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第247話 F級の僕は、改めて光の巫女の特殊性を知る
第247話 F級の僕は、改めて光の巫女の特殊性を知る
6月6日 土曜日1
次々と元気になり、立ち上がる仲間達の姿を目の当たりにしたテトラさんが、呆然とした様子で呟いた。
「これは……一体?」
そんなテトラさんに、立ち上がった仲間達の一人が声を掛けた。
「テトラ、お前の顔の
テトラさんは、自分の顔をぺたぺた触った後、やおら服をめくって自分の身体を調べ始めた。
「体の痣も全部……消えている!?」
そんな人々の様子を、ノエミちゃんはただ、にこにこしながら眺めている。
僕はそっと彼女に話しかけた。
「皆の放射線障害、治っちゃったって事でいいのかな?」
「はい。皆さんの衣服、体内、全てに異常なエネルギーを内包した何かが存在しておりましたので、それらも含めて完全に浄化致しました」
彼女の返事に僕は内心舌を巻いた。
僕等の世界の
それをノエミちゃんは、数秒“歌う”だけで――恐らく放射性物質の除去も含めて――完治させてしまったのだという。
光の巫女とは、僕が思っている以上に凄まじい能力を秘めた存在なのかもしれない。
ノエミちゃんが、その場の人々に改めて話しかけた。
「皆さん、お加減はいかがですか?」
彼等の一人が、言葉を返した。
「気分の悪さも吐き気も完全に消えている……あなた様が治して下さったのですか?」
「はい。皆様の身体の中に潜んでいた異変、全て取り除かせて頂きました。もう心配ありません」
「もしや……あなた様は……」
ふらふらとノエミちゃんの方に歩み寄ってきたテトラさんが、突然
「まさか、本当にお越し下さるとは……なんとお礼を申し上げて良いのやら……」
テトラさんは昨夕、光の巫女に癒してもらいたい、とアールヴの騎士達に
ノエミちゃんが腰をかがめてテトラさんに優しく語り掛けた。
「お立ち下さい。私は一介の治療師。たまたま皆さんに生じた異変に相性の良い治療術を心得ていたに過ぎません」
促されてようやく立ち上がったテトラさんに、仲間達の一人が声を掛けた。
「おい、このお方は……」
「治療師様だ」
「だけどお前、さっき……」
「このお方がご自身を治療師だと
そして改めてノエミちゃんに深々と頭を下げてきた。
「我々を癒して下さいまして本当にありがとうございます。治療費をお支払いしたいのですが、どのようにさせて貰えれば宜しいでしょうか?」
「お代は結構ですよ」
「そういうわけには参りません! 何なりと仰ってください」
「では……」
ノエミちゃんは少し考える素振りを見せた後、言葉を続けた。
「今ここにいる私達のいずれかが助けを必要とした時、必ず助けの手を差し伸べる、とお約束頂けますか?」
「それはもちろん、でございますが……?」
「では、そのお約束を以って、お代とさせて頂きますね」
皆の感謝の言葉を背に、僕等はテトラさん達の滞在する宿を後にした。
宿から少し離れた場所まで来ると、アリアがやや興奮気味に口を開いた。
「ノエミすごいね。聞いた事も無い“ホウシャセンショウガイ”まで治せちゃうなんて」
「ふふふ、あれは正確には私個人の力ではございません。光の巫女とは本来、創世神イシュタル様のお力のほんの一部を分け与えられ、この世界の光を護る存在です。ですから、“ホウシャセンショウガイ”を癒したのも、創世神イシュタル様のお力、という事になります」
光の巫女……そう言えば、500年前のあの世界で、あの時代の光の巫女、ノルン様と対峙した魔王エレシュキガルは、光の巫女の事をイシュタル第一の眷属、なんて呼んでたっけ……
街の喧騒を抜け、適当な物陰に移動したところで、ノエミちゃんがアリアに話しかけた。
「ところでアリアさんは、武器や防具、今お持ちでは無いですよね?」
今夜、アリアが部屋を出る段階では、こっそり神樹の間を訪れる事しか計画になかった。
なので、今のアリアは、アールヴ王宮側で用意してもらったこの世界の普段着を身に付けているのみ。
当然、身を護るのに向いているとはいえない格好だ。
インベントリを持っていない彼女は、武器や防具を含めた荷物を全部、部屋に置きっぱなしのはず。
アリアが少し困った顔になった。
「うん。どうしようか? 一回、取りに戻ってもいい?」
「もちろんですよ」
アリアにそう言葉を返すと、ノエミちゃんはエレンに近付き、何事かを囁いた。
それに対して、エレンが何かを言い返している。
そのやりとりが、なぜか少し気になった僕は二人に声を掛けた。
「え~と……何か相談中?」
ノエミちゃんが顔を上げた。
「アリアさんのお荷物の回収方法を、エレンと打ち合わせしていました」
そして、ノエミちゃんは、アリアに声を掛けた。
「それでは私とタカシ様はこちらで待たせて頂きますから、エレンと一緒にお荷物、取りに行ってきて下さい」
「うん。分かった」
「それではエレン、アリアさんを頼みますよ」
エレンとアリアが転移で去って行った後、ノエミちゃんが話しかけて来た。
「タカシ様、アク・イールのネックレスに記録されていた
「もちろん覚えているよ」
アク・イールのネックレス。
そこには、アールヴの大臣ガラクさんが、アク・イールにノエミちゃんを攫うように指示した事が記録されていた。
「アク・イールは、私を永遠に封印するよう指示を受けていた……そうですよね?」
僕は頷いた。
その件に関しては、既にノエミちゃんにも
が、しかしなぜ今、ノエミちゃんは突然その話を持ち出しているのだろうか?
彼女は僕の疑問に答えるかのように、言葉を続けた。
「光の巫女は、いつの時代も
ノエミちゃんは一呼吸置いた後、話を続けた。
「タカシ様、光の巫女が封印されると何が起こると思われますか?」
「封印……ごめん、見当もつかないや」
「過去にその様な前例が無いので、ここからは推測になりますが……恐らく封印された光の巫女は、その地位と能力を失い、新たな光の巫女が選定される事になると思います」
「つまり、ノエミちゃんを拉致した目的は、ノエミちゃんの光の巫女としての地位と能力を奪う事が目的だった?」
「恐らく……殺せと命じなかったのは、姉に肉親としての情が残っていたからかもしれません」
ノエミちゃんは、光の巫女を巡る一連の騒動を、姉のノエル王女が黒幕だと考えている。
ここで僕は少し違和感を抱いた。
「ノエミちゃんを封印して、光の巫女の地位と能力を奪えたとして、そういうのって、簡単に自分の物にしてしまえるものなの?」
今まで聞いた話を総合すれば、光の巫女とは、創世神イシュタルの代行者のような地位にあるはず。
勝手に奪って自分のものにしようとしても、創世神イシュタルがそれを許さなかったりしないのだろうか?
「その辺は何とも……ですが、私がいずこかに封じ込められ、光の巫女が再選定されるとすれば、現時点では母を除いて、姉しか継承候補者が見当たらないのもまた事実です」
と、ふいにエレンが戻って来た。
しかし、一緒に戻って来るはずのアリアの姿が見えない。
僕はエレンに問いかけた。
「アリアはどうしたの?」
「タカシ様」
エレンの代わりに、ノエミちゃんが言葉を返してきた。
「アリアさんには、ルーメルの暴れる巨人亭にお戻り頂きました」
「へっ?」
聞いた言葉の意味の理解に、頭が一瞬追い付かなかった僕は、やや間抜けな声を出してしまった。
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