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第156話 僕は、ボレ・ナークさんをアールヴに連れて行く
第156話 僕は、ボレ・ナークさんをアールヴに連れて行く
5月28日 木曜日3
第3日目――5
「高貴なエルフ様が、卑しい獣人如きと盟約を成す事等有り得ない」
ボレ・ナークさんは、皮肉を込めてそう言い切った。
「僕ならアールヴを説得できるかもしれません」
「勇者殿……」
ボレ・ナークさんが溜息交じりで言葉を続けた。
「我等にも誇りがある。断られると分かっておる盟約を申し出て、恥辱にまみれて追い返される位なら、義を守ってこの地で滅びた方がましというもの」
仕方ない……
「ボレ・ナークさん、僕の今回の働き、皆さんの助けになりましたか?」
ボレ・ナークさんは、僕の突然の話題転換に、少し虚を突かれたような感じになった。
「ん? それはとても助かった。勇者殿には感謝している」
「では、見返りを求めても宜しいでしょうか?」
「見返り? それは当然の要求だな。何をもって報いようか? 金か? それとも、宝物か? 我等に可能な事なら、何でも応じよう」
「では、僕とアールヴまで一緒に来て下さい。そして、アールヴと盟約を結んで下さい」
「それは……」
「何でも応じるって
「……」
ボレ・ナークさんは、苦虫を噛み潰したような表情になった。
やっぱり強引だったかな……
と、僕等の話を聞いていたらしい獣人の少年が声を上げた。
「父上! これは父上の負けですぞ」
「クレオ・マハ、お前はまだ若い。エルフどもが我等をどんな目で見ているか知らぬから、そういう事が言えるのだ」
「確かにそうかも知れません。しかし、勇者様は自らへの報酬として、父上がアールヴと盟約を結ぶのを望んでおられる。これを断っては、父上は何をもって勇者様に報われるおつもりでしょうか?」
僕は少年の顔を見た。
まだ10代半ばであろうか?
しかし、どことなくターリ・ナハを思い出させるその両の瞳には、聡明な力強い光が宿って見えた。
ボレ・ナークさんは、じっと考え込む素振りを見せた後、口を開いた。
「……分かった。勇者殿と共にアールヴに参ろう」
僕がボレ・ナークさんと共に{転移}してアールヴに戻ったのは、昼前であった。
{転移}したのは、館の入り口、丁度獣人族の使者、ラーク・イハが衛兵達に無下にあしらわれていた場所。
数人の衛兵達は、最初驚いたように手に持つ槍を身構えたが、直ぐに僕に気付くと片膝をついて臣礼を取った。
僕は彼等に、僕の帰還と【
数分後、顔にベールを下ろしたノルン様がやってきた。
「勇者様、よくぞ御無事で!」
「すみません、勝手な単独行動をしてしまいました」
僕は、ノルン様に頭を下げた。
「それは構わないのですが……」
ノルン様は、ちらっとボレ・ナークさんの方を見た。
「そちらの方は?」
ボレ・ナークさんが片膝をつき、臣礼を取った。
「聖下様とお見受けいたします。私は、【
ノルン様が、衛兵達に告げた。
「女王陛下への謁見には手順がございます。まずは勇者様のみ陛下のもとにご案内しますので、この者には、別室で待機してもらって下さい」
そして、僕の手を取った。
「勇者様、女王陛下がお待ちです。こちらへ」
僕がノルン様達に連れられてノーマ様の居室を訪れると、ノーマ様は笑顔で迎え入れてくれた。
「勇者様、お待ちしておりました。さあ、どうぞ」
部屋の中央に置かれた6人掛けのテーブルの上では、既に昼食の準備が進められていた。
「丁度お昼でございます。食事を楽しみながらお話、お聞かせください」
「ノーマ様」
僕はテーブルに着席する前に話を切り出した。
「【
僕の言葉に、その場の雰囲気が一気に変わるのが感じられた。
女官長らしきエルフの女性が代わりに答えた。
「異世界よりお越しになられた勇者様は御存知ないかもしれませんが、女王陛下が獣人族と同席しての食事はあり得ないのです」
「それはなぜでしょうか?」
「我等エルフは、創世神イシュタル様により創造された光の存在。対して獣人族は……」
「メリア!」
ノーマ様が、話を遮った。
彼女は、僕に申し訳無さそうな顔を向けて来た。
「申し訳ございません。今この場には、人数分しか用意がございません。お客人には、別に用意させますので、この場は、勇者様もお席におつき頂けないでしょうか?」
どうやら、エルフの獣人に対する蔑視のようなものは、僕が思う以上に根深いものがありそうだ。
アールヴと【
僕は少し憂鬱な気分でテーブルに腰かけた。
食卓を囲みながら、改めて僕は海王レヴィアタンの討伐、及びケレス平原に出現した魔王軍との戦いについて、ノーマ様達に説明した。
僕の話を聞き終えたノーマ様が感慨深げに呟いた。
「ついに、魔王宮を護っていた4体のモンスターが倒されたのですね……」
「ノーマ様、これで魔王宮に直接{転移}出来るようになった、という事でしょうか?」
「勇者様、{俯瞰}で確認なさってみてください」
僕は、{俯瞰}のスキルを発動した。
南半球、暗黒大陸……
その中央付近、以前は何も“視えなかった”はずの、その今は夜中の地域に、どこまでも黒い闇色の輝きが灯っているのが“視えた”。
詳細を確認してみると、それはこの世界の二つの月に照らし出されて黒く輝く巨大なドーム状の構造物だった。
継ぎ目の無い素材不明のそのドーム状の構造物には、出入口らしきものも“視えなかった”。
「魔王宮は“視えました”」
「やはり」
「ですが、出入口が見当たりません」
僕の言葉を聞いたノーマ様が、ノルン様の方を見た。
ノルン様がその視線に答えるかのように口を開いた。
「創世神イシュタル様からは、魔王宮の結界を破りし者は、その証に身を固めよ、とのお言葉を以前、受け取っております」
結界を破った証……
光の武具一式か、4体のモンスター達がドロップした“魔石”の事だろう。
それらのアイテムを保持、または装備した状態で魔王宮に赴けば、内部に入れるのだろうか?
ともあれ、これで魔王宮に赴き、魔王エレシュキガルに“会いに行く”条件は全て整った事になる。
あとは、魔王エレシュキガルと戦いになった場合、勝てるかどうかだけだ。
「勇者様」
ノルン様の
「私も共に参ります。どうか魔王エレシュキガルを滅ぼして、この世界をお救い下さい」
食事が終わった所で、僕は改めてノーマ様に声を掛けた。
「ノーマ様、【
ノーマ様は、僕の言葉が終わる前ににっこり微笑んだ。
「承知いたしました。お客人もそろそろ食事を終えられた頃合いでしょう。今からお会いします」
「えっ?」
いささか拍子抜けした僕とは正反対に、女官達が狼狽したような声を上げた。
「なりませぬ!」
「女王陛下ともあろうお方が、卑しき獣人如きを謁見なさる必要はございません!」
「いいのです」
ノーマ様が女官達を制した。
「あの方は、仮にも勇者様が招かれた客人。それを会わずに追い返すなど、アールヴの狭量、世の人々に笑われましょう」
「陛下……」
女官達は、皆下を向いてしまった。
ノーマ様が、部屋の外の衛兵に声を掛けた。
「【
20分後、アールヴ神樹王国女王ノーマ=アールヴと【
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