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第124話 F級の僕は、関谷さんと明日の計画を話し合う
第124話 F級の僕は、関谷さんと明日の計画を話し合う
5月25日 月曜日9
「……なんだ、そのイヤリング、別に恋人同士じゃなくても念話で通じ合えるのか」
あれから程なくして復活したマテオさんが、なぜか少し残念そうにそう口にした。
「そうよ! 全く、いい加減な事教えるんだから。クリスさんがいなかったら、勘違いしたまんまだったよ」
「ま、ともかく、アリアが二股かけてて、しかも両刀使いだって疑いがこれで晴れたわけだ」
「マ・テ・オ?」
はっはっはと笑うマテオさんは、アリアから向けられた氷のような視線に気付くと、素早く距離を取った。
「俺は仕事に戻るからよ? じゃあな!」
マテオさんは、先程買い出ししてきてテーブルの上に一旦置いていた品々を手に、厨房の方へ逃げるように去って行った。
僕は、それを見送りながらアリアに声を掛けた。
「じゃあ、僕等も部屋に戻ろうか?」
頷くアリアと一緒に2階への階段を上りながら、僕はたずねてみた。
「クリスさんは?」
「クリスさん? 帰ったよ」
「結局、どこ行ってたの?」
「ん~……また今度教えてあげる」
話してる内に、僕の部屋の前に到着した。
扉に手を掛けながら、僕はアリアの方に顔を向けた。
「そうだ、今のうちにお金分けとく?」
今日の“お宝”、を売り払って手に入れた
二人で折半するなら、
さっきアリアに
「ごめんだけど預かっといて。私が持ってる金庫ショボいし、タカシのインベントリの中が一番安全だと思うから」
「分かった。今日はどうする? まだ早いけど、ちょっと休憩したら神樹行ってみる?」
「いいよ。じゃあ、1時間後にタカシの部屋ね」
部屋の中で一人になった僕は、少し不思議な事に気がついた。
さっきのアリア、クリスさんの事、ちゃんと覚えてたな?
なんでだろ?
もしかしたら、今日半日、一緒に色々冒険したからかもしれないけれど。
それはともかく、今日は暖かい陽気のせい――きっとアリアの事は関係無いはず――で、少し汗をかいてしまった。
一回地球のアパートに戻って、シャワー浴びてこよう。
「【異世界転移】……」
時刻は午後3時過ぎ。
地球のボロアパートの一室に戻って来た僕は、シャワーを浴びて着替えを済ませると、充電器に繋いであったスマホを確認した。
チャットアプリに新着メッセージが数件届いていた。
いくつかは、相変わらず僕を荷物持ちとして呼び出そうとするメッセージだったけれど、関谷さんからのメッセージも一件混じっていた。
『いつ潜りに行く?』
ダンジョンに一緒に潜ろうって話だろう。
今週は、水・木と富士第一の調査に参加するって約束したし、関谷さんと一緒にダンジョンに潜るとすれば、明日の火曜日か、富士第一から帰って来てからの金曜日か。
まあ、明日は今の所、均衡調整課で調査の説明受けるだけしか予定無いし、午前中にでも関谷さんとダンジョン、潜りに行ってみようかな?
僕は、チャットアプリで返信メッセージを送った。
―――『明日の午前中はどうかな?』
送ったメッセージは、すぐに既読になった。
そしてすぐに返信メッセージが届いた。
『いいわよ。どこに潜る?』
どうしよう?
