第47話 F級の僕は、変則3人パーティー?でモンスターを狩る


5月16日 土曜日12



話の成り行き上、奇妙な事になってしまった。

元々は、エレンと二人、2時間だけ、僕のレベル上げをするって話であった。

しかし今、灰褐色の石造りの構造物、どこかのダンジョンの回廊部分に、僕、エレン、そしてノエミちゃんの三人が立っていた。


あれからエレンが、僕のレベルを上げに行こう、と話し、ノエミちゃんが、それに同行すると言い張った。

そして僕は、どうせレベル上げをするなら、神樹の雫が手に入る場所に行きたい、とお願いした。

というわけで、僕等は、3日前に僕がウォーキングヴァインと戦った場所に、向かう事になった。


エレンの転移魔法によって、ここへ到着した瞬間、ノエミちゃんの顔が怪訝そうになった。


「ここは、まさか……?」

「そう、光の巫女もよく知ってる場所」


エレンが、つまらなそうな声で答えた。

僕は、ノエミちゃんに聞いてみた。


「ノエミちゃん、この場所知ってるの?」

「この場所は……」


ノエミちゃんは、壁に手を触れながら、言葉を続けた。


「創世神イシュタル様がおすまいの神樹内部第45層……」

「えっ?」


僕は、マテオさんが、アールヴ神樹王国中心部に存在する、巨大なダンジョンの話をしていた事を思い出した。


「ここって、例の神樹内部の巨大ダンジョンって事? 確か、110層位ある?」

「はい、間違いありません」


ノエミちゃんは、そう答えると、エレンの方に厳しい視線を向けた。


「どういう事ですか? 闇を統べる者が、なぜ神樹内部に転移できるのですか?」

「私は、闇を統べていない」

「しかも、もしや、あなたは、神樹を“昇ろう”と考えていますか? 神の高みに近付こうと?」

「でも、タカシのレベルを上げないと、110層には到達できない」

「ちょっと待った!」


僕は、二人の会話に割り込んだ。

今、エレンが、とんでもない事をさらっと言ったような気がしたんだけど?


エレンが、不思議そうな顔をした。


「何?」

「110層に到達って聞こえた気がしたけど……?」

「そう、だからレベルを上げないと」

「なんで、僕が110層まで登らないといけないの?」

「なんで?」


エレンが、小首を傾げて固まってしまった。

ノエミちゃんが、口を開いた。


「タカシ様……闇を統べる者の意図は、分かりかねますが、私としましても、タカシ様には、是非、110層まで“昇り”、創世神イシュタル様にお会い頂きたいのです」

「ノエミちゃんまで!?」

「申し訳ございません。本来なら、まずはあなた様を神樹の間にお連れして、創世神イシュタル様から直接お言葉を賜るのが、順序としては正しいのですが……」


ノエミちゃんは、再び、エレンの方を向いた。


「あなたは、一体、何を考えているのですか? 勇者様が、110層に到達し、創世神イシュタル様にお会い出来た瞬間、あなたには破滅の未来しか残されていないというのに」

「私に自殺願望は無い。私は破滅しない」

「します! 必ずや闇は滅びを迎えます!」


ノエミちゃんが、そう断言し、エレンは、再び小首を傾げたまま固まってしまった。


なんだろ?

まるで噛み合ってないな、この二人の会話……

でも、二人とも、110層まで僕を連れて行きたいって点だけは、奇妙に一致してる?


僕は、エレンに聞いてみた。


「エレンは、僕を110層に連れて行きたいんだよね?」

「そう」

「なら、転移させてくれたら良いんじゃないかな? 110層に」

「それは無理」

「どうして?」

「80層より上には転移できない」

「80層より上と下で、何か違いがあるの?」

「解放されてないから」

「解放?」

「そう」

「解放って、どういう事?」


エレンが、小首を傾げて固まってしまった。


どうでも良いけど、今日のエレン、小首を傾げて固まってばかりだな。

どうやら、エレンの説明下手は、天文学的レベルに到達してそうだ。


ノエミちゃんが、口を開いた。


「神樹内部の各階層間は、ゲートで接続されています。ゲートは、ゲートキーパーと呼ばれる強力なモンスターにより守られています。80層以下の階層では、既にゲートキーパー達が倒されています。81層は、現在、冒険者達が攻略に当たっている最中で、まだ誰もゲートキーパーを倒せていないはずです。その辺りが関係しているのかもしれません。」


なるほど……

思い返せば、マテオさんが、80層に到達している冒険者達もいるって言ってたな……

って、あれ?

ここが、神樹内部の巨大ダンジョンって事は?


