【コミカライズ版】最底辺であがく僕は、異世界で希望に出会う~自分だけゲームのような異世界に行けるようになったので、レベルを上げて、みんなを見返します【発売中】
第283話 F級の僕は、やり場の無い怒りを感じてしまう
第283話 F級の僕は、やり場の無い怒りを感じてしまう
6月9日 火曜日2
空き地に到着すると、兵士達は交代で歩哨に立ちながら、事前に配られていた硬い黒パンを昼食代わりに
ここまで随行してきた戦闘奴隷達も一ヵ所に集められ、黒パンを与えられているようであった。
僕も地面に腰を下ろし、ターリ・ナハと一緒に、配られた黒パンを齧っていると、ゴルジェイさんが歩み寄ってきた。
「食べ終わったら、洞窟の奥のドラゴンの巣を偵察しに行くから呼んでくれ」
「分かりました」
時間的には、昨日、いきなりこの地に転移させられた時とちょうど同じ頃合いだ。
良く晴れて、そして吹き渡る風は刺すように冷たい。
食事を終えた僕とターリ・ナハは、ゴルジェイさん、エゴール、そして数人の魔導士達と共に、洞窟の奥へと足を踏み入れた。
そのまま周囲を警戒しながら歩く事2、3分で、昨日僕等が転移して来たドラゴンの巣に到着した。
ドラゴンの巣には、やはりカースドラゴンの姿は無かった。
ゴルジェイさんが、僕の顔を見た。
「まさか本当にお前が斃したのか?」
「ですから昨日も話した通りです」
「ふむ……」
ゴルジェイさんは、少し考え込む素振りを見せた後、口を開いた。
「たまたまこの時間帯、どこかに出掛けている、と言う事も考えられる。今夜はこの地で野営して、カースドラゴンが戻って来ない事が確認出来たら明日撤収しよう」
再び元来た道を戻り始めた僕等の耳に、突然、大勢の人々の叫び声が聞こえて来た。
叫び声を上げているのは、洞窟の外の兵士達のようであった。
急いで洞窟の外に出ると、兵士達が昼食を摂っていた空き地は、大騒ぎになっていた。
―――グオオォォォォ!
咆哮が周囲の空気を震わせた。
見上げると、上空を全長10mはありそうな、灰色の巨大なドラゴンが舞っていた。
「カースドラゴンか!?」
ゴルジェイさんは一瞬驚いたように声を上げた後、すぐに兵士達に指示を飛ばし始めた。
「奴隷共に武器を渡せ! 総員戦闘配置に付け!」
上空のドラゴンが、大きく口を開き、ブレスで地上を一撫でした。
「ギャアアア!?」
「助けてくれぇ……」
ブレスの直撃を浴びた十数人の兵士達が地面をのたうち回り、ヒーラーと思われる兵士達が、必死に治療を試みている。
僕はゴルジェイさんに向かって叫んだ。
「兵士達を退避させて下さい。僕があいつを斃します!」
そして、隣のターリ・ナハにも囁いた。
「洞窟に隠れていて。大丈夫! 僕にはコレがあるから」
僕はインベントリから取り出した『賢者の小瓶』を右手で振ってみせた。
「分かりました。御武運を!」
ターリ・ナハが洞窟の方に駆けて行くのを確認した僕は、『賢者の小瓶』を握り締めた。
途端に、空だった小瓶が、虹色のサラサラした液体、『賢者の秘薬』で満たされて行く。
さらに僕はインベントリから『アルクスの指輪』を取り出して左手の人差し指に装着した。
「フェイルノート召喚……」
たちまち僕の左手の中に、緑色に輝く陰陽の弓が出現した。
上空を舞うドラゴンに向けて弦を引き絞りながら、さらに念ずる。
「死の矢……」
MP100と引き換えに出現した黒く禍々しいオーラを纏った矢は、僕が弦を離すと、一直線にドラゴン向けて突き進み、正確にその脇腹を射抜いた。
―――ギィエエエエエエ!?
