第24話 F級の僕は、彼女のローブを借り受ける


5月13日 水曜日8



僕がその場にへたり込んでいると、謎の女性が近付いて来た。


「レベル上がった?」

「上がってないけど……」

「そう。じゃあ、次行こう」

「次って?」

「次のモンスター」

「なんで?」

「レベル上げないと」

「だから、なんで?」


彼女は、また首をかしげて固まってしまった。


とりあえず、ちょっと休憩したい。

身体も痛いし。

というより、さっきの戦いで、絶対に、結構HP削れてるはず……


僕は、自分のステータスを確認してみる事にした。



―――ピロン♪



Lv.41

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+40)

知恵 1 (+40)

耐久 1 (+40)

魔防 0 (+40)

会心 0 (+40)

回避 0 (+40)

HP 10 (+85/400)

MP 0 (+40)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】

装備 魔族の小剣 (攻撃+100)

   皮の鎧 (防御+15)



どうでも良いけど、彼女がくれた剣、攻撃力高いな。

道理で、鉄の小剣より遥かに切れ味良かったわけだ。

まあ、名前からして、魔族が使う武器っぽいけど。

それと、HP表示が、10 + 85 = 95になってる……

さっき食らったのは、確か一撃のみだったはず。

これ、2回食らったら、死ぬって事なんじゃ……


僕は、彼女に話しかけた。


「ねえ、あのモンスター、今の僕には荷が重いと思うんだ」

「そんな事は無い。ちゃんと倒せた」

「倒せたって……今、僕残りHP、95しかないよ? さっきの蔓の攻撃一発で、HP、315削られた計算だよ?」

「神樹の雫を使えば良い」

「神樹の雫?」


そう言えば、さっきのドロップ品にそんな名前があったような?

僕は、のろのろと起き上がると、巨大ツタ植物のモンスター、ウォーキングヴァインが消滅した場所に近付いた。そして、Cランクの魔石と神樹の雫を拾い上げた。

神樹の雫は、ポーションのように見えた。

透明なアンプルのような容器の中に、緑色のとろみのある液体が入っている。

僕は、神樹の雫を謎の女性に見せながら、たずねてみた。


「これって、どういう効果があるの?」

「飲むとHP全快する」

「えっ? ほんと?」


内心、僕は驚嘆した。

ちなみに、地球には、HPを飲むだけで全快させる薬品は存在しない。

ダンジョン内部での傷の治療は、もっぱら、ヒーラー頼りである。

この世界の人間では無い僕も、コレ飲んだらちゃんとHP全快するのかな?


とりあえず、僕は使ってみる事にした。

アンプルの首の部分をポッキリ折って、グビグビ飲んでみた。

結構口当たりが良くて、美味しい。

そのまま全部飲み切るや否や、僕の傷は、たちどころに塞がった。

そして、それと共に、身体の痛みも消え去った。

ちなみに、容器の方は、僕が中の液体を飲み切った時点で、光の粒子となって消滅した。


僕は、自身のステータスを確認してみた。


「……本当だ。HP満タンになってる……」

「じゃあ、次」

「ちょっと、待って!」


僕は、恐らく次のモンスターを探しに行こうとしていたらしい、彼女を呼び止めた。


「何?」

「あのさ、防具、何か持ってない?」

「防具?」

「そ、防具。高い防御力の防具があれば、僕も頑張りやすいというか……」


話しながら、少し苦笑した。

いつの間にか、僕は、防御さえ整うなら、もう一度、あのウォーキングヴァインと戦っても良いかな、という気分になっていたからだ。

攻撃は、この魔族の小剣とスキル【剣術】があれば、なんとかなりそうだ。

そして、なによりも、神樹の雫が魅力的だ。

もし、大量に確保して、地球のダンジョンの中でも使用できるなら、これほど心強い話は無い。


「防具……」


少し考え込んでいたその謎の女性は、やおら、自分のローブを脱ぎ始めた。


「えっ……?」


フードを脱ぐと、肩口にかかる位の漆黒の髪が、零れ出てきた。

そのまま全てを脱ぎ去ると、その少女は、今まで羽織っていたローブを僕に差し出した。


「これ、貸してあげる」


僕は、思わず、彼女の姿をまじまじと見つめてしまった。

見た目は、思った以上に若かった。

10代後半に見える彼女の瞳は、右目が赤く、左目は黄緑色をしている。

所謂、オッドアイというやつであろうか?

