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第261話 F級の僕は、富士第一95層を征く
第261話 F級の僕は、富士第一95層を征く
6月6日 土曜日15
ゲートを抜けた先、富士第一95層は、見渡す限りの溶岩台地が広がる火山地帯であった。
あちこちの地面の隙間から、シューシューと湯気が噴き上がり、硫黄の臭いが立ち込めている。
遠くには、噴煙を上げる山々が連なっているのが見える。
そして、灰一色に塗り潰された空からは、サラサラと細かい火山灰が降り注いでいた。
僕は口と鼻をフードの上から押さえながら、少し離れた場所に立ち、やはり周囲に視線を向けているティーナさんに声を掛けた。
「ティーナ、大丈夫?」
「? 何の話?」
「いや、火山灰が……」
言いかけて、僕は彼女が口も鼻も押さえず、平気そうにしているのに気が付いた。
もしかして……
「
「火山灰のshower浴びる趣味無いし、当然使ってるわよ?」
……僕も使おう。
改めて
「え~と、ティーナさん?」
僕より少し背の低い彼女が、そっと身を寄せながら甘えたような表情で見上げてくる。
「またTina“さん”になってる……」
「それはいいから……」
言いかけて、先程まで僕の周囲を舞っていたはずの細かい粒子状の火山灰が、消えている事に気が付いた。
「ティーナの
「そうよ。それにこっちの方が、お互いMP節約になるでしょ? その代わり、
護ってねって……
ティーナさん、いちいち抱き付いて来るのって、絶対、僕の反応見て楽しんでるでしょ?
「時間ももったいないから、ゲートキーパーの間に急ごうよ」
「ねえ、久し振りにTakashiのアレ、呼び出してよ」
「アレって?」
「medalで呼び出す召喚獣。
ああ、オロバスの事か。
「でも、ティーナのワームホールで転移した方が早いよ?」
ティーナさんが、少し拗ねたような顔になった。
「もう。せっかくだから、95層の風景楽しみながら向かいましょうよ。それとも夜、何か予定でも入ってるの?」
「予定は……」
夜7時に関谷さんが夕食のおすそ分けを持ってきてくれて、8時か9時には多分、一度イスディフイに行って、皆と情報交換して、後は
つまり、大した予定は入っていない。
「ま、夜7時までにはアパートに戻れればいいかな」
「じゃ、いいじゃない。まだ2時間以上あるわよ?」
「分かったよ」
僕は苦笑しながらインベントリを呼び出した。
そして中から取り出した『オロバスのメダル』を右手で握りしめた。
「オロバス召喚……」
―――ヒヒヒーン!
手の中のメダルが消滅し、代わりに、燃えるように赤い6本脚の巨馬、オロバスが出現した。
オロバスの巨体にそっと手を触れながら、ティーナさんが僕に問いかけてきた。
「それにしても凄いitemね。skillやstatusに関係なく、使用するだけでこんな召喚獣を呼び出せるなんて。isdifuiでは、こうしたitemは一般的なの?」
「う~ん、実はこの手のアイテムに関しては、そんなに詳しく無いんだ」
オロバスを召喚出来る『オロバスのメダル』
使用すれば誰でも騎乗可能な地獄の凶馬、オロバスを何度でも召喚出来てしまう優れものだ。
オロバスの維持には、1秒につきMP1必要になるけれど、僕の場合、頭部に『エレンのバンダナ』を巻いておけば、1秒間にMP1ずつ自動回復してくれるから、事実上、永遠に維持し続ける事も可能と言う事になる。
僕が知っているアイテムの中で、似たようなのだと、ガーゴイルを呼び出せる『ガーゴイルの彫像』がある。
ただしこちらは使い捨て、かつ召喚したガーゴイルは、倒されなくても、10分で自動的に消滅する。
「isdifuiには、似たようなitemを取り扱うshopは存在するの?」
僕はオロバスに
「どうだろう? 道具屋に行けば魔道具買えるから、その中に、召喚用のアイテムもあるかも。次行った時、見てこようか?」
ティーナさんの目が輝いた。
「是非お願い」
オロバスは僕等を背に、95層の溶岩台地を疾走し始めた。
オロバスの6本の脚が地面を蹴るたびに、降り積もった火山灰が濛々と巻き上げられていく。
因みにティーナさんには、ゲートキーパーの間の“座標”が分かるらしく、僕等は誰も未踏なはずのこの95層を、目的地に向かって最短経路で進む事が出来ている。
と、突然前方の火山灰で覆われた大地が盛り上がった。
慌ててオロバスを停止させた僕の鼓膜をつんざくような奇声が辺りに響き渡った。
―――ギェェェェェ!
