第102話 F級の僕は、エレンに普段どうしているかを聞いてみる


5月22日 金曜日10



レイスが、光の粒子となって消滅するのに合わせて、耳慣れた効果音と共に、ポップアップが出現した。


―――ピロン♪



レイスを倒しました。

経験値5,433,982,135,809,100を獲得しました。

Aランクの魔石が1個ドロップしました。

女神の雫が1個ドロップしました。

レベルが上がりました。

ステータスが上昇しました。



僕は、魔石と女神の雫をインベントリに収納してから、ステータスを確認してみた。


―――ピロン♪



Lv.76

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+75、+15)

知恵 1 (+75、+15)

耐久 1 (+75、+15)

魔防 0 (+75、+15)

会心 0 (+75、+15)

回避 0 (+75、+15)

HP 10 (+750、+150)

MP 0 (+75、+15、+7)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【影分身】【隠密】【スリ】【弓術】

装備 ヴェノムの小剣 (攻撃+170)

   エレンのバンダナ (防御+50)

   エレンの衣 (防御+500)

   インベントリの指輪

   月の指輪

効果 1秒ごとにMP1自動回復 (エレンのバンダナ)

   物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   ステータス常に20%上昇 (エレンの加護)

   MP10%上昇 (月の指輪)



とうとう、地球で言う所のS級の背中が見えるところまでステータスが上昇した。

僕の頬が自然とゆるんだ。

隣で僕のステータスを覗き込んでいたノエミちゃんが、嬉しそうに声を掛けて来た。


「レベルアップおめでとうございます」

「ありがとう」

「先程の戦いぶり、さすがです。今夜は、私の出番は無いかもですね」

「そんな事無いよ。今回は、ガーゴイル召喚したけど、次からは、呼び出すのは、【影】だけにしてみるよ」


話していると、エレンが、暗がりの向こうから近付いて来た。


「レベル上がった?」

「うん、76になったよ」


フードに隠れて見えないエレンの口元に、微笑みが浮かんだ気がした。


「次のレイス、連れて来る?」

「うん、お願い」


エレンが去って数分後、ボロボロの黒っぽいローブを纏う半透明の骸骨、レイスが滑るようにこちらに近付いて来た。


「【影分身】……」


僕は、ヴェノムの小剣を抜き、呼び出した【影】とともに、レイスに斬りかかった。


―――シュッ!


レイスの半透明の身体を、僕の武器が、手応え無く、すり抜けた。

一応、ダメージは通ってはいるものの、物理攻撃に対して耐性の高いレイスには、本来の20%程度しかダメージを与える事が出来ない。

先程は、ガーゴイルの高い攻撃力と手数に助けられたけれど……


今回は、レイスに魔法を使う隙を与えてしまった。

僕と【影】の“二人”を相手にしながらも、詠唱を終えたレイスの前に複雑な魔法陣が展開された。

そして……


凄まじい超常のブリザードが、僕等に襲い掛かってきた。

凍てつく冷気は、僕の身体を掠めるだけで、ガリガリとHPを削っていく。

たちまち、【影】が倒された。


「タカシ様!」

「タカシ!」


ノエミちゃんとアリアが、何かを叫んでいるけれど、今は、彼女達の様子を確認している余裕は無い。

僕は、床を転がり、超常のブリザードから逃れつつ、今度は【影】を2体呼び出した。

さらに、ダメ元で、【隠密】スキルを発動した。

僕の姿が、周囲に溶け込んでいくのが感じられた。

そのまま、超常のブリザードが収まるのを待った後、レイスに近付き、再度斬りつけた。


―――シュッ!


突然の攻撃に、レイスが少し戸惑っているように見えた。


もしかして、僕の姿は見えていない?


呼び出した【影】2体と共に、そのまま攻撃を続けようとした矢先、レイスが何かを呟いた。

瞬間、僕は、【隠密】状態が解除されるのを感じた。


どうやら、【看破】或いは、類するスキルを使用された!?


僕は、慌ててレイスから距離を取った。


レイスは、再び何かの詠唱を開始した。

と、そのレイス目掛けて、雨のように矢が浴びせかけられた。

どうやら、アリアが矢を放っているらしい。

同時に、ノエミちゃんの歌声が聞こえて来た。

その“歌声”の効果であろうか?

