【コミカライズ版】最底辺であがく僕は、異世界で希望に出会う~自分だけゲームのような異世界に行けるようになったので、レベルを上げて、みんなを見返します【発売中】
第242話 F級の僕は、富士第一94層を訪れる
第242話 F級の僕は、富士第一94層を訪れる
6月5日 金曜日12
僕は改めて目の前のゲートに目を向けた。
「この向こうは94層目、でしょうか?」
「はい。この向こうは、今まで通りの命名法を取るなら、富士第一94層目という事になります」
やはり、富士第一には、94層目が存在した。
この分なら、きっと100層もそしてさらにそれ以降も……
と、ここで僕は不思議な事に気が付いた。
「ティーナさん、まだこのゲートを潜り抜けた先がどうなっているか、確認出来ていないですよね?」
ティーナさんが、少しおどけたような感じで言葉を返してきた。
「そうですね。私達含めて地球人はまだ誰もこのgateを潜り抜けてはいないはずです」
「なのに、どうしてgateの向こう側が94層目ってわかるんですか?」
「私は、私達の世界に属する領域全ての座標を感知する事が出来ます。wormhole設置もそうした座標を参考にして行っています。先程、Botisが消滅した瞬間、突如として富士第一94層が私達の世界の座標の中に出現するのが感知できました。そしてこのgateが生成されました」
「94層が新しく生成された……」
「“新しく”かそれとも、どこかから“転移”か……」
「転移? 富士第一94層が、ですか?」
人やモンスターはともかく、ダンジョンが“転移”なんて有り得るのだろうか?
「可能性の一つ、としてです。その辺は今回のDataの解析待ち、ですね」
そこで言葉を切ったティーナさんが、僕に探るような視線を向けてきた。
「ところで先程のBotis戦ですが……最初にBotisが何か未知の言語のようなものを発していましたよね? Takashiさんはあれ、理解出来ました?」
未知の……?
もしかして……
「『我が名はボティス。ニンゲン、我に挑むか? その傲慢、
「なるほど。あれは、そういう意味の言葉だったのですね。やはりisdifuiの言語ですか?」
「すみません、実は僕にはイスディフイの言葉は全て日本語に聞こえるんです。ですからボティスの使用していたのがイスディフイの言葉か日本語か、正確には判別できないんですよ。ただ、ティーナさんには理解不能で、僕にだけ日本語に聞こえるって事は、ボティスが使用していたのがイスディフイの言葉だった可能性はあるとは思いますが」
僕の持つスキル【言語変換】。
説明文には、“イスディフイに住む全ての知的種族との会話が可能になる”とある。
このスキルのおかげで、僕はイスディフイでも言語的な不自由を感じる事無く過ごすことが出来ている。
「なるほど。便利なスキルをお持ちですね」
ティーナさんが微笑んだ。
「ところで、ボティスも魔石以外、何か遺留品、残しましたか?」
僕はインベントリから先程回収したばかりの『ボティスの大剣』を取り出した。
黒光りする巨大な両刃剣。
その長さは優に3mに迫る。
僕はその大剣をティーナさんに見せながら提案した。
「これの処分、僕に任せてもらえないですか?」
「処分?」
「はい。実はイスディフイでは、斃したモンスターが魔石以外のアイテムを残すのは、極めて普通の現象なんですよ。で、そうしたアイテム類の中には、強力な武器や防具の素材として利用できるものもありまして」
ティーナさんの目がきらりと光った。
「つまり、
僕は頷いた。
「大した素材にならない事が分かれば、いつものようにティーナさんに差し上げますよ」
「ふふふ、ご協力感謝します。ところで……」
ティーナさんが、僕の身に付けているエレンの衣の裾に手を触れながら言葉を続けた。
「Takashiさんの装備品、実はmade in isdifuiだったりしますか?」
「まあ、そうですね」
今更隠しても仕方ない。
ティーナさんは、エレンの衣の手触りを確かめながら言葉を続けた。
「Takashiさんに一つお願いが有ります」
「お願い?」
「はい。量産品で構いませんので、向こうの武器や防具、いくつかこちらに持ち帰って来てもらえませんか? それと、もし可能なら、monsterの遺留品を素材にして武器や防具を作り出すrecipeのようなものも」
「それなら……」
僕はインベントリを呼び出した。