肌は雪のように白く、素材不明な不思議な服を着ている。

そして、彼女の頭部には、一対の角が見て取れた。

やはり、彼女は魔族なのだろうか?


そんな事を考えていると、僕が、差し出されたローブを受け取らない事を不審に思ったのか、彼女が怪訝そうな表情になった。


「使わないの?」

「あ、ありがとう」


僕は、慌てて受け取った。

羽織ってみると、なぜか彼女よりも一回り大きいはずの僕の身体に、ぴったりフィットした。

僕は、改めてステータスを確認してみた。



―――ピロン♪



Lv.41

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+40)

知恵 1 (+40)

耐久 1 (+40)

魔防 0 (+40)

会心 0 (+40)

回避 0 (+40)

HP 10 (+400)

MP 0 (+40)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】

装備 魔族の小剣 (攻撃+100)

   エレンの衣 (防御+500)

効果 物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)



このローブ、どうやら、エレンの衣という名前らしい。

防御力の高さもさる事ながら、特殊な効果も付与されているようだ。

僕は、彼女に話しかけた。


「凄いね、このローブ」

「別に凄くない。こんなの、いつでも作れる」

「自分で作ったの?」

「そう」

「どうやったの? もしかして、魔法か何かで作り出したとか?」


彼女が、魔法でポン! とこのローブを手品の如く作り出せる、と言っても、僕は今更驚かない自信があった。

しかし、彼女は首を振った。


「違う。自分で縫った」

「自分で? お裁縫したって事?」

「そう」

「へ~、君凄いね、手編みでこんなの作っちゃうなんて」


僕は、素直に感心してしまった。

どんな方法で裁縫すれば、こんな魔法効果が付与されたローブを、作り出す事が出来るのだろうか?


一方、彼女は、一瞬、キョトンとした表情をした後、少し微笑んだ。


「気に入った?」

「うん。軽くて動きやすいし、これならウォーキングヴァインともガンガン戦えそうだよ」

「じゃあ、行こう」


それから、僕は、10匹のウォーキングヴァインを連続して倒す事に成功した。

初めのうちこそ、時々蔓の攻撃を食らいはしたが、エレンの衣のおかげで、そのダメージは、微々たるものに軽減出来た。

また、ウォーキングヴァインの攻撃も、パターンが決まっており、それを見切ってしまえば、一撃も食らうことなく、一方的に倒す事が出来るようになった。


10匹目のウォーキングヴァインが、光の粒子となって消滅した時、彼女が、声を掛けてきた。


「レベル上がった?」


僕は、黙って、ステータスを呼び出した。



―――ピロン♪



Lv.43

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+42)

知恵 1 (+42)

耐久 1 (+42)

魔防 0 (+42)

会心 0 (+42)

回避 0 (+42)

HP 10 (+378/420)

MP 0 (+42)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】

装備 魔族の小剣 (攻撃+100)

   エレンの衣 (防御+500)

効果 物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)



彼女は、僕のステータスを凝視し、レベルが2上がったのを確認した後、微笑んだ。


「じゃあ、もっと上の層に行こう」

「ちょ、ちょっと待って!」


そう話して僕の手を取ろうとした彼女に、僕は慌てて話しかけた。


「何?」

「もうそろそろ眠くなってきたからさ。今日はここまでにしとかない?」

「眠い……?」

「うん。君は、眠くないの?」

「眠くない。だけど……」


彼女は、何かを考えているようだった。


「ヒューマンは、寝ないとダメ?」

「うん、そうだよ」

「異世界人でも?」

「!?」


僕は、心臓が飛び出そうになる位、驚いた。

まさか、自分がこの世界の人間では無い事がバレている?


まあ、考えてみれば、【異世界転移】なんてスキルが記載されているステータスを、彼女には、何度も見られてしまっている。

今更、隠しても仕方ないか……


色々考えた僕は、あえてこの話題を無視する事にした。


「とにかく、そろそろ寝たいんだ。とりあえず、このダンジョンの外の、安全な場所に転移させてもらえないかな?」


彼女は、じっと考え込んだ末に、僕の手を取った。

次の瞬間、僕は、彼女と一緒に、どこかの森の中に転移していた。


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