「確認なんだけど、ノエミちゃん、この外って、アールヴ神樹王国って事じゃないの?」

「そういう事になりますね」

「え~と、じゃあ、このままここから出ちゃえば、一足先に、アールヴ神樹王国に到着ってなるんじゃ?」

「そうなんですけど……」


ノエミちゃんが、複雑な表情を浮かべた。

僕も、口にしてから気が付いた。


「そっか、そういう訳にもいかないよね……」


明日から、ドルムさんの護衛として、黒の森経由でアールヴ神樹王国を目指す事になっていた。

僕等の都合で、急にその依頼を断れば、ドルムさん達に多大な迷惑をかけてしまう。

なんだか妙な事になってしまった。

今夜、僕は、目的地であるはずのアールヴ神樹王国中央の巨大ダンジョンでレベル上げを行った後、またルーメルの街に戻り、明朝、馬車でこの地を目指す……


仕方ない。


気を取り直した僕は、改めてエレンに話しかけた。


「とりあえず、ウォーキングヴァインと戦うよ」

「じゃあ、ウォーキングヴァインを集める」

「集める?」

「そう」


エレンは、何かを歌うように口ずさみ始めた。

その旋律を聞いたノエミちゃんの顔色がサッと変わった。


「タカシ様、お気を付けください! 闇を統べる者が、眷属を招集しています! 私が援護します!」


そして、ノエミちゃんも同じく、美しい歌声で、何かの詠唱を開始した。

僕は、慌てて、戦闘準備を整えた。

インベントリを呼び出してエレンの衣とセンチピードの牙を取り出し、装備した。

やがて……


―――キシャアアアア!


あのウォーキングヴァインの雄叫びが聞こえて来た。

しかも、複数。

あたりに、モンスターの気配が満ちて来た。


「タカシ様に精霊の加護あれ!」


ノエミちゃんの言葉と同時に、僕は、自身のステータスが飛躍的に上昇していくのを感じ取れた。

身体の奥底から沸き上がってくる、圧倒的な全能感!


暗がりの向こうから、おびただしい数のウォーキングヴァインの群れが、姿を現した。

普段の僕なら、完全に足がすくんでしまうはずのその群れの中に、僕は、凄まじい高揚感に駆り立てられるようにして、突撃した。



―――シュパッ!


前回、あれだけ倒すのに苦労したウォーキングヴァインは、僕がセンチピードの牙を一振りするだけで、光の粒子になって消滅していった。


―――ピロン♪



ウォーキングヴァインを倒しました。

経験値3,731,849,700を獲得しました。

Cランクの魔石が1個ドロップしました。

神樹の雫が、1個ドロップしました。



―――シュシュッ!


周囲から、無数の蔦が、鞭のように襲い掛かってきた。

僕は、その全てを苦も無くかわすと、ウォーキングヴァイン達を次々と切り裂いていった。


―――シュパパパパッ!


―――ピロン♪

…………

………

……



自分が自分で無いような高揚感の中、僕は、ひたすら、モンスターを切り捨てて行った。

どれ位時間が経過したのであろうか?

気が付くと、あれ程大量にいたはずのウォーキングヴァインの群れは、消滅していた。

そして、あたり一面に、無数の魔石と神樹の雫が散乱していた。

急激に疲労感が襲ってきた。

僕は、思わず、膝をついてしまった。


「タカシ様!」


ノエミちゃんが、駆け寄り、僕の身体を支えてくれた。

ノエミちゃんは、僕に気遣うような視線を向けた後、エレンを睨みつけた。


「闇を統べる者よ! やはり、その本性を現しましたね? ですが、私がいる限り、タカシ様には傷一つ負わせる事は出来ませんよ」

「言ってる意味が分からない。光の巫女こそ、そんな強力な精霊術を使うから、タカシが急激に消耗した」

「元はと言えば、あなたが大量の眷属をここへ招集したからです」

「ウォーキングヴァインのレベルは45。大量に倒さないと、タカシのレベルは上がらない」

「二人とも、いいよ」


僕は、フラフラしながらなんとか立ち上がった。

先程、嵐のようにポップアップが立ち上がり続けた。

ほとんどは、モンスターを倒した、というメッセージだったが、レベルが上がった、というメッセージも入っていたような?


「ステータス……」



―――ピロン♪



Lv.57

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+56)

知恵 1 (+56)

耐久 1 (+56)

魔防 0 (+56)

会心 0 (+56)

回避 0 (+56)

HP 10 (+560)

MP 0 (+56)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】

装備 センチピードの牙 (攻撃+150)

   エレンの衣 (防御+500)

効果 物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)



レベルが、1上がった……


ふと気付くと、エレンとノエミちゃんも、僕のステータスを並んで凝視していた。

ノエミちゃんは、僕の視線に気付くと、慌てて目をそらした。


「す、すみません、つい……」

「別に構わないけど」

「お詫びに、あの……ドロップ品、全て回収します」


ノエミちゃんは、再び歌うように何かを詠唱した。

水色に輝く何かが集まってきた。

そして……


―――ゴォォォォ……


一陣の旋風が吹き抜けた。

風が収まると、僕の目の前には、うず高く積み上げられた魔石と神樹の雫の山が築かれていた。

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