ちょっと均衡調整課の
―――『ちょっと待ってて。
チャットアプリを終了した僕は、改めてインターネットブラウザを起動した。
と、トップページにしている検索サイトに掲載されているニュースの中に、気になる記事が載っていた。
【米国S級が富士第一ダンジョン調査に初参加】
5/25(月) 10:30 配信
均衡調整課主導で進められている富士第一ダンジョンの調査に、米国EREN (国家緊急事態調整委員会)所属のS級エージェントが初めて参加する事が明らかになった。参加するのは、米国でもトップクラスの実力を持つと言われるティーナ・サンダース (21)さん。富士第一ダンジョンの調査は、今までもERENの協力の元行われてきたが、今回の調査対象となっている階層が、世界的にも稀なS級ダンジョンである90層以深である事に
どうやら、今度の調査関連の記事のようだ。
記事には、大勢の人々に囲まれたブロンドの長く美しい髪の女性の写真が添付されていた。
写真の注意書きには、今日の09:00、N国際空港到着ロビーにて、と記されている。
彫りの深い整った顔立ちに、強い意志を感じさせる眼差しの彼女からは、写真越しにも、あの斎原さん以上のオーラが感じられるような気がした。
それはともかく、記事から類推すると、今度の調査は、僕が思っている以上に大規模なものなのかもしれない。
まあ、その辺の事は、明日、四方木さん達が色々教えてくれるだろう。
僕は、改めてN市均衡調整課のHPにアクセスした。
ダンジョンの最新情報は……
一応、B級以上のダンジョンに絞って検索してみた。
N県N市周辺のダンジョンの内、B級ダンジョンは3件、A級ダンジョンは……0件。
う~ん、まあ、N県自体が田舎だしね。
なぜかダンジョンの位置や数、難易度は、地域の人口密度なんかと相関関係が見られる事が判明している。
今住んでいる場所から一番近いA級ダンジョンは、どうやら隣接するO府O市の淀川第五ダンジョンのようだ。
まあ、C級の関谷さんに申請出してもらうし、名前を借りる予定の関谷さんの知り合いもB級やA級なんて人達じゃ無いだろうし、とりあえず、明日はB級ダンジョンに潜ってみようかな。
3件ある内で、一番大きいのは……
■ N市押熊第八ダンジョン
等級;B
大きさ;大
出現モンスター;キラータイガーB級、ケイブライオンB級、ブラックジャガーB級
入場者;無し
入場予定者;無し
更新時間;15:00
ここにしよう。
B級モンスターって事は、異世界イスディフイ風に換算すれば、レベル60~70位ってところだろう。
ヒーラーの関谷さんに支援して貰いながら、レベル82の僕が前衛で戦えば、そんなに危険性は無いはず。
僕は、関谷さんに電話を掛けてみた。
数回の呼び出し音の後、関谷さんが電話に出た。
「もしもし、関谷さん? 今、電話大丈夫?」
『ちょっと待ってね。場所変えるから……』
少しガサガサ音がしていたが、やがて再び電話の向こうから関谷さんの声が聞こえてきた。
『お待たせ』
「ごめんね。急に電話して」
『ううん。それで明日潜るダンジョンの話よね?』
「うん。明日は押熊第八にしようかなって」
『押熊第八? B級ダンジョンよね?』
「良く知ってるね。もしかして、潜った事あるとか?」
『あるわよ。添田さん覚えてる? B級の』
槍が得意なB級の物理アタッカーだ。
10日程前、均衡調整課主導で行われた黒田第八攻略の際、僕と関谷さんは、彼と一緒にダンジョンに潜った。
「覚えてる。アンデッドセンチピードの時の人だよね?」
『その添田さん達に誘われて、数日前、一緒に潜ったわ』
「そっか。どうだった? 押熊第八」
『一緒に潜ったのが私含めて10人前後で、その内B級が数人参加してたから、特に苦労する事無かったわ。モンスターも力押し一辺倒ばかりだったし。あ、でも、奇襲かけて来るスキルとか持ってたから、その辺は要注意かも』
奇襲と言う事は、【隠密】系のスキルを使って来るのだろう。
明日はダンジョン内で【看破】のスキル、常時発動しておこう。
「じゃあ、明日の朝9時で押熊第八、申請して貰ってもいいかな?」
『いいわよ。その代わり、明日はお昼御馳走して貰おうかな』
「それ位、お安い御用だよ」
『ほんとに? ありがとう』
「じゃあまた明日」
『うん。それじゃあね』
電話を切った僕は、スマホを充電器に繋ぐと【異世界転移】のスキルを発動した。
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