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第212話 F級の僕は、クラン設立について少し考えてみる
第212話 F級の僕は、クラン設立について少し考えてみる
6月1日 月曜日11
「クランを新しく立ち上げる?」
斎原さんは、どうして突然そんな事を僕に提案してきたのだろうか?
「すみません。クランとかそういうの、全く興味無いんで……」
やんわり断ろうとする僕に、斎原さんは、
「あら? これはあなたにとって、とてもメリットのある話なのに」
「メリットって例えば?」
「中村君、あなた、
その通りなんだけど、なんで斎原さんがそれを知っているのだろう?
僕が分かり易いだけなのかもしれないけれど。
「あなたが均衡調整課の“嘱託職員”をしてるのは、私からクランに加入しないか誘われた事がきっかけでしょ?」
「それは……」
「隠さなくても良いのよ。その辺の経緯については“知ってる”から」
知ってる?
もしかして、“独自の情報網”とやらを使って調べた?
「でも、クランからの加入のお誘いは断る事が出来ても、均衡調整課絡みの仕事を引き受けないといけなくなっている。4日前の富士第一90層、91層の調査、それに昨日の富士第一92層での
斎原さんが、僕の反応を確認するかのように、一旦言葉を切った。
言われてみれば、確かにその通り。
均衡調整課嘱託職員のフリをするために、結局、均衡調整課絡みの仕事をさせられている。
「にも関わらず、田町第十の事件の当事者たるあなたの所まで、佐藤博人の供述内容は伝わってこない」
「それは僕が詳しく聞こうとしてないからで」
「なら、質問してみると良いわ。四方木はきっとこう答えるはず。“中村さん、申し訳ない。まだ彼の精神状態が不安定で、私どももちゃんと話聞けてないんですよ”ってね。でも、実際はそうじゃないって事を、私は知ってるわ」
自分の顔が強張るのを感じた。
四方木さんとは“まだ”そんな会話を交わした事はない。
まさか斎原さん、“これから交わされるであろう会話”を先読みする能力を持っている?
斎原さんが、微笑んだ。
「そんな怖い顔しないで。私が言いたかったのは、均衡調整課にこれ以上所属し続けても、あなたにとってメリットって有るのかなって話よ。結局、他人の組織に所属し続ければ、その組織のしがらみからは逃れる事は出来ない。ならばどうするべきか?」
斎原さんが、少し僕の方に身を乗り出してきた。
「あなた自身の
……なるほど。
斎原さんの言葉にも一理ある……ような気がする。
しかし……
「それって、斎原さんには何のメリットも無いですよね?」
むしろ潜在的なライバルとなり得る新しいクランの設立は、デメリットしか無いのでは?
「そうね。単純に好意と老婆心からアドバイスしてるって考えてくれても良いわよ」
と、それまで黙って僕等の会話を聞いていた井上さんが口を挟んできた。
「さすがは斎原さん。うまいですね」
斎原さんが、井上さんに視線を向けた。
「何の話かしら?」
「いえ、中村クンを均衡調整課から引き離して、クラン設立をアドバイスして、実質、コントロールしようとするその話の持っていき方。さすがだな、と思いまして」
斎原さんの目が細くなった。
「井上さん、確かあなた、A級だったわよね?」
「はい」
「賢い人は好きよ。
「すみません。目下、
「交渉中、ね……」
二人の会話を聞いている内に、段々と冷静になってきた僕は、斎原さんにたずねてみた。
「……つまり、クランを設立して、斎原さんに協力しろという事でしょうか?」
「あなたがクランを設立するなら、それは友好的であって欲しいけれど、別に私のコントロール下に置こうなんて下心は持ってないわ」
「本当ですか?」
斎原さんが妖しく微笑んだ。
「本当も何も、今のあなたを力づくでコントロール出来る人、少なくとも日本には存在しないんじゃないかしら」
「それはどういう意味ですか?」
「1週間前、田町第十であなたと初めて会った時……」
斎原さんが妖しい笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「あなたは確かにF級とは思えないオーラを放っていた。だけどそれはせいぜいA級どまりのオーラだったわ。だけど次に富士第一で再会したあなたの放つオーラは輝きを増していた。S級に届く位にね」
僕は思わず首に掛けているネックレスに手をやった。
エレンがくれた『欺瞞のネックレス』。
僕が自覚できないオーラとやらを抑制して、弱者に見せかけてくれる異世界イスディフイのアイテム。
今、ちゃんと仕事をしてくれているのだろうか?
