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第175話 F級の僕は、土曜日をのんびり過ごそうと思う
第175話 F級の僕は、土曜日をのんびり過ごそうと思う
5月30日 土曜日1
翌朝―――
カーテンを
昨夜は結局、午前1時過ぎに
今日は大学の講義も無いし、他に取り立てて予定も立てていない。
たまっていた掃除や洗濯、あとは大学の課題のレポートやっておくか……
布団からゴソゴソ起き出した僕は、ふと、充電器に繋いであるスマホのライトがチカチカ点滅している事に気が付いた。
昨日はスマホを充電器に繋いでから【異世界転移】した。
スマホを確認するのは、それ以来という事になるけれど、その間に誰かからの着信かチャットアプリへの新着メッセージが届いていたのだろう。
一件目、5月29日 18:28……
『こんばんは。来週どうする?』
関谷さんだ。
どうするっていうのは、ダンジョンに潜るかどうか教えてって事だろう。
この前、B級ダンジョンの押熊第八に一緒に潜ったから、今度はA級ダンジョンに潜ってみるのも面白いかもしれない。
潜るダンジョンはあとでゆっくり探すとして、まずは返信を……
―――『おはよう。返信遅くなってごめん。来週、もちろんダンジョン潜る予定。詳細決まったら連絡します』
二件目、5月29日 20:34……
『あれからしおりんに会ってないみたいだけど、いつ渡すのかな?』
関谷さんの幼馴染の井上さんだ。
渡す?
何の話だろ?
この前、押熊第八攻略手伝って貰ったお礼は、既にBランクの魔石7個渡して終わってるはず。
少し悩んだ僕は、正直に聞いてみる事にした。
―――『おはようございます。渡すって、何の話?』
井上さんから返信あれば何の話か分かるだろう。
三件目、5月29日 21:27……
『この前の斎原さんの件で話がある。連絡くれ』
高校時代の同級生だった鈴木亮太だ。
こいつも他の元友達や知り合い達同様、自分がD級、僕が最低ランクのF級と判明して以来、僕を荷物持ちという名の奴隷として、散々いたぶってくれた。
均衡調整課の四方木さん達に僕の能力が半ばバレたのをきっかけに、僕は誰かの荷物持ちとしてダンジョンに潜るのを辞める事にした。
そんな僕の態度が気に入らなかったらしいこの男は、今週初め、アパートの前で、仲間達と一緒に僕を待ち伏せしていた。
これ以上関わりたくなかった僕が、【威圧】と【影分身】で鈴木達を少し脅していた時に、突然現れたのがS級の斎原さん達だった。
あの時、斎原さんに凄まれた鈴木達の様子が脳裏に蘇ってきた。
「す、すみません!」
「か、帰ります!」
「中村君、いや、中村様! もう荷物持ちさせたりしないから!」
そんな鈴木達が、斎原さんに関して何の話があるのだろう?
まさか、S級を皆で闇討ち計画……ってなわけは無いか。
ここ地球では、等級がワンランク違うだけで、能力には隔絶した開きが生まれてしまう。
S級ともなれば、単独で都市一つ壊滅させるのも可能とされている。
ともあれ、返信して面倒な事に巻き込まれたくは無いので、鈴木のメッセージは無視の方向で。
四件目、5月29日 23:41 ……
『田町第十の件で話したい事がある』
田町第十ダンジョン。
ステータスを偽装して各地のダンジョンで殺人を楽しんできたらしい桧山と戦ったダンジョンだ。
発信者は……佐藤博人!?
佐藤は、鈴木と同じく僕の高校時代の同級生だった男だ。
そして自分がC級、僕がF級と判明した瞬間、やはり鈴木の時と同様、僕達の友好的だったはずの関係性は崩壊した。
1週間前、5月23日の田町第十攻略は、佐藤が企画した。
しかし、その佐藤は、僕が倒した桧山と組んで僕達を罠に嵌めた疑いで、均衡調整課に連行されて行ったはず。
嫌疑不十分で釈放、或いは保釈されたとかでもう戻って来たのだろうか?
