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第69話 F級の僕は、ノエミちゃんを守ると心に誓う
第69話 F級の僕は、ノエミちゃんを守ると心に誓う
5月20日 水曜日5
アールヴ神樹王国の首都アールヴを取り巻く長大な城壁には、いくつか出入口が設けられているようであった。
そして、複数の出入り口全てに、馬車や人々の長蛇の列が出来ていた。
アールヴ神樹王国は、エルフの入国を規制している。
恐らく、そのため、入国の審査に時間がかかっているのであろう。
自然と、僕の心も緊張してきた。
僕らのキャラバンも、その列に加わった。
僕は、馬車の小窓から外を眺めながら、同乗しているドルムさんに話しかけた。
「結構、時間かかりそうですね」
「まあ、日没までには、入国できると思いますよ」
ドルムさんの様子は、今までと変わり無さそうであった。
人懐っこそうな笑顔を見ていると、ドルムさんが、あのアク・イールやノエミちゃんのお姉さん達と繋がっているのでは? という考えそのものが、思い過ごしだったような気がしてきた。
アク・イールのネックレスを金庫に仕舞っていたのも、単に高価そうだから、ネコババしたかっただけだったりして……
それはともかく、今更ながら、この長蛇の列のきっかけになっているはずの王女暗殺未遂事件について、僕は
僕は、ドルムさんに聞いてみた。
「エルフの入国規制のきっかけになったのって、王女様の暗殺未遂事件なんですよね?」
「そうですよ」
「それって、どんな事件だったかご存知ですか?」
僕が、マテオさんからその話を聞いた時、同席していたノエミちゃんは、その事件に心当たり無さそうであった。
と言う事は、その事件が、“発生”したのは、少なくとも、ノエミちゃんが、アールヴ神樹王国から連れ出され、拉致された後、と言う事になりそうだ。
「詳細は、よく分らないんですよ」
ドルムさんが、苦笑した。
「詳細不明? ですか?」
「そうなんですよ。ただ、王女様の命を狙った不届き者がいて、それがエルフだったって話です」
仮にも、一国の王女様が殺されそうになった、という割には、随分あやふやな話だ。
僕が不思議そうな顔をしていたからであろう、ドルムさんが説明してくれた。
「ほら、アールヴ神樹王国の王族の皆様は、我等凡俗の前に、
どうやら、アールヴ神樹王国の王族は、徹底した秘密主義を貫いているらしい。
それは、光の巫女と言う特殊な存在を生み出す家系である事と、関係するかもだけど。
「ちなみに、その王女様って、お名前とかお聞きしても良いですか?」
「王女様のお名前は、確か、ノエル=アールヴ様。当代の光の巫女の姉上に当たられる方です」
光の巫女のお姉さん!
と言う事は、もしかすると、ノエミちゃんを陥れようとしている人物?
僕は、さりげなくノエミちゃんの方を見た。
ノエミちゃんは僕等の会話に、大して関心無さそうな風な様子で、馬車の外を眺めている。
僕は、再び視線をドルムさんの方に向けた。
「ドルムさんは、王女様や光の巫女にお会いした事はあるんですか?」
僕の質問を聞いたドルムさんは、可笑しそうに笑った。
「あるわけないじゃないですか。余程高貴な方か、特別な方でなければ、王族の方に直接面会なんか不可能ですよ」
「そうなんですね……」
僕等が会話していると、馬車の外が少し騒がしくなった。
なんだろう?
僕は、馬車の小窓から外を確認してみた。
ちょうど、僕等のキャラバンの一番先頭の馬車の所に、騎乗して武装した人々が、数名集まっているのが見えた。
どうやら、先頭の馬車の御者と何かを話しているようだ。
やがて、その内の一人が、騎乗したまま、僕等の馬車の方に近付いて来た。
その人物は、兜は被っていないものの、高価そうな銀色に輝く鎧を身に付けており、腰には長剣を吊るしていた。
金髪碧眼、男の僕ですら見惚れる程に整った顔をしているその男性は、エルフに見えた。
彼は、僕等の馬車に近付くと、馬を降りた。
「こちらのキャラバンに、エルフが同行していると聞いた。確認させて貰おう」
どうやら、入国手続きの迅速化か何かの為に、
彼の言葉に応じるように、ノエミちゃんが、顔を出した。
ノエミちゃんの顔を見たそのエルフの男性の目が、信じられないモノを見たかのように、大きく見開かれた。
「あ……あなた様は……!」
絶句したエルフの男性は、唐突に、片膝をつき、
もしかして、この男性は、ノエミちゃんの事を知っている?
