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第101話 F級の僕は、エレンの不用意な発言にハラハラする
第101話 F級の僕は、エレンの不用意な発言にハラハラする
5月22日 金曜日9
さて、いざノエミちゃんを連れてエレンの所に戻る段になって、僕は重大な
僕が袋に
仕方ない、最初にアリア、次にノエミちゃんって順番に運ぶか……
ここからエレンの待ってる場所まで、二往復しないといけないけれど。
僕が考えていると、僕の考えている事を察したらしいアリアが口を開いた。
「ねえ、何だったら、私、ここで待ってようか?」
「えっ?」
「今度は、タカシのレベル上げに行くんだよね? 私のレベルじゃ、何の役にも立てないから……」
アリアが、寂しげにそう口にした。
僕は、思わず声を上げた。
「そんな事は無い! アリアももうレベル50だし、武器も防具も最高級品を装備してるじゃないか」
「でも……」
「大丈夫、さ、まずはアリアからだ」
アリアに袋を被るよう促す僕に、イシリオンが話しかけて来た。
「……仕方ない。私が手伝おう」
イシリオンが、部屋の隅に置かれていた麻袋を持ち出してきた。
「アリアとやら、この袋の中に入れ」
「えっ? イシリオンさん、【隠密】使えるんですか?」
僕は慌ててたずねてみた。
「いや、使えない」
「じゃあ、こっそりここからアリアを連れ出すのは無理なんじゃ……」
イシリオンが、少し悪戯っぽい表情になった。
「私は、光樹騎士団の騎士団長だ。当然、衛兵達への指揮権も持っている。私が、“私物を袋に詰めて”、担いで階下に下りて行くのを
それって、職権乱……
まあ、イシリオンがアリアを運んでくれるなら、時間節約にもなるか。
しかし、衛兵は誤魔化せるとして……
「巡回する精霊は、どうやって避けるんですか?」
「だから、君が私を先導するのだ」
つまり、僕が【隠密】状態でノエミちゃんを運び、その後ろを、イシリオンが、アリアの入った麻袋を担いで、堂々と西の塔から出て行く、という事だろう。
僕は、アリアとノエミちゃんの方に視線を向けた。」
「二人とも、イシリオンさんに手伝って貰っても良いかな?」
二人の同意を確認してから、僕は、イシリオンに話しかけた。
「では、お願いします」
…………
……
こうして僕等は、あっさりとエレンの元に戻って来る事が出来た。
イシリオンは、頭からすっぽり黒いローブ――エレンの衣――を被っているエレンを見て、少し表情を険しくした。
しかし、それ以上何かを追求する事無く、アリアが入った麻袋を静かに地面に下ろすと、無言で元来た道を戻って行った。
その後ろ姿を目で追っていた僕の耳に、ノエミちゃんの声が聞こえて来た。
「エレン、昨日ぶりですね。特に何か変わった事はありませんでしたか?」
エレン……?
僕は、思わず、ノエミちゃんの方を振り向いた。
ノエミちゃんが、エレンの事をその名前で呼ぶのは、恐らく初めてでは無いだろうか?
