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第15話 F級の僕は、心優しいC級ヒーラーの女性と出会う
第15話 F級の僕は、心優しいC級ヒーラーの女性と出会う
N市笹山第五ダンジョンは、隣県との境に位置する笹山中腹にあるD級のダンジョンだ。
僕は、佐藤達の荷物持ちとして、今まで5回程、このダンジョンに潜った事があった。
内部は、土壁の通路が、網目のように張り巡らされている構造になっていた。
そして、そこは、5mを超えるワニともトカゲともつかないD級モンスター、アースリザードが徘徊する地でもあった。
佐藤は、火属性の魔法を得意とするC級の魔法アタッカー。
土属性のアースリザードとは相性が良いので、好んで潜っているようだ。
佐藤は、僕に必ず午後2時までに来るよう“命令”すると、僕の部屋を出て行った。
仕方なく、僕は、まず大学に寄って、午後からの講義の欠席届けを提出した後、スクーターに跨り、現地に向かった。
僕が到着した時、N市笹山第五ダンジョンの前には、10名程の人達が既に集合していた。
殆どのメンバーの顔は見知っていたが、今日は、1人新顔がいた。
背中にかかる位の栗色の髪をストレートに下ろした、優しそうな顔立ちの女性。
恐らくなんらかの魔法が付与されているのであろう茶色いローブを羽織っている所を見ると、魔法系だろうか?
僕が、彼女に小さく頭を下げると、彼女の方から挨拶してきた。
「初めまして。私、
「あ、どうも。僕は中村隆です。その……F級です。今日は荷物持ちさせてもらいますので、宜しくお願いします」
僕は、彼女の顔をチラッと見た。
同じF級同士を除いて、初対面で、僕の自己紹介を聞いた人のほぼ全員の顔に、共通して浮かぶ表情がある。
それは、『なんだ、F級か』、という表情。
そこから読み取れるのは、時に憐れみだったり、嘲りだったり、色々だったけれど、総じて良い感情だった試しがない。
ところが、関谷さんは、僕に右手を差し出してきた。
「へっ?」
予期せぬ反応に驚いた僕は、一瞬固まってしまった。
「今日、私達の荷物を運んでくださるんでしょ? こちらこそ、宜しくお願いしますね」
笑顔で微笑む彼女に釣られて、思わず僕も手を差し出し、握手しようとしたところで、佐藤の声が聞こえてきた。
「ああ、ごめんね、詩織ちゃん。そいつは
僕は、差し出しかけた手を引っ込めた。
関谷さんは、ちょっと苦笑した後、僕に手を振って、佐藤達の方に歩み去って行った。
僕を除いたメンバー達が、今日のダンジョン攻略の打ち合わせを済ませた後、佐藤が、僕の方に近付いて来た。
「おい、お前、あの鎧はどうした?」
今の僕の格好は、長袖Tシャツに、下はジーンズという、いつものスタイル。
一応、皮の鎧と鉄の小剣は、リュックに入れてはある。
「大学寄ったりしてたから」
まさか、皮の鎧着込んで、鉄の小剣腰にぶら下げて、大学の学務課を訪れるわけにはいかない。
僕の“言い訳”を聞いた佐藤は、舌打ちした。
「ったくよ、ダンジョン入る前には着替えとけよ」
佐藤の魂胆は、明らかだった。
戦闘力皆無のF級の荷物持ちが、貧相な武器や鎧を装備しているのを見て、皆で
まあ、笑われるのには慣れてしまった。
それに、いつ何が起こるか分からないのも事実。
僕は、皮の鎧と鉄の小剣を装備すると、皆の荷物を一まとめにしたリュックを背負った。
僕の格好を目にした佐藤達は、露骨にウケていた。
中には、腹を抱えて洗っている奴もいた。
「ボウケンシャ、乙」
「F級が武器持って何するんだよ?」
「おい、ナカ豚、頼むから、ダンジョン潜る前に笑い死にだけはさせるなよ」
唯一、関谷さんだけは、僕に気の毒そうな視線を向けていた。
「よし、いくぞ!」
ひとしきり僕を馬鹿にして楽しんだ後、佐藤の一言で、メンバー達は、N市笹山第五ダンジョンへと次々に足を踏み入れていった。
僕も最後尾から彼等の後を追う。
ダンジョン内部は、前回来た時と何も変わりは無さそうであった。
薄暗い土壁のトンネルが無数に枝分かれしており、時折、アースリザードが出現する。
そいつらを、佐藤達が危なげなく倒していく。
ダンジョン探索中、佐藤は、関谷さんと並んで歩いており、何かと理由をつけては話しかけていた。
聞くとは無しに聞こえるその会話から察するに、佐藤が関谷さんを、今日初めて一緒にダンジョンを攻略しよう、と誘ったようだ。
そして、どうやら佐藤が、関谷さんに気があるらしい事も感じ取れた。
それにしても、ダンジョンの中で女性を口説くのって、どうなんだろう?
