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第278話 F級の僕は、ティーナさんに色々手伝ってもらう
第278話 F級の僕は、ティーナさんに色々手伝ってもらう
6月8日 月曜日8
話を聞き終えたティーナさんが、得心したような顔になった。
「OK、状況は理解出来たわ」
「それで、ネルガルで大きな街に移動するまでの間に必要になる物資を、こっちで用意したいんだけど」
「任せて。女性用の長袖の衣服、全身を
「助かるよ」
「まあ、この件はこれで解決だけど……」
ティーナさんが少し冷ややかな表情になった。
「Sekiya-sanの件が未解決なのは変わらないわよね?」
「関谷さんの件って?」
「夕食……彼女の家で御馳走になるんでしょ?」
「だからそれは、もし食材が余ったらって話で……」
「まだそんな事言っている。そんなあなたには、Mr. Insensitiveの称号を贈らせてもらうわ」
「みすたーいんせんしちぶ?」
「
残念ながら、僕の脳内英単語集にこの単語は含まれていないけれど、間違いなく良い意味で無い事だけは理解出来る。
それはともかく……
「関谷さんに夕食御馳走になるかもって話だけど、明日もし誘われても断ろうと思っているんだ」
ティーナさんの顔がぱっと明るくなった。
「ホント?」
「うん。さすがにこの状況で、関谷さんちで僕だけご飯食べるって言うのは無いかな、と」
少なくともネルガル大陸から“脱出”するまでは、ターリ・ナハを一人にする時間は出来るだけ減らすべきだ。
関谷さんとのんびりご飯食べて戻ったら、ターリ・ナハが奴隷狩りに拉致されていました、では本当にシャレにならない。
明日のダンジョン攻略も、関谷さんに謝って延期させてもらおう。
僕の言葉を聞いたティーナさんが、いきなり抱き付いてきた。
「Takashi、ようやく分かってくれたのね? Mr. Insensitiveの称号、取り消すわ」
「ちょ、ちょっと? ティーナさん?」
彼女の体温と柔らかさをいきなり全身で体感する事になった僕は狼狽した。
ちょうど首筋にティーナさんの吐息がかかり、思わず顔が赤くなるのが感じられた。
慌てて押し返そうとする僕に、ティーナさんが上目遣いで拗ねたような表情を向けて来た。
「付き合っているんだからhug位いいじゃない。あとまたTina“さん”になってる」
「付き合って?」
「ん? どうしたの?」
付き合っているって、パートナー、相棒としての付き合いって事……だよな?
なんにせよ、機嫌が良くなっているティーナさんに藪蛇な質問してへそ曲げられて、やっぱり協力しないって言われたら元も子もない。
時間も相当ロスしているし……
「な、何でもないよ。とにかく……」
僕はティーナさんをなんとか引きはがしながら言葉を続けた。
「時間も無いし、早目に準備してもらえると、とても助かるんだけど」
「仕方ないわね。30分頂戴。準備出来たら持って来てあげる」
ティーナさんは、ようやく僕から離れてくれた。
「ありがとう。今度何かお礼、考えとくから」
「ふふふ、楽しみにしているわ」
ティーナさんがワームホールを潜り抜け、ハワイに戻って行くのを確認した僕は、スマホに手を伸ばした。
そして発信履歴に表示されている関谷さんの名前をタップした。
数回の呼び出し音の後、関谷さんが電話に出た。
『もしもし中村君? どうしたの?』
「関谷さん、ごめん。ちょっと明日急用が出来ちゃって。ダンジョン攻略、延期させてもらえないかな?」
『分かったわ。それじゃあ、今度いつにする?』
ネルガルで、クリスさんが転移してこられる位大きな街に
「とりあえず、今度の金曜日はどうかな? 場所と時間は関谷さんに任せるよ」
『それじゃあ、調べてみるね。それで……』
関谷さんが電話口でなぜか口籠った。
「ん? どうしたの?」
『金曜日はその……夕ご飯、どうするの?』
夕ご飯どうする?
どういう意味だろう?
