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第110話 F級の僕は、四方木さんから意外な提案を受ける
第110話 F級の僕は、四方木さんから意外な提案を受ける
5月24日 日曜日1
目を開けると、見慣れない天井が目に飛び込んできた。
綺麗な白いクロス張りと、そこに取り付けられたお洒落なシーリングライト。
少なくとも、ここは異世界でも僕のボロアパートでもなさそうだ。
起き上がろうと手をつくと、いつもの万年床とは感触が明らかに異なる、ふかふかのベッドに自分が寝ていた事に気が付いた。
ピンクの可愛らしいシーツに、フリルのついた布団カバー。
ここは一体?
と、声が掛けられた。
「おはよう。気分はどう?」
声の方向に顔を向けると、ラフな格好の関谷さんがニコニコしながら立っていた。
気分……?
そう言えば、頭の芯がズキズキする。
間違いない。
―――二日酔いだ。
痛みに顔を
あわてた感じで、関谷さんが僕の身体を支えてくれた。
昨晩は、茨木さんと関谷さんと居酒屋『鳥かごめ』で思いっきり騒いで……
生ビールの中ジョッキ3杯目を飲んでるあたりからの記憶が怪しい。
つまり……
「僕って、潰れました?」
「うん」
関谷さんが、少し心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「もしかして、まだ気分悪い?」
「ごめん、ちょっと頭痛いや」
本当は、ちょっとどころじゃ無いんだけど。
「はい、お水」
関谷さんが差し出してくれたコップを受け取り、一気に飲み干した。
その冷たさに、少し気分がすっきりした。
「ここって、もしかして関谷さんの家?」
「家と言うか、マンションの部屋だけど」
関谷さんの話によれば、昨晩潰れた僕を、『鳥かごめ』から歩いて5分の、関谷さんが一人暮らしをしている部屋まで、茨木さんが運んでくれたそうだ。
僕のスクーターも、僕のポケットに入っていたカギを使って、このマンションの駐輪場まで後で押してきてくれたらしい。
と言う事は、僕は、本来なら関谷さんがゆっくり体を休めるべきベッドを、一晩占拠してしまったって事だろう。
「ごめんね。なんか色々迷惑かけてしまったみたいだ」
「全然。昨日はお酒ですっかり気分が緩んじゃった中村君の秘密、いっぱい聞けたしね」
関谷さんが、茶目っ気たっぷりな表情になった。
「ええっ!?」
まずい。
どこまで喋ってしまったのだろうか?
まさか、異世界イスディフイの話含めて洗いざらい全部……!?
僕の様子に気付いたらしい関谷さんが、くすくす笑い出した。
「冗談よ! 大した事喋ってなかったわ」
「そ、そう?」
「それにしても意外だったな。中村君が、ファンタジー小説とか好きだなんて」
「ファンタジー小説?」
「うん。なんか、魔王とか勇者とか、熱く語ってた。私も結構ファンタジー小説好きなんだけど、昨日の中村君が話してくれたのは、知らなかったな。あれ、なんて小説?」
やっぱり、色々喋っちゃったらしい。
ただ、幸いな事に、関谷さんは、何かのファンタジー小説の中の話だって思ってくれてるみたいだけど。
今後、お酒には気を付けよう、うん。
「酔ってたから、話した内容自体を覚えてないや。それより、今、何時かな?」
「今、丁度8時半よ。何か食べれそうだったら、作るけど?」
「ちょっと胃もむかむかしてるから、しばらく何も食べたくないかな」
「今度からは中村君、ジョッキは2杯までだね」
「そうします」
僕は、起き上がると、洗面所を借りて顔を洗った。
「均衡調整課、10時に来いって言ってたよね?」
「うん。なんなら、一緒に私の車で行く?」
「ありがとう。でも、一回アパート帰って、シャワー浴びたりしたいから、後で自分で行くよ」
僕は関谷さんに見送られて、彼女のマンションの部屋を出た。
スクーターに跨り、走る事20分程で、僕はようやく自分のアパートに帰り着いた。
部屋の片づけをしてからシャワーを浴びると、少し
頭痛も随分収まってきた。
そろそろ、行かないと……
僕は改めてスクーターに跨り、均衡調整課に向かった。
均衡調整課には、午前10時前には到着した。
正面入り口の扉を開けると、今週分のノルマの魔石を持ち込む人々で、結構、賑わっていた。