佐藤がなぜ桧山と組んでいたのか、田町第十で彼自身は何をしたかったのか、結局今の所分からないままになっている。
その当人から話があると言うのなら、断る理由は見つからない。
―――『分かった。連絡待ってる』
さて、次は着信履歴……
スマホを操作していた僕の指が止まった。
着信履歴に残っていたのは、N市均衡調整課だった。
それも2回。
昨晩の20時過ぎと今朝の9時前だ。
2回も掛けてきている所を見ると、よっぽど僕と話したい何かがあるって事だろう。
まさか魔導電磁投射銃の魔石、入れ替えちゃったのバレた?
しかも魔石の調整していないから、今、魔導電磁投射銃はライフルの形をした、ただの鈍器と化しているはず。
だいぶ不安感が増してきたものの、昨晩、今朝と2回の着信履歴を無視するわけにはいかない。
諦めた僕は顔を洗って歯を磨くと、N市均衡調整課に電話を掛けた。
数回の呼び出し音の後、均衡調整課に繋がった。
『お待たせしました。こちらはN市均衡調整課でございます』
爽やかな男性職員の声。
残念ながら僕の良く知っている人物の声では無い。
「すみません。中村隆と申します。そちらから着信があったみたいなので、掛け直してみました」
『中村隆さんですね。しばらくお待ち下さい』
のんびりした保留音は10秒ほどで終了し、僕のよく聞き知った人物の声に切り替わった。
「中村さん、なかなか電話にお出にならないのでどうしたのか心配してましたよ」
そう口にしながら、大して心配してなさそうな口調の四方木さんが電話に出た。
「……すみません、色々忙しくて。それでどういったご用件でしょうか?」
『そうそう、あの話についてでした』
「あの話?」
四方木さんの声が小さくなった。
『少しまずい事になってきまして……電話では説明しにくいので、今からこちらにお越し頂けないですか?』
あの話?
まずい事に?
魔導電磁投射銃の件についてかどうか確認できないものの、僕にとって良い話で無い事だけは伝わってきた。
「分かりました。11時過ぎるかもですが」
『結構ですよ。ではお待ちしてますね』
電話を切った直後、僕のスマホにチャットアプリの新着メッセージが届いている事を示すお知らせが表示された。
その表示に指で触れ、届いているメッセージを確認してみた。
『今夜11時、田町第十前の駐車場で』
発信者は佐藤博人だ。
深夜の、しかもあの事件が発生したダンジョン前の駐車場への呼び出し。
どういう意図だろう?
しかし、僕の方も佐藤には色々問い
―――『了解』
メッセージを送信した僕は急いで均衡調整課へと向かう事にした。
土曜の午前中の均衡調整課受付前のロビーは、今週分の
僕が忙しく立ち働く職員達に声を掛けるタイミングを図っていると、背後から呼びかけられた。
「中村さん。お待ちしてました」
振り返ると更科さんだった。
「所長がお待ちです。こちらへ」
更科さんは、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開けて中に入るよう促してきた。
そのまま彼女の案内で廊下を進んだ僕は、前にも通された事のある応接室へと到着した。
部屋の中では、四方木さんと真田さんが僕を待っていた。
「中村さん、急に呼び立てて申し訳ない。ささ、お掛け下さい」
僕がソファに座ると、テーブルを挟んだ向こう側に、四方木さんと真田さんが腰を下ろした。
更科さんが用意してくれたお茶が目の前に置かれたタイミングで、四方木さんが切り出した。
「実は例の件、電話でも触れましたが少々まずい事になってまして」
四方木さんが珍しく本当に困っているような顔をしている。
仕方ない。
ここは先手必勝で……
「何の話でしょう? もしかしてお返しした魔導電磁投射銃、何か不具合でもあったでしょうか?」
「魔導電磁投射銃? 不具合?」
四方木さんが怪訝そうな顔になった。
あれ?
違った?
「魔導電磁投射銃、不具合あるかどうかはまだ確認していませんが、中村さんこそ、何かお心当たりあるんでしょうか?」
藪蛇になった?
「すみません。勝手な憶測で話をしました。それで……実際は、何の話でしょうか?」
慌てて軌道修正を図った僕に、四方木さんは意外な言葉を口にした。
「例の伝田様達からの緊急支援のお話です。中村さん、申し訳ない。
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