いや、別に計画的に献立決めているわけじゃ無いし……
「近くのラーメン屋かファミレスか、或いは学食か……まだ決めて無いけど」
願わくは、金曜日までには、ルーメルに帰り着いていますように。
でなければ、ゆっくり
『もし私が作り過ぎちゃったら……中村君も食べていかないかな~なんて……』
関谷さんには、明日の予定を変更してもらった所だ。
彼女が“作り過ぎちゃって”困っていたら、助けてあげないと。
一瞬、ティーナさんの“ミスターインセンシチブ!”という叫びが聞こえた気がしたけれど、きっと気のせいだろう。
「それじゃあ、時間が合えば食べて帰ろうかな」
『ほんとに? よかったぁ……』
関谷さんの声が一気に明るくなった。
こんなに喜んでくれるなら、OKし甲斐があるというものだ。
ホント、金曜までにはネルガル大陸脱出の目途がついていて欲しい。
『中村君、何か食べたい物ってある?』
「食べたい物?」
『好きな物とか……あったら、その……頑張って作ってみようかな~とか』
「そんなの気にしなくていいよ。別に好き嫌いとか無いから」
『そうなんだ。中村君ってえらいね。実は私、嫌いってわけじゃ無いけど、いくつか苦手な食材あるから』
「よっぽどの偏食じゃ無ければ、別にいいんじゃ無いかな。多少の好き嫌い」
『そうよね』
「そろそろ出掛けなきゃいけないから、電話、切るね。また何かあったら、チャットアプリにメッセージ入れといて」
『うん。それじゃ』
電話を切った僕はインベントリから『ティーナの無線機』を取り出して、右耳に装着した。
「ティーナ……」
『今、鋭意準備中よ』
「一回、
『OK』
スマホの画面表示では、19時32分。
1時間近く、ターリ・ナハを一人にしてしまっている計算だ。
彼女はそれなりに強いし、何事も無いだろうけれど、心配しているかもしれない。
僕はスキルを発動した。
「【異世界転移】……」
ドラゴンの巣に続く空き地に戻って来た時、周囲の雰囲気にそう変化は感じられなかった。
すっかり日が暮れてしまったN市と違い、まだ日は高い。
そして吹き渡る木枯らしのように冷たい風。
洞窟の入り口に視線を向けると、僕の帰還に気付いたらしいターリ・ナハが駆け寄って来るのが目に飛び込んできた。
「お帰りなさい」
「ごめんね、待たせちゃって。何か変わった事無かった?」
「特に何も」
「今準備中でね。もうちょっと時間かかりそうなんだけど、君の様子が気になって」
ターリ・ナハが、少しはにかんだような笑顔を見せた。
「お気遣い、ありがとうございます」
「そうだ……」
僕はインベントリから『二人の想い(右)』を取り出した。
「これ、君に預けておくよ。もし僕が
「
テーリ・ナハが『二人の想い(右)』を右耳に装着するのを確認した僕は、今日6度目の【異世界転移】を行った。
ボロアパートの自分の部屋に戻ってすぐに、ティーナさんがいくつかの荷物を持って、僕の部屋に戻って来た。
「これ、長袖の衣類よ。私のお古だけど、もしsize合わなかったら教えて。すぐ交換してあげる。あとはこれがrobe。これなら頭含めて全身すっぽり覆い隠せるでしょ? 一応、魔法攻撃を15%軽減できる優れモノよ。それとあとこれがtentに寝袋。tentは、その場に投げれば自動で展開するわ。片付けたい時は、この部分に触れれば、自動で畳みこまれるから便利だと思う。一応2人用で、周囲に弱い魔法結界を自動で生成する機能も付いているわ。魔法結界って言っても、攻撃を直接防御するんじゃ無くて、攻撃的意図を持った存在の接近を、内部の人間に
ティーナさんが、持ち込んだ品々を次々と説明してくれた。
「それと食糧や水は、Takashiの部屋に置いといて、必要な時に随時、こっちに取りに来ればいいんじゃないかしら。食器や調理器具もこの部屋のを使えばいいし。もし洗うのが面倒だったら、置いといてくれれば私が洗いに来てあげてもいいわよ? あと一応、携行食も持ってきたけど。携行食は、この部分に水を加えれば、調理器具が無くてもPack内の食品を加熱調理できるようになっているの。
ティーナさんが持って来てくれた携行食のパックには、加水加熱パックなる、ホッカイロのような部分が付いていた。
どうやら米軍やEREN(国家緊急事態調整委員会)で一般的に使用されている携行食らしい。
それはともかく、なんだか至れり尽くせりだ。
「本当にありがとう。ティーナはやっぱり頼りになるね」
「でしょ? だったら、私とSekiya-san、天秤にかけるような事、したらダメだからね?」
「そんな事、これからもするつもりなんて無いよ」
「ならいいけど」
ティーナさん、
天秤にかけるも何も、ティーナさんか関谷さんか、どっちか選ぶなんて瞬間が来るとは思えない。
二人ともここ地球では、僕にとって数少ない信頼できる仲間だ。
その内、機会を見て、二人をお互いちゃんと会わせてみるのもいいかもしれない。
「あと、同じtentの中だからって、TARY NAHAを襲っちゃダメよ? ま、Takashiにそんな度胸があるとは思わないけど」
「度胸がどうとか関係なしに、そんな事しないよ!」
僕はティーナさんに別れを告げて、今日7度目の【異世界転移】のスキルを発動した。
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