第133話 F級の僕は、ステータス値を再度測定する


5月26日 火曜日6



「もう一回、中村さんのステータス、測定させて貰えないですか?」


四方木さんの言葉に、僕は少し考え込んだ。

今僕は、自分の初期ステータス以外の項目を、全て【改竄】している。

そして【改竄】した状態で受けた2週間前の精密検査では、理由不明だが、【改竄】している事を含めて見破られなかった。


「一応、前にもお話しましたが、僕、【隠蔽】スキルは持ってないですし、それでステータス値を隠したりもしてないですよ?」


これは本当の話。

僕が使用しているのは【改竄】スキルであり、【隠蔽】スキルではない。


「それは分かってます。もし【隠蔽】スキル使用なさってたなら、前の精密検査でそれは見破る事が出来ていたはずです。ですが……」


四方木さんは、ちらっと僕が破壊した的の方に目をやった。


「念のため、お願いできないですか?」


まあ、こんな凄い武器魔導電磁投射銃、三日間も貸してくれるわけだし、もう一回精密検査受ける位、別に構わない。

それに……


「……分かりました」


僕自身、少し確認したい事もあったので、僕は精密検査を受ける事を了承した。


「先にお手洗い、行って来てもいいですか?」



トイレの個室に入り、一人になった僕は、ステータスを呼び出した。

そして、【改竄】スキルでステータスを以下のように書き換えた。



名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+81、+16)

知恵 1 (+81、+16)

耐久 1 (+81、+16)

魔防 0 (+81、+16)

会心 0 (+81、+16)

回避 0 (+81、+16)

HP 10 (+810、+162)

MP 0 (+81、+16)

使用可能な魔法 無し

スキル 【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【影分身】【隠密】【スリ】【弓術】【置換】

効果 ステータス常に20%上昇 (エレンの加護)



レベルと、現時点では説明に困る【異世界転移】、【言語変換】そして【改竄】を【改竄】スキルを使用して表示から消去した。

エレンの加護の効果は敢えてそのままにしてある。

どのみち、ステータス測定で表示されるのは、ステータス値と所持する魔法、スキルのみ。


これで精密検査受けてみたら、どんな結果が表示されるんだろう?


トイレから戻って来た僕は、四方木さん達の案内で、2週間ぶりに精密検査室にやってきた。

そして、その四畳半位の壁も天井も真っ白な部屋の中で、背もたれと肘掛のついた椅子に座らされ、体中に電極みたいなのを取り付けられた。


「測定開始しますね」


ガラス越しに見える四方木さんの声が、こちらの室内に取り付けられたスピーカーから聞こえて来た。

装置がブーンと低い音を出し、同時に、僕は何者かに頭の中をまさぐられるような感覚に陥った。

そのまま10分程経過した所で、僕は、装置から解放された。


測定終了後、僕は更科さんに応接室へと案内された。

そのままソファに腰かけて待つ事数分で、四方木さんと真田さんが、測定結果の紙を手にやってきた。

四方木さんも真田さんもなぜか険しい表情をしている。


前回と違って、今回は、ちゃんと僕のステータス値が表示されたのだろう。


四方木さんが、少し逡巡する素振りを見せた後、測定結果が記入された紙を僕に手渡してきた。


「どうぞ、ご確認下さい」


さて、どんな風に表示されて……

って、あれっ?



名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1

知恵 1

耐久 1

魔防 0

会心 0

回避 0

HP 10

MP 0

使用可能な魔法 無し

スキル 【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【蠖ア蛻?コォ】【隠密】【スリ】【弓術】【置換】



一部文字化けしているスキルの欄はともかく、ステータス値……

( )カッコ内の数値は、測定結果に表示されてない。

もしかすると、地球の測定装置では、読み取れない?


