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第8話 F級の僕は、大学の講義に出席する
第8話 F級の僕は、大学の講義に出席する
5月10日 日曜日7
ひと眠りした僕は、天井を見上げていた。
いつもの何の変哲も無い木目が目立つ板張りの……
って、あれ?
―――ガバッ!
僕は、慌てて飛び起きた。
いつものボロアパートの天井は、白いクロス張りだ!
だんだん意識が覚醒してきた僕は、自分がまだ異世界にいて、宿のベッドの上でうたた寝していた事に気が付いた。
今、何時くらいだろう?
少なくとも、窓の外は、真っ暗だった。
僕は、ベッドから起き上がると、部屋から出ようとして、扉を開けた。
何かがひらひら舞い落ちた。
拾い上げると、それは、一枚の紙切れだった。
扉に挟んであった物だろうか?
『先に夕食済ませとくね。夜中に起きて、お腹空いていたら、マテオに言えば、何か出してくれるよ』
綺麗な字でメッセージが書かれていた。
多分、アリアだろう。
そう言えば、一休みしたら一緒に夕ご飯食べようって話していたっけ?
アリアに悪いことしたな……
少し後ろめたい気分になりながらも、急にお腹が空いていた事を思い出した僕は、階下に下りてみた。
一階のカウンターでは、マテオさんが、手持無沙汰な感じで座っていた。
「よ、起きたのか? アリアが寂しがってたぜ?」
「アリアには、あとで謝っておきます。マテオさん、まだ起きてらっしゃったんですね」
「そろそろ寝ようかと思ってたとこだけどな。どうする? 夕食、残り物なら出せるけど」
「お願いします」
一階の隅には、宿泊者向けの食事をするスペースが設けられていた。
僕は、その一つに腰を下ろした。
しばらくすると、マテオさんが温め直してくれたらしいシチューを持ってきてくれた。
シチューは、僕の良く知るクリームシチューとよく似た味わいで、なかなかに美味しい。
何かの肉が入っていたので、聞いてみると、ウサギ肉、との事であった。
そうか、今日僕等が手に入れたウサギ肉って、こうやって流通していくんだな……
僕が、感慨にふけっていると、マテオさんが、話しかけてきた。
「タカシは、今日から冒険者になったんだって?」
「そうなんですよ」
「ここ来る前は、何してたんだ?」
「すみません、実は、ちょっと記憶喪失状態なんですよ」
僕は、記憶が曖昧なまま、気付いたらスライムに襲われていたのを、アリアに助けてもらった、と説明した。
「そうかい。そりゃ、災難だったな。まあでも、アリアが、そんな見ず知らずの人間と仲良くしてるなんてな……」
マテオさんが、なぜか若干遠い目をした。
「アリアって、ずっと一人で冒険者してるんですか?」
「ああ、そうだ。まあ、あいつも色々あったみたいだからな」
「色々?」
「ハハハ、気になるなら、直接本人から聞きな。もしかしたら、タカシになら話すかもしれないぞ」
やがて食べ終わった僕は、お礼を言って2階の自分の部屋に戻った。
さて……
僕は、心の中で、念じてみた。
「【異世界転移】……」
―――ピロン♪
いつもの効果音と共に、ポップアップが出現した。
地球に戻りますか?
▷YES
NO
どうやら、ちゃんと戻れそうだ。
僕は、ポップアップを出したまま、手近な紙切れに、アリアへのメッセージを書き記した。
『今日は色々ありがとう。急にいなくなってごめんなさい。戻ってこられたら、『暴れる巨人亭』に、また顔を出します。これは少ないけど、今日のお礼です』
そして、机の上に置いたその紙切れの上に、この世界のお金、10万ゴールド分のコインが入った袋を、重し代わりに乗せた。
そして、とりあえず、自分の荷物を周りに集めてみた。
全部持って帰れるかな?
