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第251話 F級の僕は、仲間達の助けで、神樹の間を脱出する
第251話 F級の僕は、仲間達の助けで、神樹の間を脱出する
6月6日 土曜日5
吹き飛ばされた僕は、芝生の上にしたたかに叩きつけられた。
痛む身体をさすりながら身を起こすと、誰かが駆け寄ってきた。
「タカシ様!」
「ノエル様……」
「お怪我は?」
「大丈夫です。それより、一体何が……」
言いかけて、つい先程まで僕がいた場所、ノエミちゃんやエレンがいるはずの場所から、白い光の柱が上空へと立ち上がっているのが目に飛び込んできた。
同時に、神樹の間の天井が完全に吹き飛んでいる事にも気が付いた。
「ノエミちゃん! エレン!」
慌てて白い光の柱に駆け寄ろうとする僕の腕をノエル様が掴んだ。
「二人は結界の中です。近付くと危険です」
「結界?」
と、急に周囲が騒がしくなった。
「侵入者だ!」
「陛下と殿下をお守りしろ!」
怒号が飛び交う中、良く知っている声が、僕の名を呼んだ。
「タカシ!」
「アリア!?」
声の方に顔を向けると、ミスリルの鎧とエセリアルの短弓を装備した完全武装のアリアが、こちらに駆け寄ってくるところであった。
ノエル様が、素早く僕とアリアの間に回り込んだ。
アリアは一瞬、怪訝そうにノエル様を見た後、すぐに険しい顔になった。
「あんたは……ノエミじゃ無くて、
「アリアさん、いくらお客人といえども、これはあまりに礼を失する態度ではありませんか?」
「そっちこそ、ノエミとエレンをどうしたの? というか、タカシ、どうしてこの王女様と一緒にいるの?」
「今、たまたまこうして一緒にいるだけと言うか……それよりアリア、どうやってここへ?」
アリアは、エレンがルーメルに送り届けた、と聞いたけれど?
と、いきなり
視界を業火が埋め尽くす。
―――ゴォォォ!
炎系の魔法かスキルで攻撃された!?
戸惑う僕の耳に、叫び声が聞こえて来た。
「殿下!」
「貴様! 殿下から離れろ!」
そしてこちらに駆け寄ってくる複数の足音も。
幸い、発動した
って、アリアや僕はともかく、ノエル様に攻撃当たったら、あとあと色々まずいんじゃないのかな……
僕は
5人の魔導士達が、それぞれ何かを詠唱しながら駆け寄って来るのが視界に入った。
その中の一人が叫び声を上げた。
「大変だ! 殿下が人質に取られたぞ!」
いや取ってないし。
というより、むしろ護ってるし。
戸惑っていると、ノエル様が魔導士達に呼びかけた。
「落ち着きなさい! 私は別に人質に取られたりしておりません。それより、何が起こっているのですか?」
駆け寄ってきた魔導士達は、ノエル様の前で慌てて臣礼を取った。
「何者かが複数、転移してまいりました。恐らく闇を統べる者の手の者達かと」
見ると、神樹の間のそこかしこで魔法陣が複数展開し、大騒ぎになっている。
10m程向こうに、魔導士の一団に護られているノルン様の姿が見えた。
そして魔導士達の放つ魔法を掻い潜るようにして、動き回る二人の人物の姿も……
「クリスさん? それにターリ・ナハ!?」
僕の視界の中で、ターリ・ナハが見事な身のこなしで、魔導士達の注意を自分に引き付けながら走り回っている。
そして、クリスさんが、滑るようにあの白く立ち上がる光の柱に接近していく。
僕は傍に立つアリアに話しかけた。
「もしかして、クリスさんの転移魔法でここへ?」
「うん。ルーメルに置き去りにされたから、クリスさんを呼んで、ターリ・ナハも心配してくれて、皆で助けに来たんだけど……」
アリアはチラリとノエル様に視線を向けた後、矢継ぎ早にまくし立て始めた。
「どうなってるの? この王女様が、黒幕なんでしょ? なんでタカシと一緒にいるの? ノエミは? エレンは?」
「あとでちゃんと説明するよ。それより、ノエミちゃんとエレンは……」
僕はノエル様の方を見た。
「二人は結界の中、と仰っていましたが、どういう事ですか?」
ノエル様は、神樹の間の中央から立ち上がる白い光の柱に視線を向けながら、言葉を返してきた。
「言葉通りの意味です。先程、闇を統べる者が……信じがたい事ですが、精霊の力を借りて特殊な結界を発動させました。」
