第23話 F級の僕は、いきなりモンスターと戦わされる


5月13日 水曜日7



「ちょっと2階に行って、自分の荷物、確認してきます」


僕は、皆にそう告げた後、2階の自室へと階段を上って行った。

そして、二日ぶりに自分の荷物と対面するため、扉を開けて……

僕は、固まってしまった。


「えっ?」


部屋の中に、あの謎の女性がいた。

彼女は、今日も頭からすっぽり全身を覆う黒いフード付きのローブをまとっていた。

そして、僕のベッドに手持無沙汰な感じで座っていた。

彼女は、僕に気付くと声を掛けてきた。


「おかえり」

「ただいま……って、ちが~~う!」


僕は、思わず大きな声を出してしまった。


「どうしたの?」


階段下から、アリアが、声を掛けてきた。

僕は、慌てて回れ右をしようとして、謎の女性に腕を掴まれた。


「待って」

「待ってって、君は誰? なんで、ここにいるの?」


僕は、必死になって彼女を振りほどこうとした。

しかし、彼女は小柄な見た目とはかけ離れた力で、僕をそのまま部屋の中へと引きずり込んだ。


―――バタン!


なぜか、扉が勝手に閉まった。

彼女は、僕の質問には答えないまま、逆に聞いてきた。


「ファイアーアントは倒せた?」

「へっ? あ、それは倒せたけど……」

「ステータス、見せて」

「へっ?」


―――ダダダ……


その時、複数の足音が、階段を駆け上がってくる音が響いてきた。

そして、扉がガタガタ激しく揺さぶられた。


「タカシ、どうしたの!? 開けて!」


アリアが、扉の向こうから呼びかけてきた。

どうやら、アリア達が、2階の様子がおかしいのに気付いて、駆け付けて来てくれたらしい。

しかし、カギを掛けた覚えの無い扉は、なぜか、外から開けられなくなっているようであった。


「ちょっと、なんで開かないのよ? タカシ! 何があったの!?」

「アリア、待ってろ。ちょっと扉壊せそうなの持ってくるから」


―――ドドドドド……


多分、マテオさんだろう。

誰かが、物凄い勢いで、階下に駆け下りて行く音が響いてきた。


謎の女性は、ちらっと扉に目を向けたが、すぐにまた僕の方に向き直った。


「ステータス、見せて」

「いや、この間、見せたでしょ?」

「ファイアーアントを倒してどうなったか、確認したい」


僕は、緊張した。

もしや、僕の獲得出来る経験値が、異常なのも気付かれてる!?


―――ダダダ……


再び、誰かが駆け上がってくる音が響いてきた。

そして扉の外で、マテオさんが、叫んだ。


「どりゃあっ!」


―――ガキィン!


扉の外で何か金属音のようなものが響いた。


「だめだ。こりゃ、なんか魔法結界みたいなの張られてるっぽいな」

「魔法結界? まさか、あいつがまたやって来た!?」

「アリア、冒険者ギルドに連絡だ!」

「分かった。すぐ行ってくる」


扉の外で、アリアとマテオさんが、上ずった声で会話しているのが聞こえてきた。


「仕方ない」


謎の女性は、僕の腕を握ったまま呟いた。


次の瞬間、僕は、夕闇迫る見知らぬ森の中にいた。


「えっ?」


慌てる僕に、謎の女性が声を掛けた。


「静かに話せる場所に移動した」


移動って……恐らく、またどこかに転移させられた!?


「えっと……こういうの、困るんだけど。荷物とかも部屋に置いたままだし」

「大丈夫。そう言うと思って、今回は荷物も持ってきた」


見ると、僕の傍らに、この前この世界に置いてきた荷物が、一緒に転移してきていた。

ちなみに、今回、僕が持ってきた荷物――10万ゴールド分のコイン袋、金切鋸、懐中電灯他――は、背中のリュックの中だ。


今回は、至れり尽くせり……じゃない!


「ねえ、君は、一体何者? 魔族、とか?」


フードの隙間から僅かに見える謎の女性の目が細くなった。


「魔族を知っているの?」

「知っている、と言うか、今日聞いたんだけど。凄い魔法使えるって」

「そう」


彼女は、そっけない返事を返した後、またしても、同じ事を要求してきた。


「ステータス、見せて」

「……」


この人は、そもそも、なぜそこまで僕のステータスに拘るのだろうか?

