【コミカライズ版】最底辺であがく僕は、異世界で希望に出会う~自分だけゲームのような異世界に行けるようになったので、レベルを上げて、みんなを見返します【発売中】
第305話 F級の僕は、州都モエシアに向かう
第305話 F級の僕は、州都モエシアに向かう
6月12日金曜日1
夕食後、アリアやクリスさん達と明日の予定について、念話で短く連絡を取り合った後、僕等は早目に床に就いた。
そのお陰もあってか、僕は翌朝、まだテントの中が薄暗い内に目が覚めた。
懐に入れておいた
そんな事を考えていると、隣の布団の中、僕の方を向いて眠っていたターリ・ナハが目を開けた。
「おはようございます」
ターリ・ナハが微笑んだ。
「おはよう。ララノアは?」
僕の言葉に、ターリ・ナハの向こう側で眠っていたララノアが身を起こすのが見えた。
「ご、ご主人様……おはよう……ござい……ます……」
今日はモエシアでクリスさんと合流して、ターリ・ナハをルーメルに送り届ける日だ。
それに、日本時間の午後5時半、
僕は布団から起き上がると、伸びをした。
「ララノアもおはよう。ちょっと外の様子、見て来るよ」
テントから外に出てみると、雲一つなく晴れ渡った空は、白み始めたばかりであった。
時刻は、午前6時前。
冬の冷たい風が、頬を撫ぜて行く。
野営地の中央部に設置された大きな焚火の傍では、早くもスサンナさん達が、朝食の準備を始めていた。
「おはようございます」
僕に気付いたスサンナさんとポメーラさんが、笑顔になった。
「おはようございます。今日はモエシア、行ってこられるんですよね?」
「はい。朝食済ませたら、すぐに向かおうかと」
「分かりました。出来上がったら、お知らせしますから、テントでお待ち下さい」
「ありがとうございます」
昨夜あらかじめユーリさん達と相談していたのだが、僕等だけで、朝の内にモエシアへと往復してくることになっていた。
その間、ユーリさん達はこの野営地で僕の帰りを待つ。
モエシアでクリスさんと無事合流してターリ・ナハを託すことが出来れば、僕とララノアはここへ戻って来る。
その後は、属州モエシアの北隣、属州リディアとの州境を越えるべく最短ルートを突き進む。
一応、属州リディアに入れば、ユーリさん達も、今ほどの隠密行動を取らなくても良くなるらしい。
後は、ユーリさん達が新しい護衛を雇えそうな大きな街に到着するまで、僕とララノアが同行する。
明日中に州境を越える事が出来れば、明後日には、州都ではないものの、トゥマという名の比較的大きな街に到着出来そうだ、とボリスさんが教えてくれた。
今日、クリスさんと合流出来れば、改めて属州リディアでクリスさんが迎えに来れそうな街――トゥマも含めて――について、相談するつもりだ。
テントに戻った僕は、昨夜も使用した万年床と冬用の布団を、インベントリに収納した。
ターリ・ナハはルーメルに帰るし、今夜からは僕とララノアだけになる。
お互い寝る時は、それぞれ寝袋を使用する予定だ。
準備を終えた後、ターリ・ナハとララノアに声を掛けた。
「ちょっと
二日ぶりに【異世界転移】で戻って来たボロアパートの部屋の中は、特に変わりは無さそうだった。
机の上に置いてある目覚まし時計の表示は、午前10時12分。
僕はインベントリから、万年床と冬用の布団一式を引っ張り出した。
万年床を部屋の中に敷き直し、冬用の布団を押し入れに押し込んだ後、僕は充電器に繋いであったスマホをチェックしてみる事にした。
チャットアプリに、新着メッセージが4件届いていた。
2件は、関谷さんから。
1件は、井上さん。
そして残る1件は……ん?
曹悠然?
中国人っぽいその差出人のメッセージを開いてみた。
『6月5日に均衡調整課でお会いしました曹悠然です。
突然のご連絡、驚かせてしまい申し訳ありません。
至急、ご相談させて頂きたい事がございますので、お手すきの時にでもご連絡下さい。』
昨日11日木曜日午前10:25に受信記録の残るそのメッセージには、メールアドレスと携帯番号が記されていた。
曹悠然……
そう言えば1週間ほど前に、中国の情報機関の人達の
確か、その時の調査官の一人、日本語が流暢な女性の名前がそんな感じだったような気がする。
ご相談って何の話だろう?