「別にいつも通り」
エレンは、そんなノエミちゃんの変化を気にする素振りも見せず、そっけない言葉を返していた。
「それより、何層目に行く?」
「そうですね……」
二人の会話を聞きながら、僕は、ふと思いついた事を口にした。
「第80層で、女神の雫を落とすモンスターと戦うっていうのはどうかな?」
僕の提案に、ノエミちゃんが、難色を示した。
「タカシ様は、レベル75ですよね? 第75層辺りでレベルを上げられた方が、安全かと……」
「でもほら、僕は、あのステータス20%増しの加護とか持ってるし、ノエミちゃんに精霊魔法で支援して貰ったりとかしたら、結構、いけるんじゃないかな?」
僕等の会話に、アリアが口を挟んだ。
「タカシ、加護って?」
「うん、エレンの加護って言って……」
説明しようとした僕は、慌てて言葉を止めた。
話を続ければ、どうやって僕がその加護を手に入れたかって話題が始まりかねない。
「エレンの加護?」
アリアの表情が、怪訝そうになった。
僕は、アリアの言葉を敢えて無視して、エレンとノエミちゃんに問いかけた。
「と、とにかく! どうかな? エレン、ノエミちゃん、第80層に行ってみるっていうのは?」
ところが、アリアは食い下がってきた。
「ねえねえ、エレンの加護って、何?」
心なしか、アリアの目が怖くなっている。
「アリアさん」
ノエミちゃんが口を開いた。
「タカシ様のステータスを常時上昇させる効果のある加護のようですよ。いつの間にか取得なさっていたとか。たまたま“エレン”とついていますが、エレン自身が与えた加護では無いそうです。ですから、安心して下さい」
ノエミちゃんの説明を聞いたアリアの表情が和らいだ。
僕は、目で、そっとノエミちゃんにお礼を言った。
が……
「そう、私が与えた加護じゃない。私は口移しでパスを……」
「わーわーわーわー!」
エレンが、横からとんでもない事を口走り始めたので、僕は、思わず大きな声を出してしまった。
「タカシ、騒ぐとまずい」
「エレンのせいだよ!」
「エレン、今なんて?」
「さ、皆さん、とりあえず、神樹に移動しましょう」
ノエミちゃんがなんとかその場を鎮めてくれた。
結局、僕等は、第80層に向かう事になった。
エレンの転移魔法で向かった先は、磨きあがられた黒い御影石のような素材が床や天井を構成している第80層の回廊のような場所であった。
僕は、エレンとノエミちゃんに聞いてみた。
「ところで、女神の雫を落とすのは、どんなモンスター?」
「レイスというアンデッドモンスターです。邪悪な魔法使いが力に飲まれた姿と言われております。強力な魔法を使用する反面、物理的な攻撃力は高くありません。しかし、様々な攻撃に対して、高い耐性を持っていますので、今のタカシ様には、少々危険な相手かと」
そう答えたノエミちゃんが、心配そうな顔で言葉を続けた。
「やはり、第75層あたりで、堅実にレベルを上げられた方が……」
「ノエミちゃん、教えてくれてありがとう」
僕は、出来るだけ笑顔で答えた。
「今まで強力な魔法を使用する相手とあまり戦ってこなかったからね。良い機会だから、頑張ってみるよ。その代わり、危なくなったら支援宜しく」
「……分かりました」
僕とノエミちゃんの会話が終わるのを待っていたらしいエレンが、声を掛けて来た。
「連れてきても良い?」
「うん、お願い」
エレンが、暗がりの奥に消えて行くのを見送りながら、僕は、腰のヴェノムの小剣を抜いた。
アリアが、不安そうな声で話しかけて来た。
「タカシ、大丈夫?」
「まあ、やってみるさ。アリアは、ノエミちゃんの傍にいて、チャンスがあったら、弓で支援してね」
「うん」
やがて、暗がりの向こうから、何かが滑るように近付いて来た。
ボロボロの黒っぽいローブを纏う半透明の骸骨。
僕のレイスに対する第一印象だ。
レイスは、僕の姿に気が付くと、何かの詠唱を開始した。
「【影分身】……」
僕のスキル発動に応じて、僕の影が盛り上がり、【影】が一体、出現した。
【影】は、ただちにレイスに飛び掛かって行った。
さらに僕は、インベントリを呼び出して、【ガーゴイルの彫像】を1本取り出した。
ガーゴイルが
―――ピロン♪
ガーゴイルを召喚しますか?
▷YES
NO
勿論、僕は、▷YESを選択した。
【ガーゴイルの彫像】が、一瞬輝いた後、消滅した。
そして、僕の目の前に、あの第81層で目にしたのとそっくり同じ、高さ3m程の、背中に黒いコウモリのような翼を生やしたガーゴイルが1体出現した。
「レイスを攻撃しろ」
ガーゴイルは、僕の命令を受けると、既に【影】と激しく交戦しているレイスに飛び掛かって行った。
結論から言うと、戦いは、一方的なものになった。
様々な攻撃に耐性を持つはずのレベル80のレイスは、レベル75の僕の【影】と僕自身、そして、僕の召喚したレベル81のガーゴイルの間断無い攻撃の前に、自慢の魔法を披露する間も無く、5分程で光の粒子となって消滅した。
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