根負けした僕は、ダメ元で、彼女にたずねてみた。


「ステータス見せるからさ。せめて、なんで僕のステータス見たいかだけでも教えてよ」

「確認したいから」

「それ、前にも言ってたけどさ。全然答えになってないからね?」


すると、彼女は、首を傾げてそのまま黙り込んでしまった。


う~ん……

もしや、この人、単純に対人コミュニケーション能力が、ものすご~く低い、所謂いわゆるコミュ障ってやつなのでは?

仕方ない、このまま押し問答していても、らちが明きそうにない。


僕は、諦めて、ステータスを呼び出した。


―――ピロン♪



Lv.41

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+40)

知恵 1 (+40)

耐久 1 (+40)

魔防 0 (+40)

会心 0 (+40)

回避 0 (+40)

HP 10 (+400)

MP 0 (+40)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】

装備 鉄の小剣 (攻撃+10)

   皮の鎧 (防御+15)



謎の女性は、食い入るように僕のステータスを見つめたまま、呟いた。


「まだ足りない」

「足りない? 何が?」

「もっとレベルを上げないと」

「なんで?」


謎の女性は、それには答えず、僕の手を取った。

次の瞬間、周りの風景が、切り替わった。

先程までの森の中と明らかに異なる、灰褐色の石造りの構造物の中。


「えっ? えっ?」


また転移させられた!?


僕に戸惑ういとまも与えないかの如く、耳をつんざくような奇声が、辺りに響き渡った。


―――キシャアアアア!


同時に、僕は、咄嗟に殺気を感じて飛びのいた。

先程まで僕がいた場所に、鞭のような物が振り下ろされ、床が破壊されるのが見えた。


「な、な……」


動揺する僕の視線の先に、巨大な動くツタ植物のようなモンスターが姿を現した。

少し離れた場所に立つ、謎の女性が、僕に声を掛けてきた。


「さあ、戦って」

「戦ってって、アレと?」

「そう」

「そうって、ちょっと待……」


僕が話し終える前に、再び、巨大なツタ植物が、体中から伸びる蔓を、鞭のようにしならせて攻撃してきた。

慌てて僕は、鉄の小剣を抜き放ち、それを迎撃した。


―――ガキン!


鈍い音がして、僕は、その蔓を打ち払う事には成功した。

しかし、鉄の小剣は、その衝撃で、刃が欠けてしまった。

再び、巨大なツタ植物の蔓が、今度は、複数、僕に襲い掛かってきた。


―――ガキ、キン!


限界を超えたのであろう。

僕の手の中で、鉄の小剣は完全に砕け散ってしまった。


このモンスター、レベル分からないけれど、絶対に、僕のレベルや装備で戦っちゃいけないやつだ!


武器を失った僕に、モンスターは容赦なく、攻撃を掛けてきた。

再び、複数の蔓が、僕に迫る。

必死にそれを躱していくが、ついにその一つが、僕を捕らえた。


「グハッ……」


鞭のような蔓に、したたかに叩きのめされた僕は、全身の骨が軋む感覚で、意識が遠くなりかけた。

と、何かが飛んできて、僕の傍の床に突き刺さった。

それは、赤と黒でデザインされた、なんだか禍々しい感じの小剣であった。

謎の女性の声が聞こえた。


「それを使って」


その言葉が終わる前に、再び、鞭のような蔓が複数、僕に襲い掛かってきた。

僕は、無我夢中で、床に刺さった小剣を引き抜くと、それを振り回した。


―――シュパッ!


小気味いい音と共に、殆ど抵抗を感じる事無く、蔓を切り払うことが出来た。

その後も襲い掛かってくる蔓を全て切り払った僕は、そのまま本体の巨大ツタ植物に肉薄した。

そして、蔓をほぼ全て失った本体に、手の中の小剣を、思い切り突き立てた。


―――ギェェェ!


巨大なツタ植物のモンスターは、断末魔の悲鳴を上げながら、次第に光の粒子へと姿を変えていく。



―――ピロン♪



ウォーキングヴァインを倒しました。

経験値3,731,849,700を獲得しました。

Cランクの魔石が1個ドロップしました。

神樹のしずくが、1個ドロップしました。



「た、倒せた……のかな?」


僕は、その場にへたり込んでしまった。


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