ドルムさんが、小窓から顔を出し、エルフの男性に、怪訝そうな視線を向けた。
「どうかされましたか?」
「そちらにいらっしゃる方は……」
エルフの男性が、言葉を返し終わる前に、ノエミちゃんが、彼に声を掛けた。
「お
エルフの男性は、一礼して立ち上がると、ドルムさんに話しかけた。
「お前が、このキャラバンの責任者か?」
「はい。貿易商のドルムと申します。ですが……こちらのエルフのお嬢さんに何か?」
「私は、光樹守護騎士団団長イシリオン。案内する故、我等について参れ」
そう話すと、イシリオンと名乗った男性は、馬に
そして、まだ僕等のキャラバンの先頭の馬車の近くにいた他の騎士達に、何か合図を出した。
僕等のキャラバンは、イシリオンと名乗った騎士達に先導される形で、並んでいた列を離れた。
ドルムさんが、ノエミちゃんに声を掛けた。
「ノエミさん、あのイシリオン殿とは、お知合いですか?」
「はい、少々……」
「もしや、あなた様は……いえ、何でも無いです」
ドルムさんは、少し顔を強張らせたまま押し黙ってしまった。
ドルムさんの様子に、僕は
ドルムさんは、ノエミちゃんが、アールヴ神樹王国の関係者だって事、知らなかった?
ドルムさんは、本当は、今回のノエミちゃんを巡る騒動に、どこまで関わっていたのだろう?
やがて、僕等のキャラバンは、誰も並んでいない出入口へと誘導された。
そして、再びイシリオンと名乗った騎士が、僕等の馬車へと近付いて来た。
彼は、僕等の馬車の前で馬を降りると、再び片膝をつき、
「お帰りなさいませ。今、迎えの馬車が参ります」
ノエミちゃんが、その声に応じた。
「ありがとうございます。お姉さまは、お元気ですか?」
「は! 殿下は、あなた様が“ご不幸”に遭われて以来、日夜、悲嘆に暮れてらっしゃいました。こうして無事にお戻りになられた事をお知らせすれば、さぞお喜びになられるかと」
「そう……」
ノエミちゃんの表情が、険しくなった。
イシリオンが、再び騎乗し、その場を離れると、ノエミちゃんが、僕に
「タカシ様、恐らく、私は、ここで降ろされ、宮中へと案内されるはずです。
「もちろんだよ。だって、一緒に神樹を登って、神様に会いに行くんでしょ?」
「ありがとうございます」
ノエミちゃんが、頭を下げてきた。
それにしても、不可解な状況だ。
ノエミちゃんから事前に聞いていた話、ドルムさんの態度、イシリオンと名乗った騎士の態度、そして彼が語った“ノエミちゃんのお姉さんは、ノエミちゃんが攫われて心配していた”と言う話。
組み合わないジグソーパズルのピースを、いきなり突き付けられた感じだ。
誰かが、どこかで真実を捻じ曲げているはずだが、それが誰なのか、どの部分なのか、さっぱり分からない。
自然、僕の表情も硬くなった。
と、アリアが、僕等に囁きかけてきた。
「私も当然一緒よね?」
僕は、一瞬、答えに詰まってしまった。
アリアは、まだレベル26。
今から、確実にややこしい事になる状況に、巻き込んでしまっても良いものだろうか?
僕が色々考えていると、アリアが再び口を開いた。
「ま、誰かさんが、君の安全のためには、街に残った方が~って言っても、ついて行っちゃうんだけど」
僕は、思わずアリアの顔を見た。
彼女の澄ました顔を目にした僕の心の迷いは、一瞬にして消え去った。
ノエミちゃんも、アリアに頭を下げた。
「アリアさんも、宜しくお願いしますね」
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