「そしてティーナの実験で生成されたゲートの向こう側から戻って来たあなたのオーラは、ますます輝きを増していた。今のあなたのステータス、完全にS級を凌駕しているはずよ」
斎原さんが、グラスに継がれたカクテルに手を伸ばした。
彼女がそれを一口二口飲むのを待ってから、僕は聞いてみた。
「……今の僕もそんなに強いオーラを放っていますか?」
「もしかして、私を試してる?」
「そんなつもりじゃ無いんですが」
「ふふふ。まあいいわ。正直に答えてあげる。今のあなたからはまるでオーラが感じられない。だけどそれは、あなたが何らかの手段で自身のオーラを隠蔽してるから。そうでしょ?」
斎原さんは、再びカクテルを口に運んだ。
「あなたは放つオーラを調節できる。そして現実問題、S級モンスターの群れを単独で殲滅して、S級2人を圧倒した。もしかしたらあなたの本当の実力は、S級なんて言葉では縛る事を許されない程高みにあるのかもしれない。そんなあなたを誰がコントロールできると言うのかしら?」
言葉を切った斎原さんは、何かを確かめるようにじっと僕を見つめてきた。
僕は何とも言えない居心地の悪さを感じながら、ビールに口を付けた。
「買いかぶり過ぎですよ。
「そういう事にしておいてあげるわ。だけど、これだけは覚えておいて」
「何でしょう?」
「間違っても、どこの組織にも属さない一匹狼にはならない事。あなた程の能力を持つ人間が一匹狼って状態は、周囲を不安にしてしまう。そうなれば、あなたの大嫌いな煩わしい雑事が、勝手に押し寄せてくる事になるわ」
結局2時間程、斎原さんを交えて居酒屋で過ごす羽目になってしまった。
斎原さんは、僕等の分も含めて勝手に会計を済ませると、笑顔で去って行った。
外に出て夜風に当たると、ようやく一息ついた気分になれた。
思わず大きく息を吐いた僕に、関谷さんが心配そうに声を掛けてきた。
「中村君、大丈夫?」
「大丈夫だよ。ジョッキも2杯までで止めたし」
少し酔っている自覚はあるけれど、この前の様に記憶はまだ飛んでいない。
今夜は潰れずに何とか自分のアパートまで帰れそうだ。
「そうじゃなくて」
関谷さんは、茨木さんと井上さんに視線を向けた後、言葉を続けた。
「せっかく中村君に羽伸ばしてもらおうと思って誘ったのに、あんまり楽しめなかったんじゃ無いかなって……」
「そんな事無いよ。斎原さんが来ちゃったのは事故みたいなものだし。今日は誘ってくれてありがとう」
話していると、井上さんと茨木さんも会話に参加してきた。
「それにしてもさすがはS級。中村君でさえ、自分の手の平に乗せようとしてたよね」
「そうか? 俺はむしろ、中村君こそクランを設立するべきだと思うがな」
「茨木さん、もしかして斎原さんの味方?」
「おいおい、敵も味方も無いだろ?」
「じゃあなんで中村君がクランを設立すべき、とか言っちゃうの?」
茨木さんが、少し真面目な顔になった。
「中村君、君は色々周囲に隠したい事情を抱えてるんだろ? だったらなおさら、信頼できる仲間を集めてクランを設立した方が良いと思うんだ。既存のクランも元々はS級達の能力やらを色々隠すために設立されてきた事情があるわけだし。そうだ、この際、この4人でクランを立ち上げないか?」
茨木さんの言葉に、僕より先に井上さんが反応した。
「ちょっと! 茨木さん、もしかして酔ってるでしょ?」
「あの程度で酔うわけ無いだろ?」
「すみません。僕自身、今は均衡調整課で仕事させてもらってますし、クラン設立とか、本当に全く考えて無いですから」
僕の言葉に、なぜか茨木さんががっかりしたような顔になった。
「そうか? まあ気が変わったら、いつでも声掛けてくれ」
結局、タクシーを使ってアパートに帰り着いた時、時刻は夜の10時を過ぎていた。
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