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第246話 F級の僕は、光の巫女の力の一端を目の当たりにする
第246話 F級の僕は、光の巫女の力の一端を目の当たりにする
6月5日 金曜日16
ノエミちゃんの言葉を聞いたエレンが口を開いた。
「光の巫女が危険を冒してまで神樹の間に出向こうとしているのは、それが理由?」
「そうです。神樹の間に赴き、祈りを捧げれば、霧の山脈での黒い結晶体の出現は必ず阻止できるはずです。そして恐らく、既に出現している黒い結晶体の力も大幅に弱める事が可能になるかと」
「それは……魔王エレシュキガルの力を大幅に削ぐことが出来る……という理解で正しい?」
「その通りです」
「分かった」
「エレン?」
僕はエレンに声を掛けた。
「分かったって……もしかして神樹の間に転移するって事?」
「そう」
「でも、危険なんじゃ……」
「危険は承知の上。だけど光の巫女の言葉が正しければ、魔王エレシュキガルの力を削ぎ、あなたの世界も救う事が出来る。大丈夫、光の巫女は私が護る」
「だとしても……」
「タカシ様」
なおも食い下がろうとした僕に、ノエミちゃんが優しい笑顔を向けて来た。
「これを姉が画策したのだとすれば、そこまで危険性は高く無いかもしれません」
「でも、相手はエレンなり、ノエミちゃんなりを
「はい。ですが、姉はエレンの“特殊な事情”を知らないはず。恐らく、転移魔法が使える“ただの”魔族と
ノエミちゃんは、エレンの事を魔王エレシュキガルその人であると信じている。
恐らくエレンの“特殊な事情”とは、その事を指しているのだろう。
「それとタカシ様」
「はい」
「神樹の間まで、タカシ様もご一緒して下さいますよね?」
「それはもちろん」
最初からそのつもりでここに来てるわけだし。
「ならば、より、危険性は低くなります」
「僕がいると、何か違うの?」
「タカシ様が創世神イシュタル様より遣わされた勇者様である事は、少なくともアールヴ上層部では周知の事実。その勇者様に御同行頂けるのなら、姉が強引に物事を推し進めようとしても、必ずそこに綻びが生じるはずです」
つまり、“勇者”って印籠が、相手に対して、ある程度の効果を期待できるって事だろうか?
まあ、本当にノエル様が、エレンとノエミちゃんに何かしようとしたら、勇者云々関係なく、それは全力で阻止するけれど。
と、そこまで黙って僕等の話を聞いていたアリアが声を上げた。
「私は? 私もついて行って良いよね?」
「アリアは……」
「アリアさん」
僕の言葉に被せるようにノエミちゃんが声を上げた。
「これは私と姉の問題です。エレンやタカシ様はともかく、アリアさんまで巻き込むのはいささか不本意に御座います。アリアさんには、どうか部屋でお待ち頂いて……」
「みんながそんな危険な場所に向かうのに、私だけ部屋で待機ってそんなの納得いかないんだけど」
「ですが……」
「私もうレベル71だよ? 何かあっても、自分の命位自分で守れるから」
「……分かりました」
「ノエミちゃん!?」
僕は慌ててノエミちゃんの顔を見た。
ノエミちゃんはなんだか簡単に折れちゃったけど、僕としては、危険だって分かっている場所に、アリアを連れて行くのは反対なんだけど……
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ノエミちゃんが微笑んだ。
「タカシ様、姉がこうして仕掛けてくる以上、むしろアリアさんを一人残しておく方が危険かもしれません。せっかくアリアさんも同行したいと仰って下さっているのですから、皆で押し掛けましょう」
話が一区切りついた所で、エレンが口を開いた。
「そろそろ行く?」
「そうですね……」
ノエミちゃんが少し思案顔になった後、僕の方に向き直った。
「タカシ様、神樹の間に向かう前に、行っておきたい場所が有るのですが」
「行っておきたい場所って?」
「テレスの街です」
「!」
テレスの街……
