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第184話 F級の僕は、仲間達と一緒に広間からの脱出を試みる
第184話 F級の僕は、仲間達と一緒に広間からの脱出を試みる
5月30日 土曜日10
「いいだろう。かかってこい」
僕はそう叫ぶと同時にスキルを発動した。
目標は、関谷さん達を拘束しているスキンヘッドの男。
「【置換】……」
次の瞬間、僕とスキンヘッドの男の位置関係が入れ替わった。
すなわち、僕は関谷さん達のすぐ傍へ、スキンヘッドの男は10m程離れた、元々僕がいた場所へ。
こちらに走り寄ってくる井上さんが、一瞬大きく目を見開いた。
しかし彼女は立ち止まる事無く、全力疾走のまま、僕等の元へと駆け寄ってきた。
井上さんが僕の傍に到着した事を確認した瞬間、僕は、半径2m程の
淡く発光する多面体の
息を弾ませながらも、井上さんがホッとしたような表情になった。
「中村クン、やるじゃない。って、一体、いくつ隠し玉持ってるの?」
「それはともかく、二人の拘束を解こう」
「そうね」
僕はヴェノムの小剣を抜き、二人を拘束しているロープと拘束着を次々と斬り裂いていった。
井上さんが、斬り裂かれた部位に手を掛けて、二人の拘束着を次々と剥ぎ取っていく。
と、いきなり辺りが明るくなった。
振り返ると、ヘビメタファッションの男と仲間達が、僕等に攻撃を加えているのが確認できた。
煉獄の炎があたりを焼き払い、大剣のスキルが、僕等を叩き潰そうと振り下ろされるのが見えた。
しかし、彼等の全ての攻撃は、僕等を包み込む
僕はちらっと視界の左隅に浮かぶ数字を確認してみた。
MPの消費率は、
井上さんの全力が、1秒間にMP3消費位だったから、彼等は数人がかりとは言え、その倍の攻撃を繰り出してきているって計算になる。
ただし、井上さんの全力は、MP度外視してのもの。
MPの回復手段を自然回復以外に持っていないはずの彼等は、当然、MP残量気にしながら魔法やスキルを使用しているはず。
しかし、“複数”で“節約”しながらとは言え、この攻撃力という事は、やはりこいつらの中に、A級が複数混ざっていると見て間違いなさそうだ。
そんな事を考えていると、誰かに背中から抱き付かれた。
「中村君っ!」
拘束されている間中、相当な恐怖心と戦っていたのであろう。
安心したらしい関谷さんは、僕にしがみつきながら泣きじゃくり始めた。
そして、茨木さんも僕に頭を下げてきた。
「中村君、面目ない」
「頭を上げて下さい。二人とも無事でよかった」
と、再び
白い上半身だけのゴーレムが3体出現し、氷雪の暴風が吹き荒れている。
先程まで燃え盛っていた煉獄の炎は、その氷雪の暴風に圧倒されて行く。
「中村クン! あの
見ると、すっかり頭に血が
既に3人程、言葉通り、完全に氷の彫像と化している。
女神の雫、10数本しか無いから、少し節約して欲しんだけど……
そんな事を考えながら、僕は井上さんに声を掛けた。
「井上さん、とにかく早くこの場を離れよう。広間の入り口までこのまま移動するから、後は井上さんが関谷さんと茨木さんを外まで護りながら連れて行ってあげて。外に出たら、均衡調整課への連絡、宜しく」
「中村クンはどうするの?」
「広間の入り口まで移動したら、僕が
「分かったわ」
しかし、僕等の会話に関谷さんが割って入った。
「中村君だけ残るなんてダメよ! この
さすがは関谷さん。
中々鋭い。
「今
僕はわざと明るい感じでそう答えた。
「でもっ!」
「とりあえず移動しよう」
僕等は出来るだけ固まったまま、広間の入り口目指して移動を開始した。
いつの間にか、彼等の姿は消えていた。
もしかして、逃げてしまった?
だとしたら、少々厄介だ。
「あいつらならさらに奥の方に移動したわ」
井上さんが歩きながら口を開いた。
どうやら逆上して戦ってるように見えたけれど、冷静に彼等の動きも観察していたらしい。
「多分、中村クンのバリアー突破出来ないと悟って、バリアー消滅を待ってるんじゃ無いかな」
なるほど。
「一応聞いとくけど、このバリアー、どれ位維持し続けられるの?」
「展開してるだけなら……」
僕は視界の左側の数字を確認した。
[0692/1,000]
単純計算で692秒、11分32秒。
「11分ちょっとかな」
「それなら広間の入り口までは余裕でもちそうね」
「そうだね」
話しながら、僕は軽い違和感を抱いた。
ヘビメタファッションの男と仲間達は、どうして広間の奥に逃げたのだろう?
広間の入り口方向開けとけば、僕等に逃げる機会を与えてしまうと考えなかったのだろうか?
もしかしたら、井上さんの白いゴーレムと氷雪の暴風の攻撃で混乱して、退避を優先した結果かもしれないけれど。
広間の入り口には、2分程度で到達した。
ところが、その場所を塞ぐようにして、巨大な魔法陣が出現していた。
「何アレ?」
「まさか魔法結界!?」
ここへ来る時は感じなかったから、僕等をここへ誘導した後、彼等の仲間が設置したのかもしれない。
道理で追いかけてこない訳だ。
彼等から見れば、僕等は袋のネズミって事なのだろう。
「
しかし……
―――バチバチバチ……
凄まじい魔力の火花を飛ばしながら、僕の
代わりに、結構な速さで僕の視界の左隅の数字が減少していく。
周囲には、見える範囲に彼等の姿は無い。
「突破するのは無理っぽい。井上さん、あの魔法結界、解除できないかな?」
「結界解除は私の得意分野じゃ無いけど、やるだけやってみるわ」
僕は再度周囲の状況を確認してから
すぐに井上さんと関谷さんが魔法結界に駆け寄り、調べ始めた。
僕はその間に、『エレンの腕輪』のMP充填を試みた。
視界の隅のMP充填率が徐々に上昇していく。
と、井上さんが顔を上げた。
「ごめん。無理だわ」
「そっか」
A級の井上さんで無理なら仕方ない。
でもどうしよう?
とりあえず、彼等の仲間がこの魔法結界を張ったはず。
そいつを見付けて締め上げて、解除させるしか無いかな……
そんな事を考えていると、いつの間にかすぐ傍に、あの能面のような表情のサラリーマン風の男が立っているのに気が付いた。
「うわっ!」
僕は思わず飛び退いた。
暗がりの中で、その生気の感じられない無表情は、もはやホラーだ。
男に気付いた仲間達も、直ちに戦闘態勢に入った。
男が口を開いた。
「さっきお前が使ったのは、桧山のユニークスキルだったはず。奪ったのか?」
【置換】の事を言っている?
僕は仲間達を包み込むように、再び
「お前、面白いな。少なくともお前みたいなのは俺の国にはいない。ちょっと遊んでみるか」
と、いきなり周囲を電撃の嵐が包み込んだ。
その電撃は、先程までの連中の放った攻撃とは比べ物にならない位桁外れの威力を持っているらしく、
まずい。
このままだと3分もたない。
僕はスキルを発動した。
「【影分身】……」
しかし……
―――バリバリバリ……
呼び出した【影】1体は、男に飛び掛かる
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