僕が、来意を告げるために受付窓口に近付くと、誰かに名前を呼ばれた。
「中村さん!」
「更科さん、おはようございます」
「昨日はお疲れ様。皆さん、もう来られてますよ。こちらへどうぞ」
彼女は、僕を奥の応接室のような場所に案内してくれた。
部屋の中のソファには、既に関谷さんと茨木さんが腰かけていた。
僕に気付いた茨木さんが、にやっと笑った。
「中村君、二日酔いらしいじゃ無いか。あの程度で潰れてはいかんな。これからは、ちょくちょく俺が鍛えてやろう」
「勘弁して下さい」
関谷さんと茨木さんが席を開けてくれたので、僕は、彼等の真ん中に座る形になった。
更科さんが入れてくれた熱いお茶をすすっていると、何かの書類を手にした四方木さんと真田さんが、部屋に入ってきた。
「昨日はお疲れさまでした。概要は既にお聞きしてるんですが、改めて昨日、田町第十で起こった事、皆さん、順にお聞かせ下さい」
四方木さんと真田さんが、僕等とはテーブルを挟んで向かい合う形でソファに腰を下ろし、“事情聴取”が始まった。
最初に茨木さん、そして関谷さん、最後に僕の順で話をした。
僕等の話を聞き終えた四方木さんは、しかし、意外にも
拍子抜けしたらしい茨木さんが、逆に四方木さんに話しかけた。
「俺達の話は、以上なんだが……」
「あ、ご協力ありがとうございます。今皆さんからお聞きした内容で、報告書作らせて頂きます」
「はぁ」
「そうそう、茨木さん、一応、精密検査、後で受けてから帰って下さい」
「……分かった」
僕は、気になる事を聞いてみた。
「四方木さん、あれから佐藤は何か話しました?」
佐藤は、本当に関谷さんの気を引くためだけに田町第十の攻略を企画したのか?
なぜあの大広間に僕等は閉じ込められる事になったのか?
佐藤と桧山が従兄弟同士というのが嘘だったのは、昨日の時点で判明していた。
では、二人は本当はどういう関係だったのか?
僕等の知らない所で、昨日、本当は何が起こっていたのか?
桧山が死んだ今、昨日の事件の真相を最もよく知る人物は、佐藤のはず。
僕の方に顔を向けた四方木さんの左の口の端が僅かに吊り上がった。
「聞きたいですか?」
「そりゃ、まあ……」
「中村さんさえその気なら、結構なレベルまで情報開示できるんですけどね……」
「それは、どういう意味でしょうか?」
四方木さんが、少し居住まいを正した。
「中村さん、ウチで働かないですか?」
「へっ!?」
四方木さんの唐突な提案の意図が分からず、僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「今、大学二回生でしょ? 卒業までは
均衡調整課に?
僕が?
均衡調整課は、全国のダンジョンを管轄し、ダンジョン内の事案に関して、逮捕・捜査権を有する特殊な公的機関だ。
採用されるには、最低でもC級以上が条件のはず。
「お言葉ですが、僕、F級ですよ」
「F級。そう、F級“だった”」
だった?
僕の心臓の鼓動が跳ね上がった。
もしやこの人は、何かとんでもない事を言い出そうとしてないか?
「最初にお会いしたファイアーアントの事件の時、中村さん、あなたは確かにF級、或いは良くてD級止まりだった。精密検査の結果もそうでしたし、何よりあなたからは何のオーラも感じられなかった。しかし今、そんなオーラ放ちながらF級ですっていうのは、少なくとも私の前では通用しない話です。それに何より、あなたがあのA級の桧山を倒したのを、そちらのお二人が、しっかり見届けてらっしゃるはずですからね」
「!」
まさか、四方木さんは、真相を見抜いている?
見抜いた上で、わざと僕等の話に合わせた報告書を作成しようとしている?
その場の空気が、一気に緊迫したものに変わるのを感じた。
隣に座っていた茨木さんが、腰を浮かした。
「違う! 中村君は……」
四方木さんが笑顔になった。
「まあまあ、落ち着いて下さい、茨木さん。中村さんも、そんな怖い顔しないで。これは、中村さんを守るお話でもあるんですよ」
「僕を守る?」
「そうです。中村さん、あなた、今回の件であのS級の斎原様に目を付けられちゃいました」
―――あなたから尋常じゃないオーラを感じる
僕は昨日、斎原さんに耳元で囁かれた言葉を思い出した。
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