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第9話 F級の僕は、ファイアーアントに殺されかかる
第9話 F級の僕は、ファイアーアントに殺されかかる
5月11日 月曜日2
「どうするかな……」
既に答えは出ているのだが、均衡調整課を出た僕は、
一応、異世界で手に入れた魔石は、疑われる事無く、受け取ってもらえた。
と言う事は、今週は、嫌な思いをしてまでダンジョンに潜る必要は無い。
毎日夕方、手持ちの魔石を均衡調整課に届ける簡単なお仕事をこなせば良い。
そして、週末土日に異世界イスディフイに行って、アリアと一緒に冒険して、レベルを上げて、魔石を手に入れて……
―――ハァ……
僕は、溜息をついた。
「やっぱり、ダンジョン、潜るしかないか……」
僕の弱さは、周知の事実。
そんな弱い僕が、誰かと一緒にダンジョンに潜る事無く、魔石をどこかから手に入れて、ノルマを達成し続ければ、必ずいつか疑われる。
異世界に完全に移住する気が無い僕は、やはり、この世界で現実的な選択をせざるを得なかった。
僕は一旦自分のアパートに戻ると、準備を済ませて、スクーターに跨った。
そのまま、亀川上流のN市亀川第二ダンジョン目指して、スクーターを走らせた。
僕が到着すると、今日、山田達とダンジョンに一緒に潜るメンバーは、既に全員が集まっていた。
D級の山田をリーダーに、後は、同じD級の女性1人、E級の男女6人、総勢8人のメンバー。
彼等とは、大体、週1~2回、一緒にダンジョンに潜るので、顔だけは知っている。
ただし、僕からすれば、あくまでも顔だけは知っている、という人間関係。
彼等全員が、山田と同じく、僕を見下しており、時々些細な事で殴ったり、嫌がらせをしてくれたりする、そういう人間関係。
「おせえよ、ナカ豚!」
山田に殴られ、周りから嘲笑されながら、僕は、メンバー達の荷物を一つにまとめ、背中に背負った。
「あれ? 少し軽くなった?」
集まっているメンバーや荷物の量に変わりは無さそうであったが、明らかに体感荷重が変化していた。
レベルアップの恩恵だろうか?
山田達は、そんな僕の変化に気付く様子も無く、談笑しながら、ダンジョンへと入って行った。
僕も、慌てて彼等の後を追った。
N市亀川第二ダンジョンに潜るのは、もうこれで10回目位だろうか?
天然洞窟のような場所に、アリのようなモンスターが徘徊するダンジョン。
ただ、アリはアリでも、一匹一匹が、人間の成人男性を上回る大きさがあるのだが。
しばらく進むと、一番前を歩いていたE級が、後ろの仲間に指でサインを送ってきた。
どうやら、早速、巨大アリ――ヒュージアント――が、一匹出現したようだ。
ヒュージアントの方も、僕等を見つけたらしく、大あごを開いてこちらを威嚇してきた。
人間と同様、モンスターもその強さに応じて、等級で分類されていた。
最強と目されるモンスターは、S級。
以下、A、B、C、D、Eの順に弱くなる。
ヒュージアントは、E級。
モンスターの中では、最も弱いカテゴリーに分類されている。
とは言え、1匹倒すのに、最低でも、E級が6人は必要とされる位には強い。
僕は、戦闘に巻き込まれないようにするため、素早く物陰に移動した。
山田達は、手慣れた感じで、ヒュージアントを翻弄し、数分程で仕留める事に成功していた。
死んだヒュージアントは、魔石1個を残し、光の粒子となって消滅した。
E級のモンスターは、運が良ければEランクの魔石、運が悪ければFランクの魔石を落とす。
今回落ちていたのは、Fランクの魔石だった。
彼等は、それには見向きもせず、戦闘の構えを維持したまま、次の獲物を求めて、前方へ進んで行く。
僕は、黙って魔石を拾い、背中のリュックに放り込むと、彼等の後を追いかけた。
3時間ほどかけて、山田達は、17匹のヒュージアントを仕留めた。
今、僕のリュックサックには、今回の戦利品として、Eランクの魔石4個とFランクの魔石13個が入っていた。
時刻は、午後6時を回っている。
山田は、仲間達の疲労具合を確認すると、皆に声を掛けた。
「そろそろ戻るか」
皆が頷き、出口へ引き返そうとした矢先、洞窟内に、咆哮が響き渡った。
――ギィィィィ!
