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第304話 F級の僕は、ユーリさんを再び解呪する
第304話 F級の僕は、ユーリさんを再び解呪する
6月11日木曜日7
結局、僕は外で待つボリスさんとポメーラさんに、ユーリさんの気持ちは変わらない、と告げる事になった。
そしてスサンナさんは隔離される事無く、ポメーラさんと二人で、今まで通り、ユーリさんのお世話を続ける事になった。
という事は……?
僕は、ボリスさんと並んで、購入してきたばかりの馬車を眺めていた。
「え~と、コレ、どうしましょうか?」
「タカシ殿は、馬車は使わないのか?」
う~ん、個人所有の馬車が必要って思った瞬間、今まで無かったしな……
「僕には必要無いかと」
「しかし、君は今後も旅を続けるのだろう? 今日のように晴ればかりが続くとは限らない。雨や雪が降れば、幌付きの馬車は便利だとは思うが」
僕自身、この国に長居する予定は無い。
モエシア州境を越えて最初の大きな街に到着すれば、クリスさんの転移魔法でこの国を去る。
それまでに雨や雪が降れば、
「オロバスに乗って移動するので、馬車を牽引させると、どうしても速度が落ちるので……」
「そうか……ならば一応、この馬車は我等の
午前10時、僕等は野営地を出発した。
大きな街や村を避けつつ、州都モエシアへの最短ルートを走り続けた僕等は、夕日が辺りを茜色に染め上げる中、あらかじめ、野営を予定していた場所に到着した。
ここから州都モエシアへは、馬を飛ばせば2時間程度。
順調なら、明日の午前中にはクリスさんと落ち合い、ターリ・ナハを『奴隷の首輪』から解放してあげられる。
今夜の野営地も昨夜と同様、街道からは数百m、森の中に入った場所であった。
周囲を木々で囲まれ、少し開けたその場所には、小さな泉が湧き出していた。
夕食の準備が終わる頃、『賢者の小瓶』のクールタイム20時間が終了した。
僕は『賢者の秘薬』で満たされた『賢者の小瓶』を手に、ユーリさんの馬車へと向かった。
馬車の中では、ベッドの上で半身を起こしたユーリさん、そしてその脇に
顔を仮面で隠したユーリさんは、午前中と同じ、白い寝巻きを身に付けていた。
僕は、三人に挨拶しながら、エレンに念話で問いかけた。
『エレン、今呪具は?』
少しの間をおいて、念話が返ってきた。
『少なくとも、あなたの近くに呪具の気配は無い』
僕は『賢者の秘薬』で満たされた『賢者の小瓶』をユーリさんに手渡した。
「お待たせしました。これ、どうぞ」
ユーリさんは仮面を少しずらすと、僕から受け取った小瓶の中身を一気に飲み干した。
彼の体が瞬間的に、
ユーリさんが、おずおずと仮面を外した。
彼の前にスサンナさんが姿見を運んできた。
それに視線を向けた彼の白く整った顔に、微笑みが浮かんだ。
彼は僕に深々と頭を下げてきた。
「タカシ殿には感謝してもしきれません。この御恩にどうすれば報いる事が出来るのか、見当もつきませんが……」
ユーリさんが首の後ろに手をやった。
その動作に気付いたスサンナさんが、声を上げた。
「ユーリ様、それはっ!」
「いいのです」
ユーリさんは、首に掛けていたネックレスを外すと、僕に差し出してきた。
「これをタカシ殿にしばらくお預けします。帝都にお越し頂いた際には、サハロフ商会にお越し頂き、このネックレスをお返し下さい。さすれば、タカシ殿には相応の報酬が支払われるはずです」
僕は受け取ったネックレスを改めて確認してみた。
金色の細かい鎖で編まれたネックレスには、紋章が刻まれた小さなペンダントがついていた。
双頭の龍がとぐろを巻き、そこに双剣が組み合わされた独特の紋章。
「ありがとうございます。ユーリさん達は、予定ではいつ帝都に到着しますか?」
クリスさんと合流出来れば、僕はすぐにでも帝都に転移出来るだろうけれど、このネックレスを返却しに行くのなら、ユーリさん達が帝都に到着した後の方が良いはず。
僕の問い掛けに、スサンナさんが口を開いた。
「順調にいけば、2週間弱で到着できるかと」
「予定が合えば、僕もそれに合わせて、帝都のサハロフ商会に顔を出させて頂きますね」
僕はユーリさんから預かったネックレスを、インベントリに収納した。
馬車から外に出ると、日の沈んだこの時間帯、