死の矢により、HPを9割削られたドラゴンが、悲鳴を上げながら墜落してきた。
あとは【影分身】のスキルでとどめを刺して、呪われたら『賢者の秘薬』を飲み干せば終わりだ。
スキルを発動しようとした僕の視界の中、地面でもがくドラゴンに、複数の人物が飛び掛かって行くのが見えた。
同時に、後方から放たれた魔法によるものと思われる火炎や雷撃が、ドラゴンに襲い掛かった。
それはあの戦闘奴隷達だった。
レベル差が有り過ぎる為か、近接攻撃を挑んだ戦闘奴隷達の内、何人かは、ドラゴンが身を
周囲を見回してみたけれど、戦いに参加しているのは、どうやら戦闘奴隷達だけのようであった。
その他の帝国軍兵士達は、少し離れた場所から、戦いの行く末を見守っている。
僕は、戦闘奴隷達に向かって叫んだ。
「そいつは僕がとどめを刺すから離れて!」
しかし僕の声が届いているのかいないのか、戦闘奴隷達は、どんなに跳ね飛ばされても、爪で引き裂かれても攻撃を止めようとしない。
もし彼等がとどめを刺して呪われても、今の僕なら『賢者の小瓶』で救うことが出来るけれど……
僕は自分が【奪命の呪い】を受けた昨日の事を思い出した。
身体が鉛のように重くなり、目がかすみ、頭が上手く働かなくなるあの感覚。
そして確実に減って行く死のカウントダウン。
身体の奥底から沸き上がってくる凄まじいまでの恐怖感。
自分の意思とは無関係に、今までもロシアンルーレットを回す事を強要され続けてきたはずの彼等、彼女等に、例え救命できるとしても、あんな絶望感を味わわせたくない。
それが偽善だと言われたとしても……
「【影分身】……」
僕は【影】30体を呼び出した。
そして【影】20体には、現在、戦闘に参加している戦闘奴隷達20人全員を拘束して、ドラゴンから引き離すように指示を出した。
そして残りの【影】10体には、ドラゴンを斃すよう指示を出した。
ドラゴンに群がっていた戦闘奴隷達は、僕の【影】達により、瞬く間に排除された。
【影】10体がドラゴンの身体を斬り刻み始めて数秒後……
―――ピロン♪
ララノアが、カースドラゴンを倒しました。
戦闘支援により、経験値313,350,792,126,400を獲得しました。
え!?
そして当然のように立ち上がるもう一つのポップアップ
―――ピロン♪
カースドラゴンが残した【奪命の呪い】が、ララノアを対象に発動しました。
残り60秒……
―――ウワァァァァ!
突如大歓声が巻き起こった。
周囲を見回すと、僕等の戦いを見届けたのであろう兵士達が、歓喜の渦に沸いている。
洞窟の影からターリ・ナハも飛び出してきた。
しかし僕は……
ララノアって誰だ!?
僕は自分の【影】達に意識を向けた。
そして【影D】が抑え込んでいる魔法系と思われる一人のダークエルフの少女が、
彼女の放った魔法が、偶然、あのドラゴンの最後の1HPを削ってしまったのであろうか?
僕は【影分身】のスキルを停止すると、慌ててその少女のもとに駆け寄った。
彼女は薄汚れて元の色が分からなくなっている感じのローブを身に
ローブの隙間から見える彼女の身体は真っ黒に染まり、手足の先から崩壊が始まっていた。
レベルか何かが関与しているのだろうか?
ターリ・ナハの時よりも明らかに進行が速い。
目の前に浮かぶ死のカウントダウンは、10秒を切っていた。
うつ伏せに突っ伏している彼女を無理矢理仰向けにしたけれど、彼女の瞳には最早何も映ってはいなさそうであった。
僕はターリ・ナハを救った時と同様、『賢者の秘薬』を口に含むと、無理矢理彼女の口をこじ開けた。
そして自分の口で彼女の口を
むせながらも『賢者の秘薬』を飲み干した彼女の全身が輝くと同時に、新しいポップアップが立ち上がった。
―――ピロン♪
ララノアを冒していた【奪命の呪い】が浄化されました。
救えた……
しかし同時にやり場の無い怒りも込み上げてきた。
なんで戦闘奴隷達は、あんな絶望的で無意味な攻撃を行ったのか?
命令?
条件反射?
それに戦いの場から排除したはずなのに、隙を突かれてスキルか魔法を使用されてしまったようだ。
なら、彼女が死にかけたのは僕の責任か?
なんなんだ、一体!?
と、誰かに優しく抱きすくめられた。
「ターリ・ナハ……」
彼女はただ黙って僕の頭を撫で続けるのみ。
彼女の暖かさに包まれていると、急速に僕の心がクールダウンしていく。
とにかく、ゴルジェイさんや帝国軍兵士達の前で、カースドラゴンを斃して見せる事が出来た。
それに【奪命の呪い】による死者も出さずに済んだ。
僕はそっとターリ・ナハから身を離した。
「ありがとう」
僕の言葉を聞いたターリ・ナハが微笑んだ。
やがて僕等の方に誰かが近付いて来る足音が聞こえて来た。
視線を向けると、数人の兵士達を引きつれたゴルジェイさんだった。
「見事だ! 言葉通り、ほぼ単独でカースドラゴンを仕留めるとは」
僕は黙って頭を下げた。
「それに呪いも回避できたようだな。カースドラゴンを一矢で射ち落とす程の勇士を見殺しにする訳にはいかなかったからな。奴隷共に戦いに参加するよう命じたのだ。呪いはやつらが代わりに受けたのであろう……」
ゴルジェイさんは、話しながら周囲を見回して少し不思議そうな顔になった。
「? 呪いで死んだ奴隷が見当たらないようだが……?」
僕は、ようやく意識を取り戻して身を起こそうとしている目の前のダークエルフの少女に手を貸しながら、言葉を返した。
「……彼女が呪いを受けました。ですが、僕がそれを解呪しました」
「何!?」
「えっ……!?」
ゴルジェイさんとダークエルフの少女の二人が、同時に驚いたような声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます