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第96話 F級の僕は、王女様のくれたペンダントの秘密に気付く
第96話 F級の僕は、王女様のくれたペンダントの秘密に気付く
5月22日 金曜日4
僕の放った矢を爆散させたらしい何者かが、木陰から姿を見せた。
そして、のんきな声で話しかけて来た。
「危ないよ。人に向けて矢を放っちゃ」
それは、灰色の帽子を目深に被り、茶色のポンチョを羽織った人物……
「クリスさん!?」
いつの間にか【隠密】を解除していたらしいクリスさんが、僕等の方に近付いて来た。
アリアが、剣を構え、引きつった表情のまま叫んだ。
「近寄らないで! 誰の命令? どうせ、あの王女様でしょ?」
「王女様?」
クリスさんは、足を止めて、小首を傾げた。
僕は、武器をヴェノムの小剣に持ち替えると、改めてクリスさんに問いかけた。
「どういうつもりですか? なぜ僕等を付け回すような事をしてるんですか?」
クリスさんが、両手を上げて降参するようなポーズを取った。
「ごめんごめん。そんなつもりじゃ無かったんだ。ちょっとした好奇心で、君達に付いてきちゃっただけなんだよ」
「好奇心?」
「うん。だって君、僕の事、ちゃんと覚えてるでしょ? だから、なんでかな~って」
また、覚えているのがおかしいような言い方……
クリスさんは、そのまま僕等から少し離れた所に腰を下ろした。
「勝手について来た事は謝るよ。ごめんね。でも、ホント、好奇心だけだったんだ」
僕は、クリスさんから目線を外さないまま、エレンに念話で問いかけた。
『隠れてたのは、この人で間違いない?』
『間違いない』
『敵意も無さそう?』
『敵意は無い』
僕は、少し肩の力を抜きながら、アリアに囁きかけた。
「どうやら敵じゃないみたいだ」
「分からないよ。油断しないで」
僕は、クリスさんに話しかけた。
「ちゃんと説明して貰えますか?」
「分かった。ちゃんと説明するよ」
クリスさんの話を
クリスさんは、元々人と接するのが苦手な性格らしい。
そこで、常に特殊な加護のかかったポンチョを着込んで、必要以上に他人と関わらないように生きてきた。
その特殊な加護は、一度関わった人間の意識から、クリスさんの情報を速やかに消去する効果を持つらしい。
ところが、僕は、あの乗合馬車の停留所で、クリスさんに気付いてしまった。
つまり、僕の意識から、クリスさんの情報が消去されていなかった。
その点に好奇心を掻き立てられ、転移魔法と【隠密】を駆使して……
「ちょっと待って!」
僕は、思わずクリスさんの話を遮ってしまった。
「何?」
「転移魔法、使えるんですか?」
「一応……ね」
クリスさんが、少しバツが悪そうな顔をした。
「え~と、それでは、クリスさんは、誰かに頼まれて僕等を尾行してたとか、そう言うんじゃないって事ですか?」
「うん、それはない。でも、僕ってやっぱりダメな奴だね」
クリスさんは、少し寂し気な表情になった。
「他人と関わるの止めとこって思ってこのポンチョ着てるのに、自分から近付いて、こんな事になっちゃってるし……」
思い出してみれば、あの鍛冶屋『鋼鉄の乙女』でも、クリスさんは、アリアのレベルの低さ、僕のレベルの高さを瞬時に見抜いていたし、武器や防具の知識も極めて豊富だった。
転移魔法や【隠密】のスキル、至近距離から放たれた矢を爆散させてみせた事等から推測するに、クリスさん自身、相当な実力者である事は確実だろう。
そんなクリスさんが、こうして大人しく、僕等との会話に応じている。
好奇心で付いて来たかどうかはともかく、少なくとも、僕等に危害を加えるつもりが無いのは本当だろう。
「あなたの言い分は分かりました」
僕は、クリスさんの顔をまっすぐ見つめながら言葉を続けた。
「とりあえず、これ以上僕等を付け回すのは止めて貰っても良いですか?」
クリスさんは、おどけた感じで敬礼に似たポーズを取った。
「了解。じゃあ、
クリスさんは、立ち上がった。
「じゃあ、またね」
クリスさんが何かを呟いた。
次の瞬間、クリスさんの姿は、溶けるように消え去った。
アリアが、ホッとしたように口を開いた。
「結局、何だったんだろうね? あの人」
「さあ……?」
僕は、気になる事をアリアに聞いてみた。
「そう言えば、アリアは、さっきのクリスさんの格好、覚えてる?」
「格好って……あれ?」
アリアは、不思議そうに首を捻った。
どうやら、クリスさんの言う“相手の意識から自分の情報を除去する特殊な加護”は、少なくとも、アリアに対しては、有効に作動しているようだ。
どうして、僕にその効果が及ばないのか不明だけど……
もう一度周囲の状況を確認した僕は、改めてエレンに念話で呼びかけた。
『エレン、もうこっちに転移してきてもらっても大丈夫かな?』
次の瞬間、僕等の前に、頭から黒いフードを被ったエレンが、姿を現した。
アリアが、驚いたように、後ろに飛び退いた。
「アリア、エレンだよ」
しかし、アリアは、剣を構えたまま、エレンを睨みつけている。
僕は、エレンに話しかけた。
「エレン、ごめんだけど、そのローブ、脱いでもらっても良いかな?」
エレンは、僕の言葉に素直に応じる形で、被っていたフードとローブに手を掛けた。
フードの下から、肩口にかかる位の漆黒の髪が
ローブを脱ぎ去った彼女は、黒地に赤の美しい刺繍が施された素材不明の服を身に付けていた。
アリアは、エレンの頭部に生える魔族の象徴ともいえる角に視線を向けながら口を開いた。
「あなたがエレンね? 私の事、覚えてる?」
「覚えてる。タカシの仲間」
「タカシは、いつの間にかあなたと仲良くなってるみたいだけど、私は……」
話の途中で、エレンが、いきなりアリアに頭を下げた。
「この前は、昏倒させてごめんなさい」
「えっ?」
どうやら、エレンは、初めて僕等と出会った日、魔法屋からの帰り道での出来事について謝っているようであった。
アリアが、少し拍子抜けした感じになった。
「な、なによ……謝る位なら、最初からやんなきゃいいのに」
一方、僕は、少し不思議な気分になっていた。
あの日の出来事について、エレンに、『アリアに謝ってくれ』って話した事あったっけ?
その時、エレンからの念話が届いた。
『あなたとパスを繋いだ時、あなたとアリアの関係についても色々視えた。だから一応、謝っておこうと思って』
色々?
視えた??
僕は、エレンと口付けを交わした時に視えた幻影を思い出した。
紅蓮の炎と蹲る少女。
そして、浮かび上がる黒いシルエット……
もしかすると、エレンはエレンで、何かの幻影みたいなのを視たって事だろうか?
あんまり、僕のプライバシーに深く踏み込む部分まで視えてませんように……
それはともかく、アリアが拍子抜けしている今が絶好の機会である事は間違いない。
僕は、改めてエレンをアリアに紹介した。
「……そんなわけでアリア、今後一緒に神樹登る時、何かとお世話になる機会も多くなると思うから、仲良くしてあげてね」
「まあ、タカシがそう言うなら、仕方ないか……」
アリアは、渋々ながら、エレンを受け入れてくれたようであった。
僕は、エレンに声を掛けた。
「そろそろ、ルーメルの『暴れる巨人亭』に連れてってもらっても良いかな?」
ところが、エレンは、なぜか僕の胸元に視線を向けたまま固まってしまった。
「……どうかした?」
「それ」
エレンの視線の先にあったのは、あのノエル様から貰ったペンダントであった。
今は、ネックレスのように、首から下げている。
「これがどうかした?」
「それは、術式を施した人物に位置を知らせる魔道具」
「えっ?」
僕は、ノエル様から貰ったペンダントを首から外して手に取った。
位置を知らせる?
もしかして、GPS機能付きの発信機みたいな?
ともかく、もし、ノエル様が、このペンダントを通じて、僕の位置を把握できるとすれば、いきなりルーメルまで転移してしまえば、極めて不自然と判断される可能性が出て来る。
アリアも、僕の手元のペンダントを覗き込んできた。
「どうしたの、これ?」
「今朝別れ際に、ノエル様から貰ったんだけどね……」
僕の説明を聞いたアリアが、少しうんざりしたような表情になった。
「やっぱりあの王女様、色々仕掛けて来るね」
「これ、どうしようか?」
「捨てちゃえば?」
仮にも一国の王女様からの下賜品。
捨てたりしたら、絶対、後から色々問題が発生しそうだ。
どうしよう?
僕は、少し考え込んでしまった。
―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―
94、95、96話に登場したクリスの前日譚を書いてみました。
【そして僕等は彼に出会う】~クリス編~
宜しければ、お読み下さい。
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