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第176話 F級の僕は、富士第一と神樹の関係性について思いを馳せる
第176話 F級の僕は、富士第一と神樹の関係性について思いを馳せる
5月30日 土曜日2
四方木さんの説明によれば、世界中に流星雨が降り注ぎ、世界がこんな状態になってから3ヶ月後の2月1日。
この日、S級の斎原涼子が、実家である斎原財閥の力を背景に、日本初のクラン、『
設立の経緯には、ダンジョンからもたらされる魔石の有効性にいち早く目を付けた斎原財閥の会長であり、斎原涼子の祖父でもある斎原辰雄の意向が強く働いたと言われている。
当初から均衡調整課は、クラン『
その後、同じくS級の伝田圭太率いるクラン『
クランに対して或る程度の超法規的特権を認める代わりに、協定という名の縛りを求める事にした……
「……つまり、一種の同盟関係です。協定第24項では、支援要請を受けた側は、その要請を拒否してはならないと定められております。まあ、今までは我々均衡調整課からS級の方々に支援を求める事はあっても、我々が支援を求められた例は無かったんですけどね……」
ところが今回、クラン『
「伝田様が
向こうが指名してきた僕以外の3名の名前も、この前の富士第一ダンジョン調査の参加者名簿に、その名前が記されていた。
僕は、気になる事をたずねてみた。
「91層攻略までの荷物持ちは、どうしてたんですか?」
「今までは、各クランのA級達が持ち回りで荷物の運搬を行っていたようです。ですが、伝田様が
なるほど。
その言い分は、理にかなっているように聞こえる。
四方木さんが言葉を続けた。
「一応理屈が通っているように聞こえるかもですが、そもそも異なるクラン同士が一緒にゲートキーパーに当たるって話自体が少々おかしな事でして」
「なぜでしょう? 難敵に共同して立ち向かうのは自然な流れに聞こえますが」
「中村さんはご存じないかもですが、クランにとって、別のクランは潜在的には全て敵なのです」
各クランは、総裁であるS級とその取り巻きであるA級達で構成されている。
彼等がクランを構成する最大の目的は、強者が結託する事で、理不尽な特権を享受、維持し続ける事。
さらには、総裁であるS級の能力をクラン以外の者達の目からある程度隠す事。
「ですから、この前の調査みたいな危険性の低い場合はともかく、S級が全力を出す事を要求される可能性のあるゲートキーパー戦に、クラン同士でのこのこ出向くなんて話は有り得ないのです。下手したら、相手に自分達の手の内を
僕は、四方木さんが
「にも関わらず、伝田様は、田中様と“一緒に”、92層のゲートキーパー戦を行おうとしている。さらに、前例の無い均衡調整課への支援要請も出してきている。我々の
そう話すと、四方木さんは、申し訳無さそうな顔になった。
「立場上は、ウチの嘱託職員って事になっている中村さんの派遣を拒否できないんです。我々としても、危険性が疑われる場所に中村さんを送り出したりしたくないので、色々手を尽くしてはみたのですが……」
どうやら、なんとか僕を派遣対象から外そうとして、四方木さんは裏で色々動いてくれたらしい。
しかし結局、伝田さんが四方木さんの打とうとした手を
それはともかく……
この話、僕にとっては、“予習”の機会になるかもしれない。
参加すれば、富士第一ダンジョン92層の様子と、何よりもゲートキーパー、バティンの姿を直接この目で確認出来るだろう。
ついでに、S級達の全力も目にする事が出来るかもしれない。
僕は最近、ある推測に
富士第一ダンジョンは、実は神樹内部の巨大ダンジョンのコピー、或いはそれ以上の何かなのでは? と。
富士第一90層の風景や出現モンスター達は、エレンによれば、神樹第90層のそれと瓜二つであった。
富士第一91層でティーナさん達、ERENが実施した実験により生成されたゲートの向こう側にあったあの大広間。
そこに生じていた魔法陣で、本来、神樹内部でのみ使用可能なはずの『転移石』が効果を発揮し、富士第一1層に転移する事が出来た。
ティーナさんは、『ブレーン1649c』なる別の世界の何者かが、僕等の世界にダンジョンを配置した、と語っていた。
『ブレーン1649c』とは、異世界イスディフイの事では無いだろうか?
そして、意図は不明だけど、僕等の世界をこんな風に変えた何者かとは、エレシュキガルの事では無いだろうか?
そう考えれば、僕等の世界と異世界イスディフイとで出現するモンスターが共通する事に説明がつくかもしれない。
富士第一と神樹内部の巨大ダンジョンとの相似にも説明が付くかもしれない。
少し考えた後、僕は四方木さんに言葉を返した。
「分かりました。それで、その日程はどうなってますか?」
僕の言葉に、四方木さんがやや意外そうな顔をした。
「すると、中村さんは参加を了承して下さる、と?」
「少し条件を付けさせては頂きますが、基本的には参加の方向で考えています。四方木さんや均衡調整課の皆さんには色々お世話になってますし」
四方木さんが頭を下げてきた。
「申し訳ありません。代わりに、来週の
「ありがとうございます。それで日程は?」
「それが……」
四方木さんが言いにくそうな顔になった。
「実は明朝9時出発なんですよ」
それはまた急な話だ。
もっとも、四方木さんがギリギリまで僕を派遣せずに済む方法を探ってくれていたとも言えるかもだけど。
「9時? ここを、ですか?」
「いえ、9時は伝田様達が富士第一に入る時間です。なので、明朝8時には富士ドームに集合して欲しいとの事です」
この前の富士第一ダンジョン調査では、ここN市均衡調整課から富士第一までヘリコプターで1時間半ほどかけて送迎してもらった。
「今回もここから富士第一までは、ヘリコプターで移動になるのでしょうか?」
「そうさせてもらいますよ。それで出発は、やはり今夜の方が良いですか? 今夜出発なら、富士第一総合庁舎の方に泊れるように手配しておきますが」
富士第一総合庁舎は、富士ドーム脇に建てられている均衡調整課の前線基地みたいな白い3階建ての建物の事だ。
この前の調査の時の集合と解散は、この建物内で行われた。
明日朝8時集合と言う事は、朝の6時過ぎにここを出ないといけない。
ならば、余裕をもって、今夜出発の方が、しんどくないかな……
ここまで考えて、僕は大事な用事を思い出した。
『今夜11時、田町第十前の駐車場で』
佐藤から送られてきたあのメッセージ。
今夜出発するとしたら、彼との約束を変更しないといけない。
どうしようか?
「四方木さん、そう言えば、佐藤って今何してるか分かります?」
「佐藤?」
四方木さんは僕の言葉に少し首を傾げた後、思い出したような表情になった。
「ああ、あの田町第十の?」
「はい」
「親族から保釈申請出されてましたが、彼ならまだ勾留中のはずですよ」
「えっ?」
僕は思わず絶句してしまった。
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