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第111話 F級の僕は、滑稽な状況に思わず笑ってしまう
第111話 F級の僕は、滑稽な状況に思わず笑ってしまう
5月24日 日曜日2
人類の中で最強の存在であるS級は、現在、日本には3人しかいない。
彼等のステータス、スキル、能力は、国家機密とされ、厳重に秘匿されている。
噂では、彼等の平均ステータスは、人類の限界とされている100を超えるとか。
まぎれもなく、ダンジョンに巣食うモンスター以上にモンスターな存在。
それが、S級だ。
そんな彼等は、国家の統制から半ば外れた存在となり、それぞれ独自のクランという集団を作り上げている。
クランは、表向きは、政府からの依頼で、A級以上のダンジョンを攻略する集団だ。
しかし、実体は、法外な報酬・助成金を受け取り、様々な特権を享受する利益団体。
日本に存在するクランは、全部で三つ。
斎原涼子率いるクラン『
中でも、クラン『
「クランは確かに、高難度のA級ダンジョンを攻略し、破滅的なスタンピードを未然に防いできてくれました。富士第一ダンジョンの探索がこれほど急ピッチで進んでいるのも、彼らあってこそです。ただ……」
四方木さんは、テーブルの上のお茶をすすりながら、言葉を続けた。
「いささか、力をつけすぎています。中村さん、日本国内で確認されているA級、何人いらっしゃるか、御存知ですか?」
S級に次ぐ強者であるA級の数?
今まで、そんなのは気にした事も無かった。
というより、F級である僕が、気にしてどうする、という話だ。
僕が答えられずにいると、四方木さんが少し神妙な顔つきになった。
「74人です。で、その内の30人がクラン『
A級ダンジョンを攻略できるA級の殆どが、クランに囲い込まれている。
この事は、クランの発言力をより高め、ひいては、
四方木さんの話によれば、クランは、その勢力維持・拡大のため、常に強者を勧誘しているのだという。
クラン同士は一種の緊張・対立状態にあり、掛け持ちなど論外。
加えて、総裁であるS級の機密保持のため、一度参加すれば、脱退は絶対に認められないのだそうだ。
話を聞く限りは、クランと名乗るより、〇×組と名乗った方が良さそうな……
僕の感慨を見抜いたように、四方木さんがにやりと笑った。
「で、話を戻しますと、中村さん、あなたはそんなクラン『
つまり、僕の力を知った斎原さんが、半ば強引にクラン『
「クラン『
「……お話はよく分かりました。それで、今の話と、僕が均衡調整課で仕事をする話、どう繋がるのでしょうか?」
四方木さんは、探るような視線を向けてきた。
「中村さん、単刀直入にお聞きしますが、クランなんかには興味、無いでしょ?」
「それはまあ……」
特権を享受できる代わりに、様々な制約を課せられそうなクランなるものに、参加しようとはとても思えない。
「S級の方々も、
四方木さんが身を乗り出してきた。
「ウチとしましても、中村さんのように優秀な方に入って貰えれば大変ありがたい。待遇は保証します。勿論、ノルマ永久免除。なんなら、卒業までの学費や生活費含めて全てウチで負担させて貰いますよ?」
結論から言うと、僕は四方木さんからの提案に対する返事を留保した。
若干、四方木さんの話がうますぎて、何か裏があるのでは? と勘ぐってしまったのと、昨日会ったばかりの斎原さんが、僕にクランへの参加を直ちに求めて来る事は無いのでは? と漠然と感じたからだ。
四方木さんは、意外にしつこく食い下がることなく、あっさり僕を解放してくれた。
茨木さんは、一応精密検査を受けるとの事で、もうしばらく均衡調整課に残る事になった。
僕は、関谷さんと連れ立って、N市均衡調整課の入る総合庁舎ビルから外に出た。
見上げた空は、雲の
予報では、午後から雨だ。
「お腹空いたね。何か食べに行かない?」
関谷さんの提案で、僕等は、以前も訪れたことのある、近くのファミレスに向かう事にした。
スクーターを押しながら、関谷さんと歩く事数分で目的のお店に到着した。
時刻は丁度お昼の12時を回った所。
店内は、食事を楽しむ人々で、結構賑わっていた。
僕等は待つ事10分程で、席に案内された。
そこは、奇しくも、以前、関谷さんと一緒に夕ご飯を食べたのと同じ席だった。
「この席、前も座ったね」
「そうだね。あの時は夕方だったけど」
他愛も無い会話を交わしながら、タッチパネルを使って料理の注文を済ませていると、僕のスマホに着信が入った。
―――
佐藤と同じく、僕にとっては高校時代の元同級生。
そして、D級の弓使いであるこいつもまた、佐藤同様、僕がF級と分かったあの日を境に、僕をゴミのように扱うようになった一人。
恐らく、明日月曜以降のどこかの日に、荷物持ちしろって呼び出す電話だ。
以前の僕なら、すぐ電話に出て、愛想笑いを浮かべながら、荷物持ちさせて頂きましてありがとうございます、なんていう所だけど……
僕が、もはやF級では無い、と均衡調整課に半ばバレてる感じの今、わざわざ荷物持ちとしてダンジョンに潜る意味合いってあるのかな?
今なら、自力でダンジョン攻略して魔石提出しても、四方木さんは何も言わずにニコニコしながら受け取ってくれそうな……
呼び出し音が鳴り続けるスマホを、ただじっと見つめているだけの僕の様子を不思議に思ったらしい関谷さんが、声をかけてきた。
「どうしたの?」
「あ、うん。ちょっと席外すね」
関谷さんの言葉で、反射的に電話に出てしまった僕は、迷惑にならないよう、店の入り口の方に移動した。
「もしもし」
『
スピーカーにはしてないはずのスマホから、鈴木の声が、耳にキンキン響いてきた。
「今、食事中なんだけど」
『お前の都合なんて、知らねえよ。お前、
明後日?
そういや一昨日、鈴木からチャットアプリの方に、『26日14時笹山第二十五』ってメッセージが届いていたな。
確か、断りの返事を送ったはずだけど?
「行けないって返事したよね?」
『行けない? 何ふざけた事言ってやがんだ? あ? お前が来なけりゃ、誰が俺達の荷物運ぶんだよ!』
「……」
『返事はどうした?』
唐突に不思議な笑いが込み上げてきた。
こいつは、どうしてこんなに居丈高に電話してきてるのだろうか?
鈴木はD級、異世界イスディフイ風に言えば、レベル30~40といったところだろう。
対して、僕のレベルは77。
地球風に言えば、A級下位ってところだ。
D級がエラそうに仕切るD級或いはE級のダンジョンに、A級が単なる荷物持ちとしてついていく。
こんな滑稽な話は、そうそう無いだろう。
僕の押し殺した笑いが、電話口に漏れてしまったのだろう。
鈴木がキレ気味で
『お前、何笑ってやがんだ? ナメてんのか? 今どこにいる?』
「どこって、ファミレスだよ。もういいかな? 人を待たせてるんだ」
『何様のつも……』
―――プツ
僕は、電話を切った。
そして、スマホの電源を切ってから、自分の席へと戻って行った。
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