僕は、僕に対する時とは正反対な、卑屈な笑みを浮かべながら話す佐藤に、冷めた視線を向けていた。
やがて、2時間程探索を続けた所で、僕等は、これまで足を踏み入れた事の無い場所に辿り着いていた。
天井の高い大きな広間のような場所。
メンバーの一人が、佐藤に声を掛けた。
「どうするよ? この先は、まだ行った事ないけど」
「まだ時間あるよな? もうちょっと先、見に行ってみるか」
「そうだな」
今日は、アースリザードとの遭遇率が低く、まだ魔石も8個しか手に入っていなかった。
佐藤達は、さらに奥に進むことにしたようであった。
天井の高い大きな広間の丁度真ん中まで来た時、広間の周囲から、複数のアースリザードの咆哮が聞こえてきた。
―――グォォォ!
広間は、複数のトンネルと繋がっているらしく、そのそれぞれから、アースリザードが姿を現した。
その数、10匹。
佐藤が、焦った声を上げた。
「ま、まずい! みんな、散開しろ!」
僕等を包囲するような位置に出現したアースリザード達が、一斉に襲い掛かってきた。
こちらは、佐藤や関谷さん含めてC級3人、D級7人、そして僕。
数は同じだが、D級モンスターであるアースリザードは、1匹で、こちらのD級6人と渡り合える力を持っている。
これまでは、アースリザードは、ほぼ単体でのみ出現していたので、苦も無く倒せていたが、10匹まとめてとなると、さすがにメンバー全員の顔が引きつっている。
乱戦になり、今までは佐藤が守っていた関谷さんも、アースリザードと直接対峙せざるを得なくなっていた。
関谷さんは、C級とは言え、ヒーラー。
元々、戦闘力は、それほど高くは無さそうであった。
それでも、C級の高い身体能力を生かして、なんとかアースリザードの攻撃を躱していた。
しかし、彼女の死角から襲い掛かってきた一匹の攻撃に、対応が遅れたのが見えた。
僕は、荷物を背負ったまま、咄嗟に、関谷さんに駆け寄り、彼女を突き飛ばした。
彼女の代わりに、僕は、アースリザードの攻撃をまともに食らい、弾き飛ばされた。
幸いにも、背負った荷物がクッション代わりになったのか、結構な距離飛ばされたにもかかわらず、身体にそんなに痛みは無かった。
慌てて起き上がった僕に、先程のアースリザードが追い打ちを掛けてきた。
僕は、ダメもとで腰に差していた鉄の小剣を抜き、斬りつけてみたが、大してダメージは通っていないようであった。
そこへ、関谷さんが駆け寄ってくるのが見えた。
「中村さん! 今治しますから!」
関谷さんはこちらに向けて駆けながら、何事かを呟いた。
彼女の右手が淡く水色に発光した。
水属性の回復魔法を準備しているらしい。
僕に襲い掛かっていたアースリザードが、駆け寄ってくる関谷さんに気付き、彼女の方を振り向いた。
「関谷さん、僕は良いので逃げて下さい」
「何言ってるんですか! HPもう残り少ないでしょ!?」
言われて僕は、ハっとした。
そうか、関谷さん的には、F級の僕が、アースリザードに弾き飛ばされたのを見て、重傷を負った、と思っているのだ。
「大丈夫です。こう見えても身体は頑丈なので」
「F級なのに、頑丈なわけないでしょ!」
やや怒りながら関谷さんは、アースリザードの攻撃を躱して、僕の傍にやってきた。
そして、すぐに水色に発光している右手を僕の胸に押し当てた。
温かい何かが、僕の身体を駆け巡った。
その途端、関谷さんが、一瞬、
「えっ……?」
しかし、次の瞬間、またもアースリザードが、僕等に襲い掛かってきた。
僕は、咄嗟に関谷さんを抱きかかえたまま横にごろごろ転がって……
「うわっ!?」
急に体が宙に浮いた。
そして、数秒後……
―――ドサッ!
僕等は、縦穴の底に落下していた。
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