ふとティーナさんが以前
―――中国も私達USA同様、チベットで発生したStampede制圧に失敗して、複数のS級を失った。彼等はその補充を目的として、各国のS級達と密かに接触を繰り返している形跡が有るの……
もしかして、僕をスカウトしたいって事だろうか?
そもそも、なんで僕のチャットアプリのIDを知っているんだろう?
何にせよ、面倒な匂いしかしない。
お手すきでは無いし、とりあえず、無視する方向で。
関谷さんからのメッセージは、日常の
僕は、なかなか返信できなくて申し訳なかった事と、今日の押熊第一、予定通り、午後5時半から宜しく、といった内容のメッセージを送信した。
井上さんからのメッセージも、日常の些細な挨拶に
後は、ティーナさんかな。
僕はインベントリから『ティーナの無線機』を取り出して、右耳に装着した。
「ティーナ……」
『タカシ! 昨日は忙しかったの?』
僕の呼びかけに、待ち構えていたかのように囁きが戻って来た。
「ちょっと色々あってね。そっちはどう? あの黒い結晶絡みで何か動きってあった?」
『そうね……中国がどうやら、チベットのStampedeに対して、新しい作戦を計画しているみたい』
「新しい作戦?」
『詳細はまだ不明だけど、
僕は先程の“曹悠然”からのメッセージを思い出した。
つまりあれは、そういう事だろうか?
もう少しこの話について色々聞いてみたい所だけど……
僕は、机の上の目覚まし時計に視線を向けた。
時刻は、午前10時21分。
ここへ戻ってきて、既に10分近くが経過している。
「ティーナごめん。ちょっと今、バタバタしているから、また後で連絡してもいいかな?」
『そう言えば、予定では今日だったわよね? ネルガル脱出』
「それが色々変更になっちゃってね。それも含めてまた後で説明するよ」
『OK。あんまり無理しないでね』
「ありがとう。それじゃ」
【異世界転移】で再びテントに戻って来ると、ターリ・ナハが声を掛けて来た。
「朝食の準備が出来たそうですよ。タカシさんは着替え中だって説明しておきました」
「了解。それじゃ、朝ご飯、食べに行きますか」
手早く朝食を済ませた後、僕、ララノア、そしてターリ・ナハの順にオロバスに跨った僕等は、ボリスさんやスサンナさん達に見送られて、野営地を出発した。
周囲が朝焼けに照らし出される中、オロバスは、一路、州都モエシア目指して疾走を開始した。
ララノアはやはり乗り物が怖いのか、後ろからしっかり僕に抱き付いてきている。
そして昨日同様、魔法で温かい空気を作り出して、僕等を包み込んでくれている。
数百m走って森を抜けると、大きな街道に出た。
石畳が敷き詰められ、一直線に走る街道は、ララノアによれば、元は軍用道路として整備されたものらしい。
あいにく、起伏の多い丘陵地帯で、遠方の見通しはそんなに良くは無いけれど。
1時間程走ると丘陵地帯は終わりを告げ、比較的見通しの良い平原地帯へと入って行った。
やがて遥か遠くに、城壁に囲まれた巨大な街が見えて来た。
「モエシア……です……」
ララノアが囁くように教えてくれたその街がぐんぐん近付いて来る。
街道を行き交う荷馬車や人の姿も増えて来た。
突然、ララノアが、大きな声を上げた。
「と、停めて下さい!」
僕はオロバスを急停止させた。
「どうしたの?」
ララノアの方を振り返ると、彼女は険しい表情のまま、じっと前方のモエシアを見つめている。
?
僕は再びモエシアに視線を戻して……
!?
モエシアの街の上空に、先程までは存在しなかったはずの黒いシミのような何かが渦巻いているのが見えた。
その黒い渦巻は、あっという間に街の上空全体を覆う程にまで成長した。
そして……
黒い渦巻をキャンバスに、複雑な幾何学模様が、次々と描きだされていくのが見えた。
やがて完成した巨大な幾何学模様――魔法陣?――から地上に向けて、“何か”が発射された!
凄まじい閃光が、視界を埋め尽くしていく……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます