第48話 F級の僕は、突如ラブコメに巻き込まれる


5月16日 土曜日13



僕は、インベントリを呼び出し、ノエミちゃんが集めてくれた魔石と神樹の雫の山を、ポイポイ放り込んでいった。

結構な時間をかけて全て放り込んだ後、僕は、インベントリに表示された一覧の内、魔石とポーションの項目にそれぞれ指で触れてみた。

結果、Cクラスの魔石が500個、神樹の雫が、500本収納されている事が、判明した。


と言う事は、僕は、訳が分からない内に、500匹のウォーキングヴァインを殲滅していたって事になる。

多分、エレンが、何かの力でモンスターを呼び寄せて、ノエミちゃんが、精霊術とやらで、僕のステータスを一時的に上げてくれて……ってところだろうか?

戦闘中の記憶が所々飛んでるのは、ノエミちゃんが僕に掛けてくれた、何かの術の影響かもしれないけれど。

とにかく、尋常では無い位疲れた……


僕は、エレンに話しかけた。


「今日はお開きにしよう。疲れちゃったし」


僕の消耗ぶりを見たエレンが、ノエミちゃんに非難めいた視線を向けた。


「ほら、後先考えずに力を使うから、タカシが疲れてしまった。もっと彼をいたわわってあげないと」

「あなたにだけは、言われたくないです!」

「ちょっと待った!」


このままでは、また不毛な口喧嘩が開始されてしまう。

僕は、二人の会話に口を挟んだ。


「とりあえず、続きは明日の晩って事で」


エレンは、頷き、ノエミちゃんは、不機嫌そうに押し黙ってしまった。

僕は、改めて、エレンにお願いした。


「エレン、僕等を『暴れる巨人亭』の部屋まで送ってくれないかな?」

「分かった」


エレンが僕の右手を取り、ノエミちゃんが、僕の左腕にしがみついた。

エレンが何かを呟くと、次の瞬間、僕等は、『暴れる巨人亭』2階の僕の客室に戻って来ていた。


「それじゃあ、また明日」


エレンは、僕等を部屋まで送った直後、いつも通り、どこかへと転移して去って行った。


戻って来た部屋の中は、特に変化は見られなかった。

僕は、そっと扉を開けて、廊下の方を見てみた。

あかりが落とされた宿の中は、静かで、特に何か騒ぎになっている感じは無かった。

多分、マテオさんやアリア、他の宿泊客も寝静まった後なのであろう。

どうやら、今夜の一連の騒ぎに、誰も気付いて無さそうだ。


僕は、ノエミちゃんに小声で話しかけた。


「明日も早いしさ。僕等も寝よう」

「はい。タカシ様もお疲れさまでした」


僕は、着替えようとして……

部屋の椅子にまだ、ちょこんと腰かけてるノエミちゃんに、もう一度話しかけた。


「え~と……もう寝るからさ。ノエミちゃんも、自分の部屋に戻った方が良いよ」

「あ、私の事はお構いなく。闇を統べる者が、再び戻って来ないとも限らないですし」

「多分、今晩は戻って来ないと思うよ?」

「それは分かりません。ですが、ご安心下さい。私が、必ずタカシ様を守り抜いて見せますから」


どうやら、この部屋に居座る気だ。

困ったな。

ノエミちゃん、なぜか、エレンが絡む話には、依怙地えこじになってるっぽいしな……


「あのさ、着替えるから、恥ずかしいんで、あっち向いといて貰えれば、ありがたいんだけど」

「あ、申し訳ございません」


ノエミちゃんが、あたふたと背中を向けた。

僕は、着替えると、もう一度、ノエミちゃんに話しかけてみた。


「ノエミちゃん、そこに座ってられると、落ち着かないと言うか……」

「あ、そうでしたね」


ノエミちゃんは、立ち上がった。


もしかして、自分の部屋に戻る気になってくれたのかな?


しかし、ノエミちゃんは、こちらに移動してきて、ベッドの脇に腰を下ろした。

僕にとっては、状況がかえって悪化した。

僕は、ダメもとで、やんわり気持ちを伝えてみた。


「凄く疲れてるんだよね。だから、もう寝たいというか……」

「そうでしたね。申し訳ございません。そのお疲れ、私の力でいやさせて下さい」


ノエミちゃんが、歌うように何かを口ずさみだした。

その旋律は、とても心地よく、僕の意識は遠のいて……

…………

………

……



5月17日 日曜日1



―――コンコン


……ん?

誰かが扉を叩いている……


「タカシ、開けるよ?」


―――ガチャ


まだ眠いんだけど……


誰かが、ベッド脇に近付いてきて……

いきなり、布団をはぎ取られた!


「ちょっと! タカシ!? これは、どういう事!?」

「ん? アリア?」


僕は、寝ぼけまなこをこすりながら身体を起こした。

窓から、明るい光が射し込んできている。

いつの間にか、朝になっていたようだ。

と、僕のすぐ隣の誰かも身を起こし……えっ?


「ノエミちゃん!?」

「あ、タカシ様、おはようございます。ご気分は、いかがですか?」

「おかげさまで、すっかり元気に……って、ちが~~う!」

「どうした!?」


僕の叫び声が大き過ぎたのであろう。

階下からマテオさんの大声が聞こえてきた。

そして……


―――ドドドドド


階段を駆け上がってきたマテオさんが、開けっ放しの扉の方から部屋に飛び込んできた。


「何かあったのか!?」


マテオさんは、ベッドの上にいる僕とノエミちゃん、そしてそれを見下みおろすような姿勢で、仁王立ちしているアリアに、順に視線を移した。

そして、すぐに何かを悟ったような顔になった。


「タカシ、ほどほどにしとけよ?」


そう言い残すと、その場から、静かに立ち去って行った。


来てくれたは良いけど、何の助けにもならなかった……


気を取り直した僕は、現状把握を試みた。

状況から類推するに、ノエミちゃんは、一晩中、僕に添い寝していた!?

一応、ノエミちゃんに聞いてみた。


「ノエミちゃん、どうしてここに?」

「タカシ様が昨晩、あの後、お疲れになられたご様子でしたので……」


そう話すと、なぜかノエミちゃんは、真っ赤になって俯いてしまった。

と、黙って僕等の様子を観察していたアリアが口を開いた。


「……昨晩? あの後? お疲れ?」

「えつ? いや……」

「何か、二人でお疲れになるような事でもしたの?」


アリアの目が氷のように冷たい。

そして、ノエミちゃんは、ただ真っ赤になってうつむいている。

僕は、大混乱に陥ってしまった。


なにこれ?

愛人と逢引きしてたところに、本妻に乗り込まれて修羅場になってる、みたいなシチュエーションは!?

いや、落ち着け、僕。

アリアは、本妻じゃないし、ノエミちゃんも愛人じゃない。

そもそも、僕と彼女達との間に、そんな関係性はまだ発生もしていない。


「いや、僕もよく覚えてないんだけど。多分、昨晩ノエミちゃんと喋っている内に、寝落ちしてしまったと思うんだよね」


嘘は言ってない。


「ノエミちゃんからも何か言ってよ」


ノエミちゃんは、僕の言葉にハッとしたように顔を上げた。


「は、はい。その通りです。いつの間にかタカシ様が休んでしまわれたので、ベッドにお運びして、つい……」


突然、アリアが、ワっと泣き崩れた。


「アリア!?」

「酷い……私、タカシの事信じてたのに……これじゃあ、カイスと同じ……」


いや、さすがにあんなのと一緒にされたら嫌だ。


「アリア、だから、本当に僕は何もしてないし、気付いたら朝になってただけだし」


アリアをなだめるのに、その後、30分以上かかった。



出立の準備を終え、階下に下りて来た僕等に、マテオさんが、生暖かい視線を向けて来た。


「よっ、色男。まあ、刺されない程度にしとけよ?」


マテオさんの言葉に、アリアの顔がまた少し引きつった。


「勘弁してくださいよ。そうだ、アリア、早く朝ご飯食べないと、遅刻しちゃうよ?」



朝ご飯を終えた僕等は、マテオさんや他の宿泊客達に見送られ、街の入り口、昨日、ドルムさんに指定されていた、集合場所へと急いだ。

集合場所には、3~4台程の荷馬車が繋がれていた。

周りで、複数の人物が忙しそうに立ち働いているのが見えた。

その中の一人、ドルムさんが、近付いて来る僕等に気付いて、手を振ってきた。


「おはようございます、今日から宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願いします。それで、彼女が、昨日お話していた、エルフの女の子です」


僕は、ドルムさんに、ノエミちゃんを紹介した。

ドルムさんは、ノエミちゃんの姿を見ると、一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐにいつものにこやかな顔に戻って、話しかけてきた。


「これはこれは、可愛らしいお嬢さんですな。私は、ドルムと申します。宜しくお願いしますね」

「ノエミと申します。お世話になります」


ノエミちゃんが、ぺこりと頭を下げた。

と、背後から何者かがすっと僕の脇を通り過ぎた。

その人物は、ノエミちゃんの前で片膝を付くと、ノエミちゃんの手を取った。


「美しいお嬢様。あなたにご挨拶させて頂く無礼をお許し下さい」


そして、やおらノエミちゃんの手の甲にキスをしようとして、その手を振り払われてしまった。

すっかり怯えた感じになってしまったノエミちゃんが、僕の背中に逃げ込んできた。


「あの……どなたですか?」


問いかけられたイケメンは、立ち上がると、手櫛で金髪をかき上げた。


「私は、この街最強の冒険者、カイスです。この長旅、私が貴女あなたの安全を保証いたしましょう」


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