「天井が抜けていますが、あれは?」
「結界の発動を阻害しようとしたこちら側の魔力と、闇を統べる者の力とが激しく干渉した結果……かと」
話していると、視界の中、クリスさんが白い光の柱の傍でしゃがみ込み、何かをしているのが目に飛び込んできた。
しかしすぐに立ち上がると、クリスさんは、今度は僕等の方に向かって駆け寄ってきた。
ノエル様を護るように立っていた魔導士達が、直ちに詠唱を開始しながら身構えた。
それに呼応するかの如く、クリスさんの前にも複数の魔法陣が展開されて行く。
クリスさんが、僕等に呼びかけて来た。
「タカシ君! アリア! 急いで脱出しよう!」
「おのれ、逃がすか!」
詠唱を終えた魔導士達が魔法を放つが、それらは全てクリスさんの前方に展開された魔法陣に阻まれ、クリスさんまで届かない。
アリアと共に、クリスさんの方に駆け出そうとした僕は、ノエル様に腕を掴まれた。
「お待ち下さい。あの者達は?」
「僕の仲間達です。僕等が窮地に陥っているのでは? と心配して駆け付けてくれたみたいです」
そして、僕の腕を掴むノエル様の指をそっと引きはがした。
「すみません、今度ちゃんと説明しに戻って来ますので」
「タカシ様!」
僕は振り返ることなく、クリスさんの元に駆け寄った。
「クリスさん! ノエミちゃんとエレンが……」
「二人は大丈夫だ! それより転移するから僕につかまって!」
一足先にクリスさんと合流していたアリアの傍に、いつの間にこちらに駆け寄って来ていたのであろうか?
ターリ・ナハの姿もあった。
「逃すな! 侵入者を捕えよ!」
恐らくクリスさんが僕等を包み込むように展開している魔法陣に、魔導士達の放つ魔法が干渉しているのであろう、凄まじい閃光が輝き、怒号が飛び交う中、僕の視界は唐突に切り替わった。
クリスさんが転移した先は、ルーメルの『暴れる巨人亭』2階、アリアの部屋の中だった。
さっきまでの怒号飛び交う騒然とした状況からは程遠い、深夜の静まり返った雰囲気。
高ぶっていた気持ちが、急速に落ち着いていく。
僕は改めてクリスさん達に頭を下げた。
「わざわざ助けに来て下さって、ありがとうございました」
「それはいいんだけど。何がどうなっていたのか、僕等にも教えて貰ってもいいかな?」
「もちろんですよ……」
僕は神樹の間でのノルン様達との
話を聞き終えたアリアが驚いたような顔になった。
「じゃあ、ノエミを拉致したり閉じ込めたりしてたのって、
「うん。そうみたいだ」
と、ここで僕は少し不思議な事に気が付いた。
「アリアはどうやってクリスさんを呼んだの?」
もしかして、いつの間にか、クリスさんと念話で連絡取れるようになってたとか?
僕の疑問に答えるように、アリアが懐から、形も大きさもちょうどテニスボール位の白くて丸い道具を取り出した。
「これ、クリスさんがくれた魔道具なんだけど、これ使うと、クリスさんを呼べるんだよ」
「へ~」
つまり、『ティーナの重力波発生装置』みたいなアイテムなのだろうか?
クリスさんが、捕捉で説明してくれた。
「僕もカロン程じゃ無いけれど、多少錬金術の心得があってね。ほら、君達、神樹に昇ったりしてるだろ? 緊急で僕を呼びたくなったら使ってもらおうと思って、自分で作って、アリアに3個程渡しておいたんだ」
「3個? 1個じゃなくて?」
『ティーナの重力波発生装置』みたいなのは、1個あれば事足りると思うんだけど?
アリアが答えを引き継ぐ形で口を開いた。
「うん。使ったら無くなっちゃうからね」
「そうなんだ」
どうやら使い捨ての緊急信号灯みたいなアイテムのようだ。
アリアが、少しジト目になった。
「でもちょっとひどくない? あれから一度こっそりアールヴの部屋に戻って、荷物持ち出して、いざ、テレスの街に戻るのかな~って思ったら、エレン、いきなりここに転移しちゃうんだから」
「ごめんね。実は僕も知らなかったんだけど、ノエミちゃんとエレンで相談して、アリアは安全な場所で待っていて貰おうって事にしていたみたいなんだ」
「ノエミらしいって言えばノエミらしいけど。勝手に置いてけぼりにするなんてね~。今度会ったら、文句の一つでも言ってやらないと」
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