特に、今懐に入れてある11個のFランクの魔石は、是非持って帰りたい。
祈るような気持ちで僕は、▷YESを選択した。
次の瞬間、僕は、見慣れたボロアパートの一室に戻って来ていた。
周りに目をやると、異世界イスディフイで買った皮の鎧や鉄の小剣、そして、残金10万ゴールド分のコインが詰まった袋等、諸々の荷物も一緒についてきていた。
そして、懐を確認すると……
「あった!」
11個のFランクの魔石。
仮に、この魔石を提出してノルマ達成認めてもらえるなら、僕は少なくとも、今週はダンジョンに潜らなくても良い事になる。
改めて、今日の出来事が夢では無かった事を確信した僕は、机の上の時計に目をやった。
5月11日 月曜日1
――AM01:00
日付は変わって月曜日になっていた。
どうやら、イスディフイと地球とは、時間の進み具合は同じ。
そして、少なくとも、イスディフイにあるルーメルの街と、ここ地球で僕の住むN市との間には、時差も無い事が推測出来た。
寝よう……
明日は、朝から大学の授業がある。
僕は、着替えを済ませると、万年床に潜り込んだ。
翌日、午前中1コマ目の講義の後の休み時間、僕は、いつものように椅子に腰かけながら、ぼーっと窓の外を眺めていた。
すると、誰かがニヤニヤしながら、近付いて来た。
短い髪を黄色に染め、筋肉質のその体格は、僕よりも一回り大きい。
D級で、皆でダンジョンに潜る時には、体格通りのステータスの良さを生かして、いわゆるタンク役を務めている。
一応、同じ大学の同級生だが、多分、向こうは、僕の事を“同級”生だなんてこれっぽっちも思っていないはずだ。
山田は、僕の所までやってくると、明らかに見下した態度で声を掛けてきた。
「よお、可哀そうなお前の為に、また荷物持ちの仕事、持ってきてやったぞ。今日、亀川のいつもの場所に、午後3時集合な」
亀川のいつもの場所。
それは、N市亀川第二ダンジョンの事であった。
N市を流れる亀川の上流、山間部にあるそのダンジョンは、均衡調整課の判定では、最低ランクのE級。
それは、そのダンジョン内のモンスターを倒すのに、最低でもE級以上で無いと不可能という事を意味していた。
ちなみに、日本に存在するダンジョン内のモンスターは、どんなに装備を揃えようとも、どんなに人数が集まろうとも、F級のみでは倒せない。
それ位、FとEの間の等級による差は、歴然としていた。
僕のようなF級は、山田のような“強者”に同行させて貰って、そのおこぼれに預かる以外、ノルマを達成する手段は皆無と言う事だ。
だから、僕は、今までも何度か、山田達がダンジョンに潜る際、荷物持ちとして同行していた。
別段、彼等と仲が良いわけでは無い。
むしろ、彼等にとって、僕は、最低ランクの魔石1個でこき使えて、時々虐めてストレス発散できるおもちゃのような存在のはずだ。
しかし、今、僕はFランクの魔石を11個持っている。
「今日は、遠慮しとくよ」
僕の言葉を聞いた山田は、意外そうな顔になった。
「おいおい、お前、ノルマどうするんだ?」
「今日は、午後聞いておきたい講義もあるし……」
「そんなの、紙切れ一枚で済む話だろうが」
大学の講義は、ノルマ達成のためなら、届け出を提出すれば、ペナルティ無しで欠席可能だ。
「それはそうだけど……」
僕が他の上手い言い訳を考えていると、山田が苛ついた声を上げた。
「ナカ豚のくせに、ナマ言ってんじゃねえよ。てめぇが来なけりゃ、誰が俺らの荷物運ぶんだよ? あ?」
僕は、胸倉をいきなり掴まれた。
「てめぇは、俺達の言う事、素直に聞いときゃいいんだよ! いいか、ちゃんと来ねぇと、ぶっ飛ばすぞ?」
ちゃんと行っても、ぶっ飛ばされる事多いんだけど。
僕が黙っているのを了承と受け取ったのか、山田は、肩を怒らせながら、自分の席へと戻って行った。
昼食後、僕は迷った末、一応、午後の講義の欠席届を提出した。
そして、その足で、均衡調整課に向かった。
均衡調整課は、月曜の午後早い時間という事もあってか、それほど混んでなかった。
三つある受付窓口の内の一つには、いつもの更科さんが座っていた。
僕は、彼女の座る窓口に近付くと、透明シールド越しに、彼女に声を掛けた。
「すみません、いつもの、持ってきたんですが」
僕は、異世界イスディフイで倒したスライム由来のFランク魔石を1個、懐から取り出し、彼女に手渡した。
「あら、中村さん。今週は早いですね? もしかして、今日は朝から、どこかのダンジョンに潜ってたんですか?」
僕は、毎週、日曜日は、完全休養日に当てていた。
なので、早くても、ダンジョンに潜るのは、月曜午後以降であった。
従って、均衡調整課への魔石持ち込みも、月曜夜か、火曜日以降になる事が多かった。
その事を知っている更科さんは、少し驚いた顔をした。
「まあ、そんなところです」
「中村さん、大学生でしたよね? 授業あんまりさぼっちゃダメですよ?」
「ハハハ……」
更科さんと世間話をしながらも、僕は内心少しドキドキしていた。
見た目は同じだが、僕が持ち込んだのは、異世界由来の魔石。
地球産との違いでも見抜かれたら、話がややこしくなりかねない。
更科さんは、僕の心配も他所に、魔石を調べると、いつものように証明書を発行してくれた。
「はい、Fランク魔石1個、確かに受領しました」
僕は、ホッと一息ついて、均衡調整課を後にした。
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