そしてその中から、イスディフイで以前購入したものの、既に使わなくなっている武器や防具――鋼鉄の剣や銀の鎖帷子等――を取り出した。
「これ、全部イスディフイ製です。もう使わないんで、良かったら差し上げますよ。レシピについては、向こうで少し調べてみます。その代わり、僕からもいくつかお願いしてもいいですか?」
「どんなお願いでしょうか?」
「まず、富士第一94層以降のゲートキーパー達との戦いも手伝ってもらえれば有り難いのですが」
「それはお安い御用です」
「それと、ゲートキーパー達の落とすアイテムについても、その最終処分、僕に任せてもらえないですか?」
ティーナさんの目が細くなった。
「なるほど……どうやら、100層目のゲートキーパーが、非常に貴重なアイテムを落とす可能性があるようですね」
僕は少しドキッとした。
「えっ? その……どうしてそう思いました?」
「簡単な推理です。Takashiさんは最初、富士第一100層に行きたがっていた。そして今、94層以降のゲートキーパー達とも戦うつもりでいる。加えて、ゲートキーパー達の遺留品の処分を自分で行いたいと提案してきている……」
ティーナさんの勘が鋭いのか、僕が分かり易すぎるのか……
僕は苦笑した。
「とにかく、どうでしょう? 僕のお願い」
「他ならぬTakashiさんのお願いです。全てOKですよ」
ティーナさんは、にっこり微笑んだ。
新しく生じたゲートを潜り抜けた先は、極端に起伏の乏しい、大平原が広がっていた。
背丈の低い灌木がぽつぽつと生えている以外は、地平線の果てまで遮るものの無いその光景を目にした僕は、思わずティーナさんに問いかけた。
「ここって、94層……ですよね?」
「そうですよ。それにしても、富士第一はなぜ、90層以降、こうしたfield typeのdungeonばかりなんでしょうか……」
隣に立つティーナさんの顔を、地平線の果てに沈みゆく太陽が赤く照らし出す……って、あ!
「ティーナさん、今って何時ですか?」
「時間ですか?」
ティーナさんが、右腕にはめたアナログ時計に視線を向けた。
「もうすぐ日付が変わりますね」
それは多分、現在のティーナさんの勤務場所、ハワイの時間だ。
「もしかして、日本時間だと、午後7時?」
「あと2~3分でそうなりますね」
まずい!
アールヴの晩餐会が始まってしまう。
「ティーナさん、急いで僕をアパートに送って貰えないですか?」
「急にどうしました?」
「午後7時から予定が入ってまして」
「もしかして、isdifuiに行くとか話していた件ですか?」
「そうです」
ティーナさんは直ちにワームホールを僕のアパートに繋いでくれた。
ティーナさんと共にアパートに戻って来た僕は、鋼鉄の剣や銀の鎖帷子といったイスディフイ製の武器や防具を床に並べた。
「これ、適当に持って帰って下さい。それじゃあ、僕は急ぐので……」
別れの挨拶もそこそこに、僕は【異世界転移】のスキルを発動した。
アールヴでの僕の帰還を祝う晩餐会は、結局、予定より30分遅れで始まった。
ノエル様やアールヴの高官達、それに以前一緒に神樹に登った4人の冒険者達――メティスさん、ガルベルさん、ネイ・カーンさん、そしてマイヤさん――合計20名程が参加する晩餐会自体は、和やかな雰囲気の中、2時間程度で
参加者達が三々五々、会場を後にする中、アリアと一緒に自分の部屋に戻ろうとしていた僕は、ノエル様に呼び止められた。
「タカシ様」
ノエル様の少し後ろには、あの4人の冒険者達も立っていた。
「少しお話、宜しいでしょうか?」
「はい。どうされました?」
「神樹をお昇り頂く件について、なのですが……」
「?」
なんだろう?
なんだか歯切れが悪い気が?
「何か気がかりな事でも?」
「タカシ様は、最後に神樹を登ったのは、2週間前……ですよね?」
2週間前……
僕は記憶を辿ってみた。
そう言えば、その頃じゃなかったかな?
ノエル様の背後に立っている4人の冒険者達と一緒に、“正規の方法”でその時の神樹最前線、第81層を訪れたのは。
「確かそうだったと思います。それが何か……?」
「実は……」
ノエル様が、後ろの4人の冒険者達の方に顔を向けた。
ノエル様の視線に応えるように、4人の内の一人、獣人のネイ・カーンさんが口を開いた。
「いやなに、いつの間にか、神樹、第85層まで解放されとるんじゃ。勇者殿なら、何か知っておらんかな~と。まあ、そういう話だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます