第75話 F級の僕は、【影】と二人、モンスターと再び死闘?を演じる


5月20日 水曜日11



「なんか偶然手に入ったんだ。だけど、そのスキル、MP消費するから、MP回復できるポーション落とす敵と戦ってこようかと」


僕が、そう話すと、アリアは少し残念そうな顔になった。


「……そっか、タカシが倒せばドロップ率100%だもんね。でも、どうやって王宮から外に出るの?」

「その……実は、エレンが近くに来ていてね」

「エレンって、あの魔族の?」


僕が頷くと、アリアの機嫌は、目に見えて悪くなった。

アリアは、今までの経緯から、エレンに対して良い感情を持っていないはず。


「今は事情があって、ここに連れて来られないんだ。だけど今度、ちゃんとアリアに紹介するよ。勝手にアリアを昏倒させた事も謝って貰わないといけないでしょ?」

「……それはいいけど……大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。今までもノエミちゃんとエレンと僕の三人でレベル上げしに行ってたから。それに、今の状況なら、エレンの転移魔法でここを抜け出すのが一番簡単だ」


アリアは、寂しそうな表情になった。


「そうだよね……。こんな状況なら、私なんて何の役にも……」


呟くようなその言葉を聞いた僕は、思わずアリアの肩を掴んでいた。


「アリア、それは違うよ」

「だって、レベルだって低いし、特殊能力とかも持ってないし……」

「君は、スライムに襲われていた僕を助けて、冒険の事も教えてくれて、マテオさんの宿の部屋借りてくれて……。君がいなかったら、僕なんて、今頃きっとどこかで野垂れ死んでいたよ」


いつの間にか僕の顔が、アリアに近付き過ぎていた。

彼女の上気した顔がすぐ目の前にある。

僕は、ハッとなって、掴んでいた彼女の肩を放した。


「ご、ごめん」

「う、ううん」


なんとなく気まずい雰囲気。

先に口を開いたのは、僕の方だった。


「それで、話を戻すけど……2時間位で帰ってくるからさ。その間に誰かこの部屋に来たら、僕が夜の散歩に出かけてるとか、適当に誤魔化しといて」


僕の言葉を聞いたアリアが、噴き出した。


「なにそれ? 相変わらず、言い訳が下手だな~」


アリアの苦笑に見送られながら、僕は部屋の扉を開けて廊下に出た。

エレンは、手持無沙汰な感じで僕の事を待っていた。


「遅くなってごめんね。誰もここを通らなかった?」

「大丈夫。誰も通らなかった」


偶然か、或いはエレンが何かしたのか不明ではあったが、とにかく、彼女は、誰にも気づかれる事無く、ここで僕を待ち続けていたようだった。


「じゃあさ、今夜は第62層に行こう。ドラゴンパピーと戦って、出来るだけたくさん月の雫、確保したいんだ」

「分かった」


エレンが、僕の手を取った。

彼女が何かを呟いた瞬間、僕の周囲の情景は、あの白い大理石のような素材が敷き詰められた、神樹第62層へと切り替わった。

転移した僕等の前後に、燐光に照らし出された仄暗ほのぐらい回廊が伸びていた。

モンスターの気配は無い。

僕が、インベントリを呼び出して装備を変更していると、エレンが、バンダナを差し出してきた。


「はい、これ」


黒地に赤の刺繍が入っているバンダナ。


そう言えば、昨晩、MPを自動回復してくれるバンダナをエレンが創ってくれるって話で、素材集めをしたっけ。


「ありがとう」


僕は、エレンから手渡されたバンダナを頭に巻いてみた。

そして、ステータスウインドウを呼び出してみた。



―――ピロン♪



Lv.60

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+59)

知恵 1 (+59)

耐久 1 (+59)

魔防 0 (+59)

会心 0 (+59)

回避 0 (+59)

HP 10 (+590)

MP 0 (+59)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【影分身】【隠密】【スリ】

装備 ヴェノムの小剣 (攻撃+170)

   エレンのバンダナ (防御+50)

   エレンの衣 (防御+500)

効果 1秒ごとにMP1自動回復 (エレンのバンダナ)

物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)



1秒ごとにMP1回復!?

ということは、【影分身】なら、1体、無制限に、【隠密】も他のスキルと併用しないなら、無制限に発動し続ける事が可能になる。


「凄いね、このバンダナ」


僕の言葉を聞いたエレンは、心なしか、嬉しそうに目を細めた。


「じゃあ、ドラゴンパピー呼んでくる」

「うん。この前と同じように、後ろ向きで、30頭程連れてきて」

「分かった」


エレンが歩き去って十数分後……


―――ズシン……ズシン……


地響きを立てながら、ドラゴンパピーが、前回同様、ゆっくりとこちらへ後退あとずさって来るのが見えた。

僕は、直ちに【影分身】のスキルを発動した。

僕の足元の影が盛り上がり、【影】が出現した。

僕は、【影】にドラゴンパピーへの攻撃を命じると同時に、1頭目の背中に飛び乗り、ヴェノムの小剣を突き立てた。


―――ドスッ!


「ピギェ!?」


…………

……



【影】と“二人がかり”で、ひたすらドラゴンパピー達に小剣を突き立て続けた。

2時間後、僕はBランクの魔石30個と、同数の月の雫を手に入れていた。


最後のドラゴンパピーが光の粒子になって消え去った後、僕は、【影分身】のスキルを停止した。

【影】は、僕の足元の影の中に、溶けるように消え去った。


暗がりの向こうから、エレンが歩み寄ってきた。


「レベル、上がった?」


僕は頷きながら、ステータスウインドウを呼び出した。



―――ピロン♪



Lv.63

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+62)

知恵 1 (+62)

耐久 1 (+62)

魔防 0 (+62)

会心 0 (+62)

回避 0 (+62)

HP 10 (+620)

MP 0 (+62)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【影分身】【隠密】【スリ】

装備 ヴェノムの小剣 (攻撃+170)

   エレンのバンダナ (防御+50)

   エレンの衣 (防御+500)

効果 1秒ごとにMP1自動回復 (エレンのバンダナ)

物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)



僕のステータスを覗き込んでいたエレンが、嬉しそうな声で呟いた。


「レベル上がってる」

「うん。エレンのお陰だよ」

「違う。あなたが頑張ってくれてるから」

「エレンがこうして手伝ってくれてるから、今夜も簡単にレベルを上げれたんだ。だから、やっぱり、エレンのお陰だよ」


僕は、話しながら、インベントリに回収した魔石と月の雫を放り込んだ。

そして、改めて、エレンに向き直った。


「今夜は、この辺にしとこう」

「分かった」


エレンが帰還の為であろう、僕の手を取ろうとした。

僕は、彼女の手をやんわりと制した。


「待って」

「どうしたの?」


エレンが、不思議そうに小首を傾げた。

そんなエレンに、僕は改めて話しかけた。


「ちょっとお願いがあるんだけど」

「何?」

「エレンは、アールヴの王宮地下牢に転移って出来ないかな?」


エレンの目が細くなった。


「地下牢の中は無理。入り口近くになら転移できる。でも、どうしてそんな事を聞くの?」


僕は、インベントリから、【アク・イールのネックレス】を取り出した。

そして、それをエレンに見せながら、アク・イールとの顛末てんまつについて説明した。


「……だから僕は、この獣人の女の子に是非会ってみたいんだ」


僕の話を聞き終えたエレンは、静かにたずねてきた。


「会ってどうするの?」

「会ってから決めようと思う。もし、僕が納得いかないような理由で閉じ込められているのなら、助けてあげたい」

「……分かった。じゃあ、地下牢の入り口近くに転移する」


エレンは、僕の手を取ると、何かを呟いた。

次の瞬間、僕の視界は切り替わった。

転移した先は、床、壁、天井全てに、無機質な灰色の石材が敷き詰められた通路の一角であった。


「どっちが地下牢?」

「あっち」


エレンが指さす方向には、薄暗い通路が伸びており、10m程先で右に曲がっていた。

僕は、インベントリから神樹の雫5本と月の雫5本を取り出し、腰のベルトに差し込んだ。


「エレン、一緒に来てもらえないかな?」


僕の言葉に少し考える素振りを見せた後、エレンが答えた。


「乗り掛かった舟。最後まで付き合う」

「ありがとう」


僕は、エレンと一緒に、地下牢の入り口がある方向へと通路を進んだ。

そして、通路が右に曲がっている場所から、角の向こうに視線を向けてみた。

視線の先、20m程の所で通路は行き止まりになっていた。

そして、その行き止まりには、頑丈そうな金属製の扉が備え付けられていた。

扉の周囲に人影は見当たらない。

僕は、エレンにささやいた。


「あの向こうが、もしかして地下牢かな?」


エレンが、頷くのを確認した僕は、【隠密】のスキルを発動した。

途端に、僕は、自身の姿が周囲に溶け込み、知覚されなくなったのを感じ取れた。


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