そして、洞窟の暗がりの向こうから、ヒュージアントの倍はある、巨大アリが現れた。
その体表は、赤く輝いていた。
「お、おい! ありゃ、ファイアーアントじゃねえか?」
「なんで、E級のダンジョンに、C級のモンスターが出やがるんだよ!?」
皆がパニックになる中、ファイアーアントは、その巨体に似つかわしくない素早さで、こちらに近付いて来た。
そして、手近な場所にいたE級の男に襲い掛かってきた。
―――グシャッ!
嫌な音がして、E級の男の頭が、ファイアーアントの巨大なあごに噛み潰された。
「ひ、ひぃぃぃ!」
「た、助け!?」
「おい、落ち着け! 慌てたら相手の思うつぼだ!」
山田が懸命に指示を飛ばすが、統制を失ったE級の仲間達は、次々とファイアーアントに殺されていく。
もう一人のD級の女が、風属性の攻撃魔法を使用した。
真空の刃が、ファイアーアントに襲い掛かったが、それは、僅かに体表を傷付けたのみ。
怒ったファイアーアントは、D級の女に向き直り、彼女を噛み砕こうと襲い掛かった。
そこに、山田が立ち塞がった。
「くそぉ!」
山田は、恐らく防御力向上と思われるスキルを使いながら、ファイアーアントの大あごによる攻撃を押し留めようとした。
刹那のせめぎ合いの末……
―――グシャッ!
先程まで山田だったものは、肉塊と化していた。
「いやぁぁぁぁ!!」
山田の返り血を浴びたD級の女が、蹲って悲鳴を上げた。
ファイアーアントは、大あごをカチカチ鳴らしながら、彼女に近付いた。
そして、彼女を無造作に咬み殺した。
気付くと、僕以外の仲間達は、全滅していた。
ファイアーアントは、腰が抜けて動けなくなっている僕に、ゆっくりと近付いて来た。
僕は、表情が無いはずのその顔に、残忍な笑みが浮かんでいる錯覚に陥った。
「逃げなきゃ 逃げなきゃ 逃げなきゃ……」
頭では分かっているのに、身体が言う事を聞かない。
今、僕は、長袖Tシャツに、ジーンズ、そして、背中にリュックサックという出で立ち。
戦闘を行わない前提の荷物持ちだから、武器も防具も身につけていない。
もっとも、異世界イスディフイの時のように、鉄の小剣と皮の鎧を装備していた所で、なんとかなる相手とも思えないけれども……
異世界イスディフイの時のように……?
そうか!
もしかしたら、ここから逃げられるかも?
僕のすぐ傍までやってきたファイアーアントが、大あごを大きく広げた。
僕は、懸命に心を落ち着けながら、念じた。
「【異世界転移】……」
―――ピロン♪
緊迫した今の場面とは、明らかに不釣り合いな、間の抜けた効果音と共に、ポップアップが出現した。
イスディフイに行きますか?
▷YES
NO
ファイアーアントの大あごが視界一杯に広がる恐怖の中で、僕は、▷YESを選択した。
次の瞬間、僕は昨晩泊った『暴れる巨人亭』2階の客室にいた。
窓から差し込む夕日が、部屋を茜色に染め上げていた。
「た、助かった……のかな?」
心臓の鼓動が落ち着くのを待ってから、僕は、改めて自分の状況を確認した。
僕の格好は、長袖Tシャツに、ジーンズ、そして、背中にリュックサックという、先程までと同じもの。
そして、幸い、部屋の中には、誰もいないようであった。
「どうしよう? もしかして、【異世界転移】のYESを選択する時に、行きたい場所を念じれば、その場所に転移出来たりしないかな?」
僕は、もう一度念じた。
「【異世界転移】……」
―――ピロン♪
地球に戻りますか?
▷YES
NO
僕は、自分が借りているアパートの一室を思い浮かべながら、▷YESを選択した。
次の瞬間……
僕は、再びあの洞窟に転移していた。
それも、ファイアーアントに咬み殺されそうになった場所から、1mmたりとも移動する事無く。
ただ、再びここに戻ってくるまでに、少し時間が経過していたせいか、ファイアーアントは、こちらに背を向けて、歩み去ろうとしていた。
「そ、そんな……」
思わず漏れた僕の呟きに反応したのか、ファイアーアントが、こちらを振り向いた。
そして、僕に気付くと、素早く、こちらに移動してきた。
まるでデジャブのように、ファイアーアントの大あごが、視界一杯に広がる中、僕は、再び【異世界転移】のスキルを発動した。
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