僕とアリアは昨日、嘆きの砂漠で“被爆”したらしいテトラさん達とこの街で出会った。
「もしかして、テトラさん達?」
「はい」
「もしかして、ノエミちゃん、放射線障害も治せちゃう?」
ノエミちゃんが微笑んだ。
「“ホウシャセンショウガイ”がいかなるものか、正確には理解できておりませんが、死以外の状態異常で、光の巫女に癒せぬものはございません」
ティーナさんから、放射線障害への対処法を
ノエミちゃんが、扉の外に立つイシリオンに“出掛ける”旨を伝えた後、僕等はテレスの街へと転移した。
アールヴと西方諸国との交易路上に位置するテレスの街は、真夜中の時間帯であるにもかかわらず、意外に多くの人々で賑わっていた。
そこかしこで露天商が客引きの声を上げ、冒険者や行商人達相手の酒場の光と喧騒が、通りにまで漏れ出してきている。
そんな中、僕等はエレンの案内で、テトラさん達が滞在していると見られる宿屋へと向かった。
エレンが“遠隔視”を使って見つけ出してくれたその宿は、通りから数本奥に入った、
宿の扉を開けると、カウンターには若い獣人の男性が一人、手持無沙汰な感じで座っていた。
「すみません、こちらにテトラさんっていう方が泊ってらっしゃると思うのですが」
「ん? あんたら、あの妙な呪いにかかってるって商人の知り合い?」
若い獣人の、とても客商売とは思えない言葉使いはさておき、テトラさん達がここに滞在しているのは確かなようだ。
「はい。アールヴからタカシが来た、とお伝え出来ないでしょうか?」
「あいよ」
若い獣人は腰を上げると、2階へと登って行った。
しばらくすると、若い獣人と一緒に、あのテトラさんが階段を下りて来た。
見た感じ、昨日よりも憔悴度が増しているような……
テトラさんは僕の顔を見ると意外そうな顔になった。
「タカシさん!? もうこちらに戻って来られたのですか?」
あれ?
そう言えば、テトラさんに会ったのは昨日の夕方。
あれからテレスの街とアールヴとを“馬車で往復した”にしては、戻って来るのがちょっと早過ぎた?
まあ、気にしても仕方ない。
僕はそのまま会話を続ける事にした。
「テトラさん達の事が心配で、急いで戻ってきました」
「そうだったんですね。ありがとうございます……それで、アールヴの王宮の方々はなんと……?」
「え~とですね……」
僕はノエミちゃんの方を振り返った。
なんと説明しよう?
まさか、光の巫女を連れてきました~って言うわけにもいかないし。
少し迷っていると、僕の視線に気付いたノエミちゃんが口を開いた。
「初めまして。私はアールヴで治療師をしている者です。宜しければ皆さんのご様子、拝見させて下さい」
「治療師、ですか? 一応、この街一番の治療師にも診て頂きましたが、治せない、と……」
ノエミちゃんがにっこり微笑んだ。
「術師が変われば、見立ても変わる事がございます。お力になれる事もあるかもしれません」
「分かりました。宜しくお願いします」
テトラさんが案内してくれた場所は、客室と言うよりは倉庫のような場所であった。
10畳程のその窓の無い殺風景な部屋の床に、テトラさんの仲間達7名が苦しい息遣いの中、横たわっていた。
彼等に視線を向けながら、テトラさんが今の状況を簡単に説明してくれた。
「昨夜は別の宿に泊まっていたのですが、恐ろしい呪いに冒されているって噂が立って、今朝になって追い出されてしまいまして……」
なるほど。
ドルム商会のような大手の
力なく
「ご安心下さい。今から皆様を癒させて頂きますね」
ノエミちゃんが、歌うように何かを口ずさみ始めた。
彼女の周りに金色に輝く何かが集まって来るのが見えた。
同時に、部屋の中を優しい光が満たしていく。
そして数秒後……
「おおっ!? 体が、軽い……!?」
「あれ? 鼻血が止まってる?」
「おい、お前の顔……
つい先程まで床に横たわり、苦しい息遣いだった人々が、次々と起き上がり始めた。
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