レイスの眼前に形成されつつあった魔法陣が揺らぎながら崩れていく。

僕は、詠唱を邪魔され、いらついている雰囲気のレイスの背中から斬りかかった。


結局、【影】2体は、レイスに倒されたものの、アリアとノエミちゃんの支援もあって、ついに僕は、レイスにとどめを刺す事に成功した。


―――ピロン♪



レイスを倒しました。

経験値5,433,982,135,809,100を獲得しました。

Aランクの魔石が1個ドロップしました。

女神の雫が1個ドロップしました。



やっと勝てた……


僕は、思わず床に膝をついた。

HPもMPもそれなりに消費してしまった。

最初の戦いで、楽に勝ってしまったので、つい相手を甘く見てしまったところはあった。

やはり、自分よりレベルが高く、魔法を使用する相手は、要注意だ。

ガーゴイルの召喚無しで戦った今、それがよく分った。

今の戦いも、ノエミちゃんが、相手の詠唱を妨害する精霊魔法を使ってくれたお陰で勝てたようなものだ。


僕が、今の戦いを振り返っていると、ノエミちゃんとアリアが駆け寄ってきた。


「タカシ様、お怪我は?」

「大丈夫、ほら」


僕は、二人の前で、神樹の雫を飲み干して見せた。


「やはりレイスは、今のタカシ様には荷が重い相手では?」

「まあ、なんとか勝てたから結果オーライって事で」


苦笑しながら、僕はふと気になる事をアリアにたずねてみた。


「アリアは、レベル上がった?」


アリアは、先程、矢を放ってレイスとの戦いを支援してくれた。

僕の場合は、他人の戦闘を支援すると、それに応じて経験値獲得出来るけれども……


「うん、上がったよ。今、レベル54」

「おめでとう!」


アリアは、嬉しそうに微笑んだ。



その後さらに僕は、アリアとノエミちゃんの支援を受けながら、レイスをもう2体倒す事に成功した。

結果、僕のレベルは77に、アリアのレベルは、57まで上昇した。


最後のレイスを倒した僕等が休んでいる所に、エレンが戻って来た。


「レベル上がった?」

「うん。77になったよ」

「順調」

「皆のお陰だよ」


そろそろ日付も変わる時刻のはず。


「今夜はこの辺にしとこう」


僕の言葉に、皆が頷いた。

帰りは、まず皆で『暴れる巨人亭』のアリアの部屋に転移した後、アリアと別れ、さらに僕とノエミちゃんは、エレンに西の塔傍の物陰に転移させて貰った。

さらに、ノエミちゃんを西の塔の部屋まで送り届けた後、今度はエレンに『暴れる巨人亭』の自分の部屋まで転移させて貰った。


「エレン、今夜も色々ありがとう」

「私は転移したり、モンスター連れて来ただけ。タカシこそ、今夜はお疲れ様」

「エレンってさあ、普段はどこでどうしてるの?」


フードの隙間から覗くエレンの目が、少し細くなった。


「……どうしてそんな事聞くの?」

「なんとなく。まあ、好奇心ってやつかな」

「私は……」


エレンは、何か言いたそうな素振そぶりを見せたあと、口をつぐんだ。

しばらくやや気まずい沈黙が続いた後、エレンが再び口を開いた。


「それじゃ」

「あ、うん」


エレンは、何かを呟いた。

そして、彼女の姿は、虚空に溶け込むように消え去った。


エレンの普段の生活については、あまり詮索して欲しくないって事かな……

だとしたら、少し悪いことしたな。

今夜は疲れたし、明日も早い。

地球に戻って寝よう……


気を取り直した僕は、【異世界転移】のスキルを発動した。



アパートに戻って来た僕は、シャワーを浴び、明日の準備を済ませてから万年床に潜り込んだ。


明日は、N市田町第十ダンジョンに朝9時集合だ。

田町第十は、僕のアパートからだとスクーターで大体20分程度だし、8時半にここを出れば良いかな……


僕は、目覚ましを朝8時にセットして、そのまま夢の世界へといざなわれていった。

…………

……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る