少し向こうでは大きな焚火がパチパチと音を立てて燃え上がっており、そこに集まっているボリスさんやターリ・ナハ達が炎に照らし出されている。
焚火の方に戻って来た僕に気付いたターリ・ナハとララノアが笑顔を向けて来た。
「タカシさん、そこに掛けて待っていて下さい。すぐに夕食、準備しますから」
ターリ・ナハに促されて、僕は焚火を囲むように置かれた木のベンチに腰を下ろした。
ターリ・ナハが椀によそって持って来てくれたのは、肉と野菜の煮込み料理だった。
立ち昇る湯気が、食欲をそそる匂いを僕に届けてくれている。
その料理に口をつけようとしたタイミングで、聞き知った声が聞こえて来た。
「いい匂い。私の分も用意してもらえる?」
声の方に視線を向けると、白銀色のコートを羽織ったユーリさんが、ニコニコしながら立っていた。
後ろに、スサンナさんとポメーラさんが控えている。
僕等と焚火を挟んで向こう側で、既に食事を始めていたボリスさん達が、慌てた様子で立ち上がった。
「ユーリ様! 外は寒うございます。お食事でしたら、馬車の方にお運びしますので……」
「ボリス、それ、今朝も聞いたから」
悪戯っぽい笑顔を浮かべながら、ユーリさんは、僕の隣に腰を下ろしてきた。
「今朝はせっかく久し振りに皆と食事を楽しもうと思っていたのに、また倒れてしまいましたからね。お昼も抜いたせいか、お腹がペコペコです」
ユーリさんは、スサンナさんから料理の入ったお椀を受け取ると、フォークでお肉を突き刺して口に運んだ。
「こうしておいしく食事を楽しめるのも、ひとえにタカシ殿のお陰です」
「いえいえ、僕はただポーションを提供しただけですから」
「あのポーション……」
ユーリさんが、僕に顔をずいっと近付けてきた。
香水か何かだろうか?
男性であるはずの彼から発せられる、かぐわしいローズ系の香りが、僕の鼻孔をくすぐった。
ユーリさんがそのまま
「偉大なる錬金術師、カロンの遺品……ですよね?」
!?
僕は思わずユーリさんの顔を見返してしまった。
彼はたおやかな笑顔を浮かべたまま言葉を継いだ。
「すみません。御存知の通り、私はモノの記憶を視る事が出来るんですよ。ですから昨日、タカシ殿から最初にあのポーションの提供を受けた時、失礼ながら、少しだけ“視せて”頂きました」
会ったばかりの冒険者から提供されたポーション。
自身の能力が許す範囲内で、その安全性を確認しておきたいっていうのは、自然な感情だ。
「タカシ殿は、イシュタルでは高名な冒険者……でいらっしゃいますか?」
イシュタル……
彼が口にしたのは、この世界の創世神の事では無く、ルーメルやアールヴの存在する大陸の事だろう。
「高名っていう程でも無いと思いますよ」
レベルこそ高いけれど、“冒険者”として、有名になっている自覚は無い。
「実は私の母もイシュタル大陸の出身なのです」
「そうなんですね」
「もっとも、母は私を産んですぐに亡くなったので、記憶の中にも、その面影を追い求める事は出来ないのですが……」
「すみません」
ユーリさんは少しキョトンとした後、笑顔になった。
「ふふふ、タカシ殿が謝る話では無いですよ? 私が勝手に話しただけですし」
「それはそうですが……」
「私は、母の血を受け継いでいる事に、誇りを持っています。もちろん、父の事も誇りではありますが……」
そう語るユーリさんの横顔は、なぜかとても寂しげだった。
そのまま会話が途切れ、束の間、お互いの食器がカチャカチャ鳴る音だけが辺りに響いた。
と、ユーリさんが再び口を開いた。
「ルーメルが所属する自由都市連合には、確か、奴隷制度は存在しませんでしたよね?」
自由都市連合?
なるほど、アールヴの統治者がノルン女王様であるのと同様、当然、ルーメルにも統治者が存在するはずで、それが“自由都市連合”なる政体なのだろう。
「実は僕、ルーメルで冒険者として活動し始めたのって、まだここ1ヶ月程度なんですよ。なのでその辺の事情に余り詳しくは無いのですが、僕の知る限り、確かにルーメルでは、奴隷って見かけないですね」
「タカシ殿の目から見て、この国の奴隷制度って……」
「ユーリ様!」
突然、スサンナさんが、僕等の会話に口を挟んできた。
「お料理、冷めてしまいますよ?」
ユーリさんは、少しバツの悪い顔になった後、わざとらしくカチャカチャ音を立てながら食事を再開した。
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