第147話 僕は、光の剣を手に入れる



5月28日 木曜日3

第1日目――4



僕が引き金を引いた瞬間、魔導電磁投射銃から凄まじいまでの力の奔流が射出された。

瞬間、竜王のすぐ前に複雑な魔法陣が出現した。

力の奔流は、その魔法陣に激突し、しばしのせめぎ合いの後……

魔法陣ごと竜王を粉砕した。



―――ピロン♪



バハムートを倒しました。

経験値1,041,971,830,393,960,000,000を獲得しました。

竜王の瞳が1個ドロップしました。

光の剣が1個ドロップしました。

レベルが上がりました。

ステータスが上昇しました。



―――ピロン♪



レベルが上がりました。

ステータスが上昇しました。



―――ピロン♪



レベルが上がりました。

ステータスが上昇しました。



―――ピロン♪

…………

………

……



久方ぶりに、ポップアップが嵐のように立ち上がり続けた。

それらが消え去った後、僕は、自身がさらなる高みに登った事を確信した。


僕はゆっくりと、竜王が消え去った臥竜山頂上に降り立った。

そして竜王の残した『竜王の瞳』と『光の剣』を拾い上げた。

そう言えば、今回、魔石がドロップしなかった。

強いて言えば、『竜王の瞳』が形と言い、大きさと言い、魔石っぽいと言えば魔石っぽいけれど……

後は『光の剣』。

僕はかつて光の武具に身を固め、神樹に登った時の事を思い出した。

あの時僕が装備した『光の剣』、元は竜王のドロップ品だったらしい。

もしかすると、残りの3体のモンスター達も、光の武具のいずれかを落とすのかもしれない。


僕はインベントリを呼び出し、それらの品々を収納しようと試みた。

しかし、不快な効果音と共に、赤枠赤字のポップアップが立ち上がった。



《!》この世界で獲得したアイテムは、インベントリに収納できません。



……?

ここが500年前のイスディフイである事と関係している?

それとも、実はここは何者かが作り出した“仮想空間”みたいな場所で、この世界の物品は、現実世界に持ち出せませんとかそういう制限がかかっている?


ともあれ、インベントリに収納出来ないのなら仕方ない。


諦めた僕は、光の剣を腰に下げ、竜王の瞳を懐に仕舞うと、ステータスウインドウを呼び出した。



―――ピロン♪



Lv.101

名前 中村なかむらたかし

称号 {異世界の勇者}

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+100)

知恵 1 (+100)

耐久 1 (+100)

魔防 0 (+100)

会心 0 (+100)

回避 0 (+100)

HP 10 (+1000)

MP 0 (+100、+10){+∞}

使用可能な魔法 {蟆∫・槭?髮キ}

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【影分身】【隠密】【スリ】【弓術】【置換】{転移} {俯瞰} {察知} {浮遊}

装備 光の剣 (攻撃+400)

   エレンのバンダナ (防御+50)

   エレンの衣 (防御+500)

   インベントリの指輪

   月の指輪

効果 一定の確率で耐性の無い相手に一撃死 (光の剣)

   1秒ごとにMP1自動回復 (エレンのバンダナ)

   物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   MP10%上昇 (月の指輪)



ついにレベルが100を超えた。

ステータス値だけ見れば、補正無しでS級達に並んだ形だ。

それにしても、衝動的にここに来てしまった割には、竜王を倒せたのはラッキーだった。

まさに魔導電磁投射銃と謎のMP{+∞}様様さまさまだ。

ところで魔導電磁投射銃、大丈夫だろうか?

MP100万とか無茶な充填してしまって、射出の前、ヘンな振動と光発してたけれど……


僕は魔導電磁投射銃を観察してみた。

見た目上は、特に問題無さそうだ。

試しに少し離れた場所の岩に照準を合わせて引き金に指を掛けた。

そして、MPを10充填して引き金を引いた。


……

あれ?

何も発射されない。


その後複数回試してみたけれど、魔導電磁投射銃は、うんともすんとも言わなくなってしまっていた。


まずい……壊れた?

これ、確か400億円したはず。

やっぱり、後で弁償させられる?


少し狼狽してしまった僕は、すぐ傍に誰かがうつ伏せに倒れている事に気が付いた。

美しい刺繍を施された青系統の色のローブをまとった白い髪の人物。

長くピンと立った特徴的な耳の形からエルフと思われるその人物は、微動だにしない。


先程の冒険者達の仲間だろうか?


そっと抱き起してみてその人物の顔を見た僕は驚いた。


まさか……クリスさん?


目を固く閉じてはいるものの、その色白の整った顔立ちは、僕の知るクリスさんそっくりだ。

と、その人物の胸が僅かに上下しているのが見えた。


まだ生きている!