戸惑う僕に、四方木さんが声を掛けてきた。


「……中村さん、そろそろ種明かしして頂けないですか?」

「種明かし?」

「スキルだけでは無く、ステータス値の方も開示して頂きたいのですが」

「いえ、僕はステータス値、本当に隠したりしてないですよ?」


この言葉に嘘は無い。

今、僕は、ステータス値に【改竄】スキルを使用していない。


四方木さんは、しばらく僕の目をじっと見た後、首を傾げた。


「では、これはどう解釈すべきでしょう? 中村さんのステータス値、どう考えても、こんなに低いなんてあり得ないんですが」

「僕にもよく分らないです」


僕自身、この結果は予想外だ。


やがて、四方木さんの表情が緩んだ。


「ま、異なる宇宙マルチバース関連の事象に関する研究は、まだ発展途上ですしね。中村さんは、まだ未解明な何かの理由で、ステータス値を正確に測定できないのかもしれません」


ん?

今の四方木さんの話の中に、気になる単語が混ざっていた。


「『異なる宇宙』って何ですか?」


四方木さんの目が細くなった。


「知りたいですか?」

「それはまあ……」

「中村さん、世界中にダンジョンを発生させたあの小惑星。どこから来たと思います?」


半年前、大気圏外でバラバラに砕け散って世界中に降り注ぎ、無数のダンジョンを発生させた流星雨の母天体。


「それは、どこか遠くからでは?」


小惑星帯とか、カイパーベルトとか、太陽系とその周辺には、隕石やら彗星やら小惑星やらが密集している部分があったはず。


「遠く。そう、我々の想像を絶するほど、観測不能な位遠くからです」

「観測不能って、太陽系の果てよりもっと遠くからですか?」

「太陽系の果てどころか、我々の銀河系の外、さらには我々の観測可能な宇宙の果てよりも遠くからです」

「それはどういう……?」


四方木さんの話に、若干理解が追い付かない僕に、四方木さんが悪戯っぽい表情を向けてきた。


「ここから先は、中村さんが正式に均衡調整課の職員になってくれたらお教えしますよ」



均衡調整課を出た時、既に夜の8時を回っていた。

僕は、近所のラーメン屋で夕食を済ませた後、ボロアパートに帰ってきた。

シャワーを浴びて一息ついた僕は、少し迷ったけれど、今夜も神樹のダンジョンに挑戦しに行く事にした。


確か、アリアがクリスさんを誘ってくれると話してたし、何より、今日借りた魔導電磁投射銃、思いっきりぶっ放してみたい。


そんなわけで、僕は【異世界転移】のスキルを発動した。


「おかえり」

「……ただいま?」


エレンが、なぜか当然のような顔をして、『暴れる巨人亭』2階の僕の部屋のベッドの縁に腰かけているが、これはもはや想定の範囲内だ。


「エレン、アリアは?」

「さあ?」

「ちょっと待ってて」


僕はエレンを部屋に残したまま、アリアの部屋に向かおうと廊下に出た。

と、階下のロビーから、アリアやマテオさん達の笑い声が聞こえてきた。

そのまま階段を下りて行くと、カウンター前で、アリアが、マテオさんやターリ・ナハと楽し気に話しているのが目に入った。


「アリア!」


僕の呼びかけに、アリアがこちらに振り向いた。


「タカシ! お帰り~」


アリアは、マテオさん達に手を振ると、まだ階段を下り切っていない僕の方に駆け上ってきた。


「待ってたよ」

「そういや、クリスさんってどうなったの?」


アリアは、少し声を潜めながら言葉を返してきた。


「私の部屋で待ってるよ」

「もしかして、マテオさん達は知らない?」

「うん。クリスさん、人見知りなんだって。1時間くらい前にこっそり転移してきたよ」


人見知り?

あのクリスさんが?

まあでも、いつも認識阻害系の加護が掛かった帽子やらポンチョやら着込んでるし……


若干違和感を抱いたものの、僕の部屋にも、人見知り (?)のエレンが勝手にやって来て待っている。


「どうしようか? 僕の部屋に今、エレン来てるんだけど」

「じゃあ、クリスさん呼んでくるから、部屋で待ってて」

「了解」


僕は、一足先に部屋に戻ると、一応、エレンにたずねてみた。


「今からこの部屋にアリアと、あと、昨日話してたクリスさんも来るんだけど、いいかな?」

「タカシのレベル上げ邪魔しないなら、別に構わない」


しばらく待っていると、部屋の扉がノックされた。


―――コンコン


「開いてるよ」


僕の声に応じるように扉が開き、アリアとクリスさんが入ってきた。


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