火山灰の中から現れたのは、巨大なミミズのようなモンスターであった。
ミミズと言っても、見えている範囲で長さ5m以上、太さは直径1mはありそうだけど。
そのミミズの化け物は、先端に丸く大きく開いた牙だらけの口をいっぱいに広げて、僕等に襲い掛かろうとして……
そのまま固まった。
後ろのティーナさんが、僕の耳元で囁いた。
「Takashiが斃して。私が斃しても、item手に入らないし」
どうやらティーナさんが、スキルか何かでモンスターの行動の自由を奪ったようだ。
「了解」
僕はオロバスに跨ったまま、スキルを発動した。
「【影分身】……」
僕の影の中から、5体の【影】が出現した。
巨大ミミズは、身動きできない状態のまま、僕の【影】達に切り刻まれ、僅か数秒で光の粒子になって消えて行った。
そして、いつものポップアップが立ち上がる。
―――ピロン♪
【影A】がロイヤルアッシュワームを倒しました。
経験値2,379,507,577,709,540,000を獲得しました。
Sランクの魔石が1個ドロップしました。
ワームの粘液が1個ドロップしました。
さて、今、地面には魔石と粘液の詰まったボトルが転がっている訳だけど……
僕は試しに、【影】にアイテムを回収するよう指示してみた。
すると【影】の1体が、アイテムを拾い上げ、馬上の僕の傍まで来て、それらを差し出してきた。
どうやら、【影】にアイテム回収させる事は可能らしい。
これ、真っ暗闇とか、海中とか、アイテム回収しにくい場所で応用利きそうだな。
後ろのティーナさんが、僕の手元を覗き込んできた。
僕はそんな彼女に、ワームの粘液が詰まったボトルを見せながら話しかけた。
「これはあげるから、後で持って帰っていいよ。今まで通り、ゲートキーパー以外のドロップアイテムは、ティーナの取り分って事で」
「ありがとう」
嬉しそうな表情になったティーナさんが、背中からぎゅっと抱き付いてきた。
柔らかい彼女の身体を背中に感じて思わずドキマギしてしまった僕は、なんとか平静さを装いながら声を掛けた。
「とりあえず、行こっか」
その後もたびたびモンスターが出現したものの、全て同じようなパターンで危なげなく斃していくことが出来た。
やがて、降りしきる火山灰の霞の向こうに巨大なドーム状の構造物が見えてきた。
後ろで僕にしがみついているティーナさんが囁いた。
「あれが95層のgatekeeperの間よ」
こうして僕等はゲートキーパーの間に到着するまでに、ロイヤルアッシュワーム3体、アッシュドラゴン4体、ファイアードレイク5体を斃し、Sランクの魔石12個、『ワームの粘液』3本、『ドラゴンの鱗』4枚、『炎の石』5個を手に入れていた。
オロバスから降りて、オロバスをメダルに戻した僕は、ティーナさんに声を掛けた。
「ちょっと相談があるんだけど」
「何?」
「この『炎の石』なんだけどさ」
炎の石は、ファイアードレイクがドロップした、水晶の結晶のようなアイテムだ。
大きさはちょうど手のひらサイズ。
外部からは全く熱は感じないものの、内部に赤い炎のような何かが揺らめいている。
インベントリに収納した際に確認してみると……
【炎の石】
内部にエクスプロージョンの魔法が封じられた石。
使用すると、MP消費無しで、使用者の知恵の値に依存した威力のエクスプロージョンの魔法が解放される。
ただし使用後、一定の確率で砕けてしまう。
魔法による攻撃手段に乏しい僕にとっては中々魅力的なアイテム。
『炎の石』の一つをティーナさんに見せながら、言葉を続けた。
「僕に貰えないかな? 代わりに、Sランクの魔石上げるからさ」
「ちょっと見せて」
ティーナさんは僕から受け取った『炎の石』を確かめるように触りながら言葉を返してきた。
「もしかして、使用する事で何か効果が得られるitem?」
ティーナさん、相変わらず鋭いな。
僕は頷いた。
「炎系の強力な魔法が封じられているみたいで、ちょっと手元に持っておきたいんだよね。ほら、僕って魔法使えないからさ」
「いいわよ。他ならぬ私の大事なTakashiのお願いだもの。S-rankの魔石もいらないわ。なんなら、後でもう少しFireDrake狩りに行く?」
「ありがとう。時間が余ったら、お願いしようかな」
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