕は関谷さんの手を取ると、半ば強引に車の方に歩き出した。
チラッと背中越しに視線を向けると、ようやく諦めたのか、鈴木が、あの“放置スクーター”の方に歩いて行くのが見えた。
どうやらアレは、あいつのスクーターだったらしい。
まあ、どうでもいいけれど。
関谷さんが運転席に座り、僕が助手席に乗り込もうとしたところで、押熊第一の駐車場に1台の車が入って来るのが目に飛び込んできた。
よく見かける黒っぽいワゴンタイプの車だけど、窓にスモークが貼られ、中の様子が分からなくなっている。
ともかく、その車は、こちらに一直線に近付いて来た。
全身に緊張が走る。
車のドアを開けたまま立ち尽くしている僕の様子を不審がったのか、関谷さんが声を掛けて来た。
「どうしたの?」
そして後ろを振り返って、接近してくる車に気付いたらしい彼女も車を降りてきた。
そんな僕等のすぐ
車のドアが開き、中から2人の人物が姿を現した。
一人はサングラスをかけ、黒っぽいビジネススーツで身を包んだやや小柄な女性。
もう一人もサングラスをかけ、黒っぽいビジネススーツで身を包んではいるものの、僕より頭一つ大きい大柄な男性。
女性の方がサングラスを外すと笑顔で声を掛けてきた。
「中村隆さんですね?」
「え~と、あなたは……」
言葉を返しながら、その顔に見覚えがある事に気が付いた。
肩口で切り揃えられた黒い髪。
気の強そうな顔立ち。
「中国国家安全部第二十一局所属の
彼女自身の口から彼女の身分と名前が語られた。
この前の均衡調整課の
そしてどうやってIDを入手したのか知らないけれど、とにかく僕のチャットアプリにメッセージを
僕は素早く周囲の状況を確認した。
少し向こうでベージュ色のスクーターに
関谷さんは、戸惑った様子で、僕の隣に立っている。
僕等以外には、人影は見当たらない。
「僕のチャットアプリのID、どうやって調べたのですか?」
僕は彼女の質問に答える前に、まず当然の疑問を口にした。
「あなたに関心があったので、失礼ながら調べさせて頂きました」
調べた“手段”を聞いたのに、なんだかはぐらかされた感じになった。
そう言えば、僕の使っているチャットアプリの会社、以前、中国の関連会社への情報漏洩が社会問題化していた事があったっけ?
「そういうの、困るんですよね。それにもし話があるのでしたら、均衡調整課を通してもらえないでしょうか?」
一応、僕は均衡調整課の“嘱託職員”という事になっている。
均衡調整課の仕事も何度か手伝っているし、今ここでその名前を使わせてもらっても、悪くは無いはずだ。
「非常に緊急性の高いお話なので、直接お声掛けをさせて頂きました」
そしてチラッと関谷さんに視線を向けた後、言葉を続けた。
「今から私達とご同行頂けないでしょうか?」
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