僕はインベントリから神樹の雫を1本取り出した。

僕がアンプルの首を折ろうとしたタイミングで、エレンが語り掛けて来た。


『待って』

『どうしたの?』

『ここはタカシから見れば、500年前のイスディフイの可能性が高いという判断で正しい?』

『多分』

『ならば、この世界で必要以上に他人の運命に介入するのは避けた方が良いかもしれない』

『それは……』


確かにこの世界が僕の知る500年後のイスディフイに繋がっていくのなら、死ぬはずの人を生かしたり、生きるはずの人を死なせるのは、その後の歴史を大きく変えてしまうかもしれないけれど……


僕は少し悩んだ末に、結局、アンプルの首を折った。


『ごめんエレン』


心の中に、暖かい何かが広がった。


『あなたならそうすると思った。謝らないで』


僕はそのまま神樹の雫を、白髪の人物の口の端から注ぎ込んだ。

むせながらもその人物は神樹の雫を飲み干した。

しかし、一向に意識を取り戻す気配が無い。


もしかして、HP以外の要因で意識を失っている?


ともかく、出来る事はした。

それが例え自己満足にすぎないとしても。

もしこの人物が僕の知るクリスさんならば、僕がこのまま去っても生き延びて、500年後、僕の前に現れる事になるはずだ。


僕は白髪の人物を出来るだけ柔らかそうな地面の上に横たえてから立ち上がった。


帰ろう……



アールヴ王宮の自分に割り当てられた部屋に戻ってきた僕は、扉を開けて外に立つメイド姿の女官に声を掛けた。


「すみません。至急、ノルン様かノーマ様にお会いして、お話したい事があるのですが」



20分後、ノーマ様とノルン様が、女官達と共に、再び僕の部屋を訪れた。


「勇者様、どうなさいましたか?」


僕は腰に差していた『光の剣』と懐に収めていた『竜王の瞳』をノーマ様に差し出した。


「これは……?」

「実は先程、竜王バハムートの拠る臥竜山に{転移}しまして……」


僕は、{転移}した先で竜王バハムートと戦いこれを倒した事、その際、これらの品々がドロップした事等を説明した。

話が進むにつれ、その場の人々の間にざわめきが広がっていく。

話終わったところで、ノーマ様が呆然と呟いた。


「あの竜王が……倒された?」


皆の反応に少し不安になってきた僕は、おずおずとたずねてみた。


「あの……何かまずかったでしょうか?」


僕の言葉に、ハッとしたような表情になったノーマ様が、深々と頭を下げて来た。


「ありがとうございます。この世界に住む全ての人々を代表してお礼を申し上げます」


どうやら、僕がここを勝手に抜け出して勝手に討伐してきたのが気に入らないとか、そういうのじゃ無いらしい。


「それにしましても、あの竜王を易々と倒されるとは、さすがは勇者様でございます」

「たまたま幸運が重なっただけですよ」


そう、全てはMP{+∞無限大}と魔導電磁投射銃のお陰だ。


「ともかく、これらの品々は勇者様の物です。どうぞ御納め下さい」


ノーマ様が『光の剣』と『竜王の瞳』を僕に返してきた。

僕はそれらを受け取りながら、たずねてみた。


「臥竜山の位置、ノーマ様はご存知ですか?」


僕の言葉に、ノーマ様の顔が悲し気に歪んだ。


「もちろんでございます。死と滅びが支配する彼の地で、数多あまたの勇士達が命を散らしてきましたから……」

「実は臥竜山上に、僕が転移する直前まで竜王と戦っていたらしい冒険者達の遺骸が放置されています。もし可能でしたら、彼等をこの世界の様式で葬って頂ければ……」


僕の脳裏に、クリスさんに似たあの白髪の人物の顔が浮かんだ。

ノーマ様の顔に優しい表情が浮かんだ。


「臥竜山に一番近いのはカルデス共和国です。その冒険者達の事は、彼の国に善処して貰えるよう要請致しましょう」

「ありがとうございます」



ノーマ様とノルン様が去り、再び部屋で一人になった僕は、改めて魔導電磁投射銃をインベントリから取り出した。


……使用不能になってるけれど、直す方法って無いのかな……


そんな事を考えていると、エレンの声がした。


『この武器、魔石が壊れてる』

『魔石が?』

『そう。Aランクの魔石が4個入ってるけれど、全部壊れてる』


魔石が壊れてる?

ならば、魔石交換したら使えるようになったりして……


心の中に浮かんだ僕の考えに、エレンが反応した。


『使えるようになるかは分からないけれど、魔石の交換は可能』

『そうなの? でもどうやったら良いんだろ?』

『その武器の持ち手に近い部分に魔石が嵌め込まれている。それを取り出して交換すれば良い』


僕はエレンのアドバイスに従って、持ち手の部分を丹念に調べてみた。

すると、小さなレバーのような部品が、邪魔にならないように折り畳まれているのに気が付いた。

僕はそのレバーを引っ張りだしてみた。


これ動かしたら、どっか外れたりして……


―――カシャッ


